第4話 どうすりゃいいの?
「――ひぎゃああああ!」
「ひっ!?」
悪夢にうなされていた後の様な急激に意識が戻ってくる感覚がして、俺は驚きのあまり飛び起きた。俺の顔を覗き込んでいた一人の若い男が、急に動き出した俺に驚いて小さく悲鳴を上げる。
「お、おい。兄ちゃん。大丈夫か? 随分とうなされていたみたいだが」
男が動揺しながら声を掛けてくる。何が起こっているのか分からず混乱していたが、今までの事を思い出して自分の体を弄ってみた。だが、やっぱりパンツすらも履いていない素っ裸の状態で、俺は恥ずかしさのあまり前を隠す。
先ほどまでの曇天が嘘のように空には雲一つなかった。温かな陽射しが冷え切った体を温めてくれる。どこかの街中の公園に寝転んでいたようで周りは俺を白い目で見る群衆で溢れていた。
「……あ、あれ!? 俺、なんでこんなところに? 今まで戦場にいたはずじゃ?」
「え? 戦場? 何言ってんだよ、寝ぼけたのか?」
男は怪訝そうな表情を浮かべながら腕を組み、呆れたように言う。男は戦場にいた兵士とは違うタイプの甲冑を身に付けていて、腰には剣が収められていた。
甲冑を身に付けてるって事はこの人ももしかして……。
「うわあああ! 殺さないで」
「いやいや。兄ちゃん。なんで俺が兄ちゃんを殺さなきゃならないんだ」
「いや、だって。その物騒な物……」
俺は男の腰に収められている剣を指差した。明らかに違法なレベルの剣を所持しているし……いや、さっきの戦場からしてここが日本はおろか地球上に存在するどの国でもない事は分かっているんだけども、認めたくないというか、信じたくないというか……頼むから飾りだと言ってくれ!
「これか? 俺は衛兵なんだよ、こんなの持っていて当然だろ?」
衛兵は剣を軽く叩きながら答える。
確かにそうだな、日本の警察も拳銃を所持してるわけだし、剣を持っていてもおかしくないか。
「公園のど真ん中に素っ裸の男が突然現れたって報告があって来てみたが……兄ちゃん、一体何してたんだよ」
「えっと、何と説明して良いやら」
買い物に向かう途中でひったくり犯に刺されて、そのまま死ぬかと思ったらいきなり変なところで目が覚めて、服も持ち物も全部無くなってて、女騎士二人には罵倒されるわ、兵士達に追いかけまわされるわ、消し炭にされそうになるわ、変なトラップに引っかかったと思えば今度はこんなところに飛ばされるわって……何から説明すればいいんだ?
「とりあえず。今の格好は目立つだろ? ほら、これをやるから。さっさと新しい服でも買ってきな」
そういって俺から視線を逸らしながら、男は黒いローブをまるめて俺に投げてきた。上質そうな肌触りの良い布で作られているローブのようで見た感じかなり高価なものだろう。ローブを着た瞬間、ローブの布地の内側からじんわりと熱を帯び、体を全体的に温めてくれる。カイロでも仕込んであるかのようだ。
「とりあえず、ローブは返さなくていいから兄ちゃんはさっさと服を買いに行きな。金がなけりゃそのローブを売ったって構わない。それなりの価値はあるだろうしな。それじゃ、じゃあな」
「あっ! えっと……ありがとうございました!」
衛兵は溜息を吐くと群衆に向かって頭を下げてその場を立ち去った。俺はその背中に向かってお礼を言う。すると、こちらに顔は向けなかったが静かに手を挙げて反応してくれた。そういえば……名前くらいは聞いておけばよかったかな。
そう思って感謝しながらも、俺は盛大にため息を吐く。
色々と起こり過ぎて混乱していたけれど、これでようやく――
「――あれ? 俺、これからどうすりゃいいの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます