魔物の国のアリス Part5

 はあ~暇だな~。

 エレナちゃんもリカちゃんもみ~んな遠征に行っちゃって誰もいないし。


 こういう時は大体ジンちゃんが護衛代わりに一緒に居てくれるのに……。

 今回はシャドウさんやライルさんとかの幹部が多く残ってるから必要ないって。


 お仕事も終わっちゃったし、早く皆帰ってこないかな~。

 

 そう思いながら部屋でダラダラとしていると、廊下で足音がし始めた。

 しかもその足音は複数。


 私とエレナちゃんの部屋は近くに割り当てられている。

 そして最近サンハイム森本に部屋をもらったリカちゃんも近い。


 もらった、とは言っても強引に空いてる部屋を使ってるだけなんだけどね。


 そんなわけで、この足音はエレナちゃんとリカちゃんのはず。

 私は勢い良く扉を開けて部屋から顔を出した。


「おかえり~!エレナちゃん、リカちゃんっ」

「ただいま……アリスちゃん」

「今戻ったわ!」

「ねえねえ、遠征どうだったの?話聞かせて!」

「うん、いいよ……部屋に荷物置いて来るから、待っててね」

「ミーティングにはアリスも参加しないといけないから、それまでね!」


 荷物を置いたリカちゃんと一緒に、エレナちゃんの部屋に押しかけた。


「えと……何で私の部屋なの……?」

「エレナちゃんの部屋が一番居心地がいいんだよね……何かいい匂いするし……うしし……」

「アリス……あんた本当にオッサンくさいわよね……」


 あっ……リカちゃんが引いてるの初めて見たかも。

 いつの間にか私の事呼び捨てになってるし……。

 

 それから話は今日の遠征の事になった。


「へえ~地面を揺らす巨大な亀ね」

「うん……まだあの揺れには慣れないから……怖かったな」


 怖がるエレナちゃんか……見たかったわ~。


「大丈夫よ、何があってもエレナちゃんは私が守るから!」

「リカちゃん……ありがとう」

「リカちゃんって本当に男らしいよね……あっ、もちろんかっこいいって意味よ」

「ありがとう!」


 本当はああ言う台詞をヒデオ君からエレナちゃんに言わせたいんだけどね。

 そう言えばエレナちゃん、ヒデオ君とは今日も何もなかったのかしら……。


 そんな事を考えていると部屋の扉がノックされた。


「皆こっちにいたのね」

「お邪魔しま~す!」


 部屋に入って来たのはシオリちゃんとソフィア様。

 精霊様にも慣れて来て、今はみんな親しみを込めてソフィア様と呼んでいる。


 ていうかシオリちゃんって第二の魔王らしいのに、結構な頻度でサンハイム森本にいるのよね……大丈夫なのかな。


「ソフィア様までいらっしゃるなんて珍しいですね」

「英雄さんがお疲れの様子でしたので、女子会して来ますって言ってこっちに来ちゃいました♪今頃は寝てると思いますよ!」

「最近はトラブルや遠征が多かったですからね……」


 優しく微笑むエレナちゃん。

 それから思い出したようにソフィア様が言った。


「あっ、そうそう。今日のミーティングにはアリスちゃんも参加してくださいね」

「どうしてですか?ソフィア様……いつもは幹部の皆さんだけでやってるのに」

「ちょっと今日は聞きたいことがあるんです♪」

「そう言えば私、それを伝え忘れてたわ!……さっきさりげなく言ったけど」


 リカちゃんって結構おっちょこちょいよね。


 でも何だろ……まあ後でわかることだしいっか。

 するとおずおずと言った感じでエレナちゃんが言った。


「それって、あの……さっき三人で何か話し合ってた時の……?」

「ええ、そうよ!そう言えばさっきエレナちゃん、こちらをやけにチラチラと見てたけど、何か用だったかしら!」


 ん?


「えっ……いや、別にその、何でも……」

「気になる事があったらズバリと聞いて欲しいわ!」

「…………」


 おっ?エレナちゃんは何だかもじもじとしている。


「リカちゃん、その三人って言うのは?」

「私とヒデオとソフィアよ!」


 おやおや?まさかこれは?

 私は少しいつものちょっかいをかけてみることにした。


「どうしたのエレナちゃん、三人が何を話してたか気になるの?」

「そういうわけじゃ……」

「ふふ、大丈夫ですよ。後でミーティングの時に聞けますから!」


 むう、ソフィア様に遮られてしまった……。

 こういう時はいつも協力的なのになあ。


 悔しがっていると、エレナちゃんが思い切った様に言った。


「その……最近リカちゃん、ヒデオ様と仲が良いから……何かあるのかなって」

「「「「…………」」」」


 普段ならここで蜂の巣をつついた様な騒ぎになるんだけど。

 全員でエレナちゃんをいじくり回すんだけど……。


 何だか思いの外エレナちゃんが思いつめた様な表情をしているので、皆何も言えなくなっちゃった。

 沈黙に気付いてほんのり頬を赤く染めだすエレナちゃん。


 あかん……これほんまあかんやつやわこれ……。

 可愛いってもんやないでこれ……ほんまどうすんねん……。


 気付けば私はエレナちゃんを抱きしめてしまっていた。


「エレナちゃん……」

「ちょ、ちょっともう……アリスちゃんどうしたの?」

「ずるいわ!私も混ぜなさい!」

「それじゃ私も失礼しま~す!」


 続いてリカちゃんとソフィア様もエレナちゃんに抱きついて来る。


「あんたら何やってんのよ……」


 私たちのそんな様子を呆れ顔で眺めているシオリちゃん。

 

 そして私はどさくさに紛れてすごい勢いでエレナちゃんの匂いを嗅いだ。

 半端なくいい匂いがした。

 これだけでご飯三回はおかわり出来るんじゃないかしら。


 そんな感じでエレナちゃんをもみくちゃにしてしばらく遊んだ後。

 落ち着いた私たちはお茶を飲みながら本題に戻った。


「私とヒデオには何もないわよ!残念ながらね!」

「そっ、そうなんだ……」


 どこかホッとした様子のエレナちゃん。

 でも少し引っ掛かるところがあったから、私はリカちゃんに聞いた。


「残念ながら?」

「リカちゃんって兄さんの事好きなのよね」

「ええ、そうよ!」

「っぶほっ!!!!」


 当然の様に言うシオリちゃんに、当然の様に返事をするリカちゃん。

 私は思わずお茶を噴き出してしまった。


「アリスちゃん……大丈夫?」


 テーブルを拭き始めるエレナちゃん。


「何やってんのよ」

「シオリちゃん……そんなゴミを見るような目で見ないで」


 いや、だって……エレナちゃんに恋をさせる私の計画が……。

 思わぬところからライバル出現しちゃったじゃんこれ。


 それにしても何て大胆な……これは強敵ね。

 一応確認しておかないと……。


「リカちゃん……本当にヒデオ様の事が好きなの?」

「ええそうよ!結婚してもいいと思ってるわ!」

「しかもそれ、兄さん本人に言っちゃってるしね」


 ええっ……いつの間に……。

 私たちの知らないところでそんな事が。


「ねえねえ、リカちゃんは兄さんのどんなところが好きなの?」

「気が合うし、優しくて何やっても許してくれるところかしらね!」


 まあ寛大ではあるわね……。

 いつもめちゃくちゃする皆を文句言いながらもうまくまとめてるし。

 モンスターたちのお兄さん的な存在って感じ。魔王だけど。


「まあそれでも、エレナちゃんが心配してるようことは何もないわよ!確かに最近一緒にいることは多いけど、それもあくまで仕事上必要だからだしね!」

「べ、別に心配なんて……でも、そうなんだ……」


 う~ん、リカちゃんとヒデオ君か……。

 可能性もなくはないわね……危険だわ。

 シオリちゃんも見た感じヒデオ君を意識してるみたいだし。


 このままだと私の「恋するエレナちゃんが見たい」計画に支障が出るわ。

 どうにかしてエレナちゃんとヒデオ君を接近させないと!


 それから雑談に夢中になっていると、部屋の扉がノックされた。

 誰かしら……と思いながら返事をすると、相手は何と噂のヒデオ君。


「あ、女子だけで話してるとこ悪いな……もう夕食の時間なのに皆が来てないからどうしたのかなって」

「あっ!もうそんな時間ですか!英雄さんごめんなさ~い!」

「すっかり話に夢中になっちゃってたわね!」

「す、すぐに行きます……!」

「いやエレナ、そんなに慌てなくていいから落ち着けって」


 ヒデオ君の制止も振り切り、我先にと部屋を出て行くエレナちゃん。

 そのまま一人だけ走って食堂に行っちゃった。

 食事の準備はほとんど私が終わらせてあるから大丈夫なのに。


「ったく、他の皆はともかくお前はしっかりしてくれよ」

「えへへ、ごめんなさ~い」


 皆で食堂を目指して歩きながら、ヒデオ君がソフィア様を怒ってた。

 この二人も仲良いわよね……まあ、ソフィア様は精霊だから大丈夫だけど。


 よし……。

 私は突然ヒデオ君の横に並び、腕を絡ませた。


「!?ちょっ、アリスどうしたんだ」

「あらまあ積極的ですねえ」


 後ろでもぎょっとする気配を感じたけど、それも無視。

 私はヒデオ君の耳元で囁くように話しかけた。


「ねえヒデオ様。エレナちゃんの事……どう思いますか?」

「ちょちょ、なっ……えっ……!?」


 ヒデオ君はかなり動揺している。

 そういえばヒデオ君って女の子に免疫なさそうだったよね……忘れてた。


「エレナちゃん……可愛いですよねっ」

「あっ、ああ……可愛いし、いい子だと、思う……けど……」

「ちょっと何やってんのよ」


 シオリちゃんが私とヒデオ君を引き離して間に割って入って来た。


「ふふ……ちょっとね」

「兄さん、アリスちゃんには気を付けなさいよ」

「うっ……ひどい、シオリちゃん……どうしてそんなこと言うの……?」


 涙ぐむ演技をしてみた。

 ヒデオ君はどうしていいかわからず、呆然としたまま私とシオリちゃんに視線を泳がせている。


「ふふふ、詩織ちゃん。どうしたんですか~?そんなに慌てて」

「別に慌ててないわよ!私たちの前で破廉恥な真似をされると困るの!」

「破廉恥ってお前……」


 ヒデオ君が何とかツッコミを入れた。

 シオリちゃんは顔を赤くしながら叫ぶ。


「うるさい!女の子とそういう事がしたいなら、あの……名前忘れたけど、サキュバスのお店にでも行けばいいじゃない!」

「サフランの店になら行った事あるぞ。でも別に……」


 えっ……。

 よく知らないけど、サキュバスのお店ってたしか男の人だけが行くようないかがわしいお店じゃなかった?

 私もこっちに来てから知ったんだけど。


 私とリカちゃんとシオリちゃんが一瞬だけ固まった後。


「へ……変態!やっぱり兄さんってそんな人だったのね!」

「やっぱりって何だお前!」

「ヒデオ様、不潔ですっ!」

「ヒデオ!あんた中々やるわね!性欲薄いのかと思ってたわ!」

「リカお前、褒めてんのか貶してんのかどっちなんだ!」

「ふふふ、あの日の英雄さんはすごかったですよね!」

「おいソフィア!いい加減な事を言うな!話がややこしくなるだろ!」

「変態!近寄らないで!最低!」


 そう言い捨てると、シオリちゃんは走って行っちゃった。

 私も便乗しちゃお。


「まさか……ヒデオ様がそんな人だったなんて……ひどいですっ!」


 何がひどいのか自分でも良くわからないけど、そう言って走り去ってみる。


「ヒデオがそんな変態でも私は構わないわよ!」

「だから変態じゃねえよ!」


 後ろからは、そんな声が聞こえて来ていた。

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