第39話 目にもの見せてやる!

 一方的に捲し立てるように告げるとミユキの姿は消えた。代わりに、画面には学校近辺のマップと点滅する赤い光点が表示される。

 ……まだ学校敷地内か。この位置からなら、何とか外に出る前に押さえられる!

「ありがとよ、ミユキ! 助かるぜ!」

 走りながら、もう一度ポケットをまさぐりヘッドフォンマイクを取り出すと、スマホに繋いで耳に突っ込んだ。

「いいぜ!」

「――了解、伊東衛太郎。感度は良好?」

「ああ、バッチリだ! とにかく、次の指示を頼む」

「――了解。百メートル先にある体育館脇の倉庫の壁に潜んで、待ち伏せて。ワタシの合図とともに襲撃よ」

「分かった。カウントダウンは『3』からで頼む」

「――了解」

 体育館裏からここに到るルートは体育館と高い壁に挟まれた場所だ。人目に付きにくい分、がらくたやゴミが多く散乱し、非常に歩きにくい。俺が待ち伏せようとする倉庫のある場所から開けて、校外にも出られるようになる。

 ミユキをさらった奴も、このルートを選んだことを後悔してるに違いない。俺はここを使って、よく授業をサボっているけどな。

 倉庫には予定通りに到着した。

 学祭中で、この時間でも校内に残っている人間は多い。しかし、この辺りには人っ子一人居なかった。

「よーし、こっちの準備はオーケーだぜ。ミユキ、幸の状態はどうなんだ?」

「――幸は現在も昏倒中。でも、生命に別状はないわ」

 どんな手使ったかは知らんが、ロクでもねーことしやがって。見てろよォ、テメーも同じ目に遭わせてやっからな!

 壁に張り付いたまま息を殺し、感覚を最大限に研ぎ澄ます。

 何やら色々踏ん付けながら、こちらに音が向かってくる。

「――伊東衛太郎! 3……2……1――」

「ゼロ!」

 刹那、俺は物陰から飛び出した。だが、勇み足で少しタイミングが早かった。

 俺は不埒者の目前に躍り出る形になっていた。

「――!」

 気を失っている幸に肩を貸したような状態の人影がそこにあった。

 確かに黒いライダースーツに身を包み、ヘルメットを被っている。

「何処連れてく気なんだよっ!」

 言うと同時にハイキックを叩き込む。しかし、意外にも早い身のこなしで、あっさりと避けられる。それどころか、幸をその場に放し、俺と対峙する。

 俺は手刀を叩き込み、回し蹴り繰り出すも、相手は寸でのところで見切っていた。

「やるじゃねーか。……だったら、これはどうだ!」

 俺は必殺の後ろ回し蹴りを囮にローキックに繋げて、相手を転ばせる算段だった。

 だが――

 パン、と乾いた音と同時に俺の脇腹が熱くなった。

「な……に!」

 手で触れたそこは何故か濡れていた。

 ライダースーツの手には拳銃らしきものが握られている。

 ……俺は……撃たれた……のか?

 だが、怯んでいる場合じゃない! 幸を助けねーと!

 次第に熱い部分から痛みが走り始める。

「ぐあっ!」

 俺は膝を突いていた。痛みが次第に大きくなってくる。

「残念ね。でも、これは高校生のお遊びじゃないの。申し訳ないけど、佐寺幸は確保させてもらうわ」

 ヘルメットの奥から聞こえてきた声は女のものだった。

 ライダースーツが再び幸を担ぐ。

「み……幸!」

「死にたいの? そのまま動かなければ、死ぬことはないわ。……ま、誰かが見つけてくれればの話だけど」

「妹を……助けられない……兄貴……なんざぁいらねぇんだよぉ!」

 渾身の叫びと乾坤一擲の正拳をライダースーツに向けて叩き込む。

 しかし、手負いの一撃は一歩及ばなかった。

 あと、五センチ踏み込めれば――

 俺はその場に倒れ込んだ。

 ライダースーツの足らしきものが俺を仰向けに転がす。

「勇猛さは、時には死をもたらすわ。……惜しかったわね」

 銃口が俺の眉間を狙っていた。

 ――万事休すか!

 刹那、俺を狙っていた銃口が消えた。

 続けざまにライダースーツの身体に正拳が叩き込まれる。

「――!」

 見るからにライダースーツが驚愕していた。想定外の出来事に対応しきれていないみたいだ。だが、それ以上に驚いていたのは俺だった。

「馬鹿な! 佐寺幸に! そんな……!」

 拳銃を蹴り飛ばし、正拳を叩き込んだのは幸だったのだ。

 電光石火の動きで拳を、蹴りを繰り出す。

 ライダースーツは防戦一方だった。

「……くっ!」

 幸は攻撃の手を緩めない。どう見てもあの運動オンチとは思えない流麗な動きで。……幸に一体何が起こったって言うんだ!

 ライダースーツに息を吐かせぬ連続攻撃で幸が攻める。そして、遂には体重の乗ったミドルキックがライダースーツの腹を捉えていた。

「ぐはっ!」

 ライダースーツは吹き飛ばされたものの、何とか腹を押さえて立っていた。

 幸の体重の軽かった為、決定打には到らなかったのだ。

「……」

 幸は一言も発さずに、ライダースーツを冷ややかに見ている。

 ライダースーツは後ずさりし始め、しばし幸との睨み合いを続けた後に、逃走した。

「……待……て」

 俺は後を追いかけようとして、立ち上がり掛け、また転倒した。

「無理はするな、伊東衛太郎」

 幸が口を開いた。

「――!」

 だが、幸ではなかった。幸の姿をして、幸の声を出しているが幸ではなかった。

 その口調、「伊東衛太郎」という呼び方、そして、抑揚のない声――

「……お、お、お前! ……まさかっ!」

「ええ、その通り。ワタシはミユキよ。<STARS>のミユキ」

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