目覚め①
目覚めると、視界に見えるのは高い天井。
…?
ボーッとした状態のまま、ゆっくりと体を起こした私は、
「いたたっ!」
突然の激痛に頭を両手で押さえた。
ううっ…。
この痛みには覚えがある。これはアレだ。
二日酔いだ。
ガンガンと、痛む頭のせいで涙が出てくる。
潤む瞳に映るのは、白を基調とした品の良い家具。白い猫足のテーブルに白くて可愛いソファ。
寝ているベッドはふわふわのフカフカで…明らかに高そうな造りだ。
…と言うか、室内が全部高級品っぽい…。
私の給料では一生かかっても手に入れられないだろう。
…ここはどこだっけ?
ぐるっと視線を巡らせていると、ベッドの右横にある、これまた白くて可愛いドレッサーで目が止まる。
鏡には、腰まで伸びた蜂蜜色の縦ロール。
長い睫毛に縁取られた大きくてちょっと釣り目がちな、アメジスト色の瞳。
まるで西洋のビスクドールを思わせる美少女が写っている。
ビスクドールは辛そうな表情で頭を押さえている。
どうしたんだろう?具合でも悪いのかな?
『大丈夫?』
そう言おうと口を開くと、鏡の中の少女も口を開く。
手を振ろうとすると、少女も真似をする…。
試しにバイバイと手を振る。
…あれ?
不釣り合いにも頭を押さえたビスクドールは……私だ。
ベッドから降りてドレッサーの側に寄る。
鏡をジーっと見ていると、段々と色々思い出してきた。
アヴィ公爵家の末娘。
父の兄であり、ユナイツィア国の王様でもあるアルベルト叔父様が、御忍びで遊びに来ていて…
夕食の時に出されていたエールを叔父様に勧められるがままに飲んで…倒れたんだ。
飲んで分かったけど、エールは不味かった。
やっぱりビールはキンキンに冷えたのを、ぐっと飲み干すのが良いんだよねー。
…
あれ?
…それで今日初めて口にして倒れたんだよね??
ビールが美味しいと思う私は誰?
お酒が飲めない私は誰?
頭の中のがぐちゃぐちゃだ。二日酔いのせいもあって痛いし…。
鏡の中の自分を見つめたまま、首を傾げていると、遠くからバタバタと音がして来た。その音はこの部屋の前で止まり…
「シャルロッテ!!」
突然、ドアが乱暴な位に開けられ、紳士淑女らしからぬ慌てた様子の男女が部屋の中に入って来た。
「目が覚めたか!起きてて大丈夫なのか?」
心配そうに私の元に駆け寄ってくる30代半ば位の美青年はお父様だ。
蜂蜜色の柔らかいウェーブの髪をオールバックに纏めた、ターコイズブルーの綺麗な瞳が私を覗き込んで来る。
大きな声は頭に響く。
「少し頭が痛いけれど、大丈夫です…。」
だから、静かにして下さい。
「兄上には困ったものだけど、シャル…心配したぞ。無茶は程々にな。」
心配そうなお父様。
【エドワード・アヴィ】
アヴィ公爵の当主。王家の次男だったお父様は、当時公爵家の一人娘だったお母様に一目惚れをし、アヴィ家に婿入りしたのだ。婿入りした時に王位継承権は永久放棄し、兄である国王を支える道を選んだそうだ。
「良かった…。心配したのよ?」
そう言って、瞳を潤ませ優しく私を抱き締めてくれる女性はお母様だ。
「…ごめんなさい。お母様。」
【ジュリア・アヴィ】
蜂蜜色のロングヘアーを後ろで一つに緩く纏めている。私と同じアメジスト色の瞳を持つお母様。お父様が一目惚れしただけはある、優しくて美しい人だ。
それにしても…いつ見ても美男美女な両親だなぁ。
「シャルロッテはお転婆さんなんだね。」
お父様とお母様の後ろから、クスクスと笑うまだ幼さの残る声が聞こえた。
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