亡国覚醒カタルシス
もけもけちゃん
第一幕
一場
悲鳴を上げる暇もなかった。
今はただ、目隠しをされた状態で手を引かれ、城のどこを走っているのかも分からなくなっていた。
◇
花の都と謳われ近隣諸国からの観光が多く、また鉱山資源が多いため輸出で潤っている大陸一小さな国「ドゥシャ王国」。その第一王子の誕生祭が本日盛大に行われている。
貴族たちはみな宮殿に集まり、各々持ち寄った祝いの品が次々運ばれていく。彼らの領土で育った一等美しい花で染められた反物や、人が埋もれてしまいそうなほど大きなブーケ。色とりどりの宝飾品。なかでもひときわ目を引くのが、旅の一座による曲芸だ。
芸人たちは目が回りそうなほどくるくる、くるくると演技を披露し、広間からは大きな拍手と歓声が上がった。
「ドゥシャ王国万歳」
「デジレ王子万歳」
一方、今日の主役であるデジレ王子はじっと座っているのに耐えられずぐずり始めた。無理もない、彼は5歳になったばかりだ。王子は乳母にあずけられ、少しの間席を外すことにした。
「われわれ旅の一座の目玉!歌姫がこの国の歌を披露させていただきます」
座長の声と同時に芸人たちは道を開けた。その道を少女がゆっくりと歩いてくる。少女は引きずりそうなほど長く波打つ金の髪に、刺繍とフリルがたっぷり施された豪華なドレスに身を包み、真っ赤な別珍の目隠しをしている。
旅の一座に不釣り合いな出で立ちに、その場に居合わせた全員が息をのむ。誰もかれもが少女から目を離せない。
「デジレ王子、この日を迎えられたことを、心よりお祝い申し上げます」
鈴が鳴るかのような愛らしい声であいさつをする。王も王妃も少女に心を奪われてしまったかのように一瞬も目を離さない。肝心の王子は奥の部屋で泣いているというのに。
「すまないが、デジレは席を外させてもらった。まだ5歳でね、泣き出してしまったのだ」
「承知いたしました国王陛下。では、デジレ王子のもとへ届くよう、大きな声で歌います。涙が止まりますよう想いを込めて、まずはこの国の子守唄を」
うっとりするほどの歌声に、広間にいた人にとどまらず、門番、商人、城下の人々、すべての人が聞き惚れている。
「王子、涙は止まりましたか?」
「綺麗な声だね」
王子は自分がなぜ泣いていたのかを忘れてしまった。ソファーの上で暴れていたためクッションがそこらじゅうに散らばっている。それを困り顔の乳母が一つずつ拾い上げる。
「王子のお誕生日のお祝いに、芸人たちが見世物を出しているのです。これもそのうちの一つでしょう」
乳母が王子にブランケットをかける。
「晩餐会に招待するよう手配いたします。さ、少し横になって、そう」
王子は子守唄に耳を傾けながらゆっくりとまぶたを落とす。
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