第29話 刀の謎
「ところで、お前は何でこんなところに住み着いているんだ? 元々、海の魔物だったんだろう?」
その場に座り込んで魚の入った籠に手を突っ込み漁る半魚人にコルトは問いかける。
問いかけに一瞬体がピクッと反応し硬直したかと思うと再び何事もなかったかのように漁りだした。
「まあな。俺は元々海に住む魔物だった。当時はこんな奇天烈な姿じゃなくて、こいつらみたいな姿だったんだけどな……」
今までの勢いがなくなり、その背中はどこか寂しげに感じる。半魚人は手の上の小さな魚を見つめながら小さな溜息を漏らした。
「俺がこの姿になってから、どんどん海で生活出来なくなっていった。この力を持っているせいで俺の周りにいた連中は次々に死んでいったんだ。連中は自分の身が危ないと思って、俺を海から追放したんだよ。それから行き場を失った俺は、彷徨っているうちにこの湖を見つけたってところさ。そんな頃だったな、竜宮の加護なんていう力に目覚めたのは」
「なるほどな。お前はその加護を持つべくして持ったという事か」
半魚人の話を聞いていたコルトが一人で納得したように頷く。
コルトの反応から考えると、持つべくして持ったという点はポジティブに考えてよさそうな話ではなさそうだ。
まあ、結局どういうことなのかは分からないけれど。
「加護っていうのは、魔物に与えられた恩恵とか罰なんなの事をいうです。魔物が感じている罪の意識や、あるいは受ける事の許されなかった恩恵などが加護という形で与えられるです。半魚人さんの場合は、自身の力で仲間を死なせてしまった罪の意識と海から追放された事で海の恩恵を受けられない事が相まって、竜宮の加護という形で与えられたものだと思うです」
胃液でベトベトだったブラックムーンを洗い終わったニルがブラックムーンを自分のリュックへ押し込みながら説明してくれた。
「ちょっと待てよ? でも、何で竜宮なんだ? 普通に海の加護とかでも良くないか?」
「まあ、俺も未だにピンと来てねぇんだけどな。酒盛り泥酔ってのも竜宮の加護の力なんだけどよ、相手を酔っぱらいにするのがどう繋がってんのか分かんねぇんだよな」
「分かってないのに使ってたのかよ」
「良いじゃねぇか。結果的に嬢ちゃんは死なずに済んだんだしよ」
言っている事は外道極まりないけど、多分この半魚人は本当にニルを殺すつもりはなかったんだと思う。
だから酒盛り泥酔とかいう能力で戦闘できないように仕向けたんだろう。
「はぁ……そもそも、何でお前は決闘クエストなんか依頼したんだ? それにその報酬が竜宮の加護だなんてバカげていると思うぞ」
「まあ、ざっくり言えば力試しってところだな。この力を扱えるように特訓はしているけど、特訓だけしてても意味はねぇし、どれだけ鍛えられたか力試しが出来れば良いかなと思って依頼したのさ。それに加護ってのは元の所有者を殺さなきゃ受け継ぐことは出来ねぇしな」
「それじゃ、いつかやられてしまうんじゃないのか?」
「あり得ねぇな。少なくともアルミィにいる冒険者じゃ俺を殺せる奴なんていねぇよ。兄ちゃんの力は未知数だけどよ。そこの二人はかなりの実力の持ち主だって事は分かったな。今回の決闘は今までで一番楽しめたぜ」
そう言って片目を閉じる半魚人はコルトとニルに向かってグッドサインを送った。
とは言っても半魚人にとっては単なる力試し程度だったんだから本気で褒めているのかは謎だけど。
「……ん? ちょっと待って。俺の力が未知数ってどういう事だ?」
「は? どういう事って兄ちゃん。その腰にぶら下げてる剣から魔物の魔波を感じるぜ。途轍もなく微弱な魔波だからまず普通の奴には感じられないだろうけどよ」
「え? これから感じるのか!?」
俺は思わず鞘に収めた刀を抜いて刀身から柄まで舐めるように見つめる。
でも、変化があった事とすれば茶色い水晶みたいなものがいつの間にか窪みに嵌まっていたくらいで、何ら変わりはないはずだ。俺が見たところで何かを感じるわけなんてないけど……。
「二人は気付いていたのか?」
「い、いえいえ! ボクは全然気付かなかったです!」
二人にに目を向けるとニルは首を横に振っていたが、コルトは無言で小さく頷いた。
「お前に声を掛けた時から妙な違和感を感じていた。初めて見る武器だったというのもあったが、もっと気になった違和感がソレだ。そいつが言った通り、かなり微弱だから大抵の奴には感じる事すら難しいが……魔波の質からして魔物……それも、かなり弱い魔物の魔波だな」
「でも、何で武器から魔物の魔破が?」
他の武器にもそんな力があるのかとも思ったけど、コルトの反応からすればそれはあり得ないことくらいは分かる。やっぱり、この武器は他のより少し特別なんだろうか?
「その武器はどこで買ったんだ?」
「アルミィの武器屋で買ったぞ? 他の武器が軒並み扱えないみたいだったから、武器屋の店主がこの武器を倉庫から引っ張り出してきたんだけど……これだけは俺しか扱えないみたいでな」
「え? 剣も銃も槍も全部ダメだったですか? 何でその武器だけ?」
「俺にもよく分かんないんだけど……他の武器に触れようとするとバチって弾き返されたんだよ。これだけは反応がなくてさ」
「兄ちゃんからは欠片ほども魔破を感じねぇのに、持ってる武器からは感じるって……不思議な事もあるもんだな。
半魚人はうーんと唸りながら俺の武器を凝視している。でも、それ以上何か分かる様子もないようで俺はそっと武器を鞘に収めた。
「さて、私達はそろそろ帰るぞ。今回の件はこちらの完敗で報告しておこう」
「お、おう。そうか。また気が向いたら遊びに来いよ。俺はいつでも暇してるからよ」
俺達に親指を立ててグッドサインを送りながら、軽い口調で半魚人は言う。
本当、こいつはどこまでも余裕ぶってるよな。恨めしい!!
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