少女『覚』

 他人の気持ちがわからないやつはクソだ。

 いや、わからないは言い過ぎた。

 他人の気持ちを考えられないやつはクソだ。

 自分が発する言葉で相手がどんな気持ちになるのか考えようともしないやつ。

 相手がどんな気持ちでその言葉を発したのか少しでも考えようとしないやつ。

 自分の尺度しか持ち合わせず、他人の言動が持つあらゆる意味を深く、あるいは浅くだって考えもせず、自分の尺度だけで意味を捉えてしまうやつ。

 挙げればキリがないけど、とにかくそういうやつらはクソだ。

 そして、そうやって頭ごなしに他人を否定するボクもまた、クソだ。


 クソみたいなやつ等は嫌いだ。

 だからボクは自分が嫌いだ。

 理解し難いことは嫌いだ。

 だからボクは他人が嫌いだ。


 だけどボクは嫌いなものほど好きであろうとする人だ。だから自分が好きだし、他人も大好きだ。

 だけどボクは好きなものほど壊したくなる人だ。そんな自分が恐ろしくて、ボクは無気力を装っている。

 無気力なボクは他人に関心を持つことはないし、他人から関心を持たれることもない。

 だけど装いなんて、少しの綻びから簡単に破れ、剥がれるものだから。だからボクは、綻びが他人の目に付く前に少しずつ装いを改め続けている。

 それなのに、


「おはよー、今日も元気そうだね、よしよし」

「は?」

「わあ、しかめっ面。ほら、笑顔、笑顔」

「やめ、ひっふぁるら」

「あはは!」


 自称『さとり』のこの女子クラスメイトは、ボクが被った無気力の仮面を剥がしにかかるように絡んでくる。

 まあどうせ、頭のおかしい中二病女なんだろうけど。なんだよ覚って、猿かなにか?


「あ、今の酷い」

「なにも言ってないでしょ」

「言わなくてもわかるの知ってて言ってるでしょ?」


 なんのことだろう。いつものことだけど、本当に頭の方は大丈夫だろうか、この……ナントカさん。

 まあ、明るく話しかけてくれる人は好きだから、あんまり酷いことは思っても言わないようにしよう。


「いやだから、口に出さなくてもわかるんだって」

「ボクは口下手だからその方が良いでしょ」


 心が読めるとか言う戯れ言がホントかどうかは置いておくとして。

 ボクは、彼女が口にする痛々しい設定に目を瞑れば結構このナントカさんに好意を抱いている。

 まあ好意って言うか好奇心なんだけど。

 それとなく拒絶してみているのに、それでもボクに話しかけてくるのはとても興味深い。もしかしてボクのことが好きなのだろうか?

 そんな馬鹿げた考えに、つい小さく吹き出してしまう。流石に今のは気色悪す

 デコピンされた。


「目の前に私がいるのに考え事なんて、失礼じゃない?」

「……だからってデコピンはない」


 ボクの中でナントカさんの評価が一段階ほど下がった。

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