脱出

「時間稼ぎが必要ないって、一体どういうことだ?」

哲郎からの思わぬ提案に困惑するジェームズ、


それもそのはず、今の今まで自分達が生き残る方法は、敵を倒すか、敵が守っている結界を壊して縄張りの外へ逃げ出すかのどちらかだと言われていた。



実際他には方法があるとも思えないし、一人で行動するには自分は力不足だと思い知っているジェームズは、今目の前のことに必死になるようにしていた。


それももはや叶わず、仲間も次々倒れ、全滅も目の前まで迫ってきた今。

ついに"死"を意識し始めたこのタイミングで時間稼ぎも必要ない第三の方法があると言う。


哲郎は生き残るためにはそれしかないというが、この絶望的な状況をひっくり返す何かがあるというだけでも十分すぎる希望となる。


「なんで今頃?もっと早くすればアドルフやカルロスも死なずに済んだんじゃないのか?」


声を張り上げそうになるのを必死に抑え、感情をギリギリに抑えて哲郎に迫るジェームズ、


「なら今まで俺たちがやってきたことはなんだ?全くの無駄だったんじゃないのか?」


哲郎の肩を掴んで揺さぶる。

「……違う」


「……見殺しにしたのか?二人を?」



「違う‼︎」

ようやく声を出した哲郎。


「ならなんでなんだ?説明してくれ‼︎」


納得がいかないジェームズは、哲郎に説明を求める。


「……それは、先の二つの方法で勝つことができれば問題ないと思っていたのと、あまりいい方法ではないから話題にしたくなかったからだ」


渋い顔をして言いにくそうに話す哲郎。


「……どういうことだ?」


哲郎の肩から手を離し、冷静になって話を聞く姿勢をとるジェームズ。


「それは、実質俺たちが負けた時ように設定されているらしい、最終手段なんだ」


哲郎は負けた、と最終手段という言葉に詰まりながら、話を続ける。

「……負け、とはつまり、全滅ということか?」

「そうだ。この世界には、地形、環境、敵の強さなど、様々な運の要素があるわけだが、その配置次第で敵に有利なゲームにになる時がある。これは生存者との力の差が著しく出た場合。つまりは一方的なゲームになりそうなときに働く調整システムみたいなのがあるんだ」


「つまり今のような、生存者が減り、魔法陣に触れる状況ではなくなった。反撃しようにも戦力に差が出過ぎている状況に働くということか?」


「そうだ。正確には敵がステージ3になっており、無力化できていない魔法陣が存在し、生存者が残り一人になった場合だ」


「……残り一人」


今哲郎が述べた三つの条件の内、敵のステージは3、無力化されていない魔法陣の存在は達成されている。

残る条件は、

「そうだ。あと一人、つまり俺かお前の死が条件となる」

「……条件が整うと何が起きる?」


どちらが死ぬかは聞かない。


哲郎の目を見ればわかるからだ。

先ほどの会話からも、哲郎は自分が死に、ジェームズにその最終手段を使わせる気なのだろう。


「このフィールドのどこかにワープゲートができるんだ」

「ワープゲート?」


また聴き慣れない単語が出てきた。


「そうだ。出るところはランダムだが、条件の内二つが揃うとどこかにその兆しが現れるんだおそらくすでにこのフィールド内のどこかに魔法陣ができているはず」


つまりはもう最後の一人が脱出するためのワープゲートは出現しているのだ。

それも魔法陣という形で。


「それも魔法陣なのか?」


ジェームズは他の魔法陣と見分けがつくのかを心配している。

いざ焦って飛び込もうにも、まだ無効化できていない魔法陣もあるのだ、間違えて敵の目の前に出てしまっては目も当てられない。


「ああ、だが大丈夫。結界を維持している魔法陣とは全くの別物だから」


哲郎は手近にある木の枝を手に持つと、地面に突き立てた。


「そうか、ちなみにどんなものか、聞いただけでわかるものか?」


「待ってくれ、今描くから」


哲郎は地面に突き立てた木の枝をそのまま動かし、絵を描いていく。


「……ざっとこんな感じだ」


満足げに頷く哲郎。


地面には、丸い円の中に渦のような絵が描かれている。


「わかった。ならこれを探せばいいんだな?」

「そうだ。今はただの落書きに見えるだろうが、発動すれば光るし一目瞭然、見つけるのは難しくないだろう」


「ならよかった」


とりあえずの疑問は晴れ、移動を始めようと腰を浮かすジェームズ。


だが何か、今の哲郎の言い方に若干の引っ掛かりを覚え、哲郎と目を合わせる。

「見つけるのは?」

「見つけるのは、だ」




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