目覚め①

目覚めると、視界に見えるのは高い天井。


…?


ボーッとした状態のまま、ゆっくりと体を起こした私は、


「いたたっ!」


突然の激痛に頭を両手で押さえた。


ううっ…。

この痛みには覚えがある。これはアレだ。

二日酔いだ。

ガンガンと、痛む頭のせいで涙が出てくる。



潤む瞳に映るのは、白を基調とした品の良い家具。白い猫足のテーブルに白くて可愛いソファ。

寝ているベッドはふわふわのフカフカで…明らかに高そうな造りだ。


…と言うか、室内が全部高級品っぽい…。

私の給料では一生かかっても手に入れられないだろう。


…ここはどこだっけ?


ぐるっと視線を巡らせていると、ベッドの右横にある、これまた白くて可愛いドレッサーで目が止まる。


鏡には、腰まで伸びた蜂蜜色の縦ロール。

長い睫毛に縁取られた大きくてちょっと釣り目がちな、アメジスト色の瞳。

まるで西洋のビスクドールを思わせる美少女が写っている。


ビスクドールは辛そうな表情で頭を押さえている。

どうしたんだろう?具合でも悪いのかな?


『大丈夫?』

そう言おうと口を開くと、鏡の中の少女も口を開く。


手を振ろうとすると、少女も真似をする…。


試しにバイバイと手を振る。




…あれ?


不釣り合いにも頭を押さえたビスクドールは……私だ。



ベッドから降りてドレッサーの側に寄る。


鏡をジーっと見ていると、段々と色々思い出してきた。


わたくしは【シャルロッテ・アヴィ】12歳。

アヴィ公爵家の末娘。


父の兄であり、ユナイツィア国の王様でもあるアルベルト叔父様が、御忍びで遊びに来ていて…

夕食の時に出されていたエールを叔父様に勧められるがままに飲んで…倒れたんだ。


飲んで分かったけど、エールは不味かった。


やっぱりビールはキンキンに冷えたのを、ぐっと飲み干すのが良いんだよねー。


わたしはそれが一日の締め括りのご褒美だと思ってた。


わたし


あれ?

わたくしは12歳で、お酒はまだ飲めない年齢の筈。

…それで今日初めて口にして倒れたんだよね??


ビールが美味しいと思う私は誰?


お酒が飲めない私は誰?


頭の中のがぐちゃぐちゃだ。二日酔いのせいもあって痛いし…。


鏡の中の自分を見つめたまま、首を傾げていると、遠くからバタバタと音がして来た。その音はこの部屋の前で止まり…


「シャルロッテ!!」


突然、ドアが乱暴な位に開けられ、紳士淑女らしからぬ慌てた様子の男女が部屋の中に入って来た。




「目が覚めたか!起きてて大丈夫なのか?」


心配そうに私の元に駆け寄ってくる30代半ば位の美青年はお父様だ。

蜂蜜色の柔らかいウェーブの髪をオールバックに纏めた、ターコイズブルーの綺麗な瞳が私を覗き込んで来る。


大きな声は頭に響く。


「少し頭が痛いけれど、大丈夫です…。」


だから、静かにして下さい。


「兄上には困ったものだけど、シャル…心配したぞ。無茶は程々にな。」


心配そうなお父様。


【エドワード・アヴィ】

アヴィ公爵の当主。王家の次男だったお父様は、当時公爵家の一人娘だったお母様に一目惚れをし、アヴィ家に婿入りしたのだ。婿入りした時に王位継承権は永久放棄し、兄である国王を支える道を選んだそうだ。



「良かった…。心配したのよ?」


そう言って、瞳を潤ませ優しく私を抱き締めてくれる女性はお母様だ。


「…ごめんなさい。お母様。」



【ジュリア・アヴィ】

蜂蜜色のロングヘアーを後ろで一つに緩く纏めている。私と同じアメジスト色の瞳を持つお母様。お父様が一目惚れしただけはある、優しくて美しい人だ。


それにしても…いつ見ても美男美女な両親だなぁ。



「シャルロッテはお転婆さんなんだね。」


お父様とお母様の後ろから、クスクスと笑うまだ幼さの残る声が聞こえた。

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