第52話 狙撃衛星

「低出力とは言え、直撃したら洒落にならない! 出るよ!」

 俺は土岐さんに引っ張られるまま外に出た。

 外に出た俺たちに、再び天からの光の矢が襲い掛かる!

「——!」

 今度は俺の鼻っ面かすめて降ってきやがった!

 じりじり焼けそうなほどの熱が伝わってくる。

 だが、俺のこめかみと背中を流れたのは冷汗だ。命中したら確実にあの世逝きだ。

 本来は都市や建造物が目標となるはずのポジトロン・ブラスターで、人間を狙ってくるなんてえげつないにもほどがある。だからといって、街ごと焼かれるのもゴメンだが。

 ポジトロン・ブラスターの通常の使用方法だと、辺りへの被害が甚大になる。スパイラルとしては表沙汰にはしたくないから、俺たちを消すにしても、秘密裏に行いたい――だから、こんな狙撃紛いの方法にせざるを得なかったんだろう。

「大は小を兼ねる」とは言うが、ピンポイントで人間一個体を狙うってのは、その用途から考えても無理難題だ。

「<STARS>にアクセスしてるこのスマホから大まかな位置を割り出してるみたいだね。……でも、これを切断する訳にはいかない!」

「でも、パソコンがなくなったんじゃ、どーにもならないんじゃないんですか?」

 ポジトロン・ブラスターで、タカ姉のパソコンはおシャカになってしまった。俺の部屋にもパソコンはあるが、これと同じようにデスクトップPCだから、タカ姉のものの二の舞になりかねない。ここは携帯用が欲しい。

「この状況じゃ、背に腹は代えられないね」

 そう言いながら、土岐さんは大きなウェストポーチからゴーグルみたいなものを取りだすと、眼鏡のように掛けた。完全に目の部分を覆うそれは、スキーなどで使うゴーグルよりも一回り大きく、ごつごつした形状だ。

 口をあんぐりの俺に、土岐さんが解説をしてくれた。

「あ、これはリサーチャー・グラスγ――通称RG-γ。各種センサーを搭載したボク専用のスパコンってところかな。最初からこれを使ってもよかったんだけどね。一応、狙われても大丈夫なように、タカのPCを使わせてもらってたんだ。でもまさか、本当にポジトロン・ブラスターで撃ってくるとはなぁ……」

 苦笑しながら、RG-γとやらの簡単な解説していた土岐さんの双眸が「よーしっ!」の一言で鋭くなる。

 確かに、今度は身体に密着しているコンピュータを使う訳だから、逃げ出すのは容易じゃない。気合いを入れたってことなんだろう。

 でも、キーボードとかは見当たらないし……音声入力でもするのか?

 そう考えた矢先、土岐さんは今度は左手をまさぐっている。

「――!」

 今のメガネ型スパコンに輪を掛けて驚いたのは、土岐さんの腕からコードが引っ張り出されて、俺のスマホと共にRG-γに接続されたことだ。

 またも目を丸くする俺に、土岐さんは「ああ、コレね」と苦笑する。

 土岐さんの左腕も幸の両眼と同じようにサイバネティクスなのだそうだ。なんでも、高校時代に事故で左腕を失って以来、このサイバネティクスの腕が付いている。ただ、普通のものじゃなく、ワイヤーアンカーやエア・キーボードなどなど、各種機能を備えた特別製らしい。

 今、ゴーグルに繋いだのはエア・キーボードってのを使う為のようで、無線でも使えるが、有線の方が確実なので接続したそうだ。

 全く驚かされることばっかりだ。……先進科学者ってのは、みんなこうなのか?

 走りながらも、土岐さんの左手が凄い勢いで動いている。

 キー操作をしてるんだろうが、傍から見てると、怪しげな動きにしか見えない。

 ……なるほど、エア・キーボードね。各指の位置からの相対座標で、それぞれのキーを設定してあるのか。

 掛けたゴーグルのガラス部分に文字みたいなものが表示されては流れていく。

 この間にもポジトロン・ブラスターは数発打ち込まれていた。俺たちが走る後ろに着弾してるみたいで、風に乗って焦げた臭いが鼻を突く。

 今のところ、周りの建物や人に損害が出ていなさそうなのは、不幸中の幸いだが、何時誰に当たるとも限らない。それに、この発射頻度を考えると、このままじゃ下手な鉄砲何とやらで、何時か俺たちに命中して真っ黒焦げになっちまう。

 とにかくここから逃げ出さないと!

 今度は俺が土岐さんの手を引っ張る番だった。

「ちょっと、衛太郎クン! 何処行くのよ!」

「……このままじゃ何時か丸焦げです。とにかく、俺に付いてきて下さい!」

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