閑話4

街を追放された元無職のおっさんが農業と○○で無双する話 後編

 農耕地を与えられた私は、まず生産系スキルの一部である農業スキルを習得することにした。

 ライル殿の部下に場所を聞き、神殿に赴く。


 神殿の中に置いてある水晶に触れると、私のスキルが浮かび上がる。

 私はほとんど戦闘系のスキルしか習得していないため、生産系のスキルは全くと言っていいほど持ち合わせていない。


 このままではヒデオ様やライル殿のお役に立てないことを悟った私は、路頭に迷ったその日から使っていなかったスキルポイントを全て生産系のスキルに割り振るという決断をした。


 路頭に迷ったその日から、とは言っても『勇者』としての訓練を重ねていた日々においてもスキルポイントをたくさん使っていたわけではないため、結構余っている。農業をする分には充分だろう。


 農具はライル殿より部下を通じて支給されている。

 私は神殿から帰ってくるなり、まずは荒れ放題になっている農耕地の整備から始めることにした。


 まずは、草抜き。


 残念なことに、これには関連するスキルがないようだ。

 地道にやっていくしかない。


 汗水垂らしながら草を抜いていると、何やら草木の陰に隠れて怪しい動きをする何かがいるのを見つけた。


「あれは、人間か……?」


 ここならまあ頭を使ったチート系主人公がルーンガルドにこっそり侵入しようと南門方面から迂回してくる可能性は十分に考えられる。


 先日ライル殿の部下からモンスター側の事情を聞いておいたのだが、ヒデオ様は基本的にチート系主人公のみを撃退なさるそうだ。


 つまりここは普通の人間なら放っておいてもいいが、チート系主人公なら撃退しておく必要があるということ。


 しばらく気付かないフリをして農作業をしていると、やがてこちらに気付いた人間が周りの様子を窺いながら私に話しかけて来た。


「よお、あんた人間だろ?モンスターに捕まっちまったのか?」

「……まあそんなところだ。お主はチート系主人公だな?」

「そうだ。こっそりこちらから迂回して、魔王城に潜入しようって魂胆よ。俺の盗賊系スキルで情報だけでも……」

「そうか。それはご苦労なことだな」

「あんたもさ、それが終わったら俺と一緒に……」

「『ホーリーランス』!!」


 聖騎士のスキルを発動すると、光の槍が現れて人間を貫いた。


「何っ!?あんた、何で……」

「残念だったな。私は魔王ヒデオ様の忠実な僕なのだ……」


 チート系主人公は光の塵となり、空気に溶けていく。


 この程度の輩ならばヒデオ様のお手を煩わせることもない……今後はこの辺りのチート系主人公は私が始末してくれよう。


 もはや必要ないと思っていた『勇者』や、その前身となる職業『聖騎士』のスキルがこんなところで役に立つとはな……ハハハ。




 それから数日使ってある程度の面積分の草を抜き終わったので、そろそろ土地を耕す作業に移ろうと思う。


 農具を使って畑を整えると、「農業マスタリー」という農業に関する生産系スキルを全て効率よく使える基本のパッシブスキルを習得できるようになった。


 まずはこれを習得すると、次に「農具マスタリー」や「野菜学」など次々にスキルが習得出来るようになっていく。


 おかげでその日は一日中神殿であれやこれやと悩むはめになってしまった。

 結論としては、スキルポイントが余っている今は浅く広くスキルを取得して実際に農作業をし、必要なものを伸ばしていく方針だ。


 翌日。早速取得したスキルたちを試してみる。


 当然と言えば当然だが、しばらくは整地や開墾作業が多くなるので「農具マスタリー」はレベルを上げて損はないということがわかった。


 それでレベルを上げてみたのだが……これは素晴らしい!!農具を使用する時に自分のものとは思えないほどに身体が素早く動く!!


 ははははは!!ヒデオ様万歳!!ヒデオ様万歳!!


 畑を耕し無双をしていると、私にとってはこの世界で神とも等しき存在となったヒデオ様がライル殿を連れて私の様子を見に来てくださった。


 お忙しい方なので、私の姿を見るなりすぐにテレポートでお帰りになられたが、私の凄まじい耕しっぷりはご覧いただけたと思う。今日のところはそれだけでも満足だ。


 その後も私は無心で畑を耕し続けた。

 気付けばその面積は、私がここに来た頃と比べてもはるかに広大なものとなっている。


 畑だけではなく全体を見渡しても、乱雑に生えていた雑草なども全て取り除かれて農耕地はあるべきその本来の姿を取り戻していた。


 しかし、この程度でヒデオ様やライル殿に喜んでいただこうとは思っていない。

 作物を育て、収穫を得てからがスタートなのだ。


 一旦畑を耕す作業を中断し、次はいよいよ作物を植えてみようと思う。

 『野菜学』のスキルレベルをあげて得た知識で、これからの季節やこの農耕地がある場所の環境に適したものを選ぶ


 そうして選び植えた作物は、「農業マスタリー」や「野菜学」の影響もあり、どうやら数週間後には収穫出来そうだ。


 収穫量も、これまでのルーンガルド周辺で収穫されていたものよりは大きく増えるだろう。


 作物を収穫に向けて順調に育てていたある日、ライル殿が農耕地にやって来た。


「お元気ですか。あまり顔を出せず申し訳ありません」

「何をおっしゃいますか……日々のお勤め、ご苦労様です。それより、今日はこのようなところへ何をしにいらっしゃったので?」

「ええ、それなのですが……現在、すぐに収穫出来そうな農作物の量と種類はどれくらいになる見込みですか?」


 ライル殿から聞いたところによると、巨大なハンバーグを作るために大量の農作物が必要になるらしく、ヒデオ様がお困りらしい。


 む……しまったな。

 収穫量はこれからどんどんあがる見込みなのだが、すぐに獲れそうとなるとそれほどではない。


 せっかく出番が来たというのに、お役に立てないとは……。


「次に収穫出来そうなのは……」


 私は具体的な種類と量を、謝罪と共に伝えた。


「な、それは本当ですか……!?」


 ライル殿はひどく驚いている。

 やはり少なすぎたか……。


「これだけあれば充分です!!他の街からの買い出しも行えば、ルーンガルド住民が食べる分も賄えます!ゴンザレス、お手柄ですよ!!」


 何だと……?

 私に気を使ってくれているのだろうか。


 私が戸惑いの表情を浮かべていると、ライル殿が私の肩を叩いた。


「ヒデオ様にもゴンザレスのお手柄を報告しておきます。事が終わればあなたにも褒美が出るでしょう……これからもよろしくお願いしますよ」


 そう言って、ライル殿は帰って行く。

 なぜか褒められてしまったが……どうやら役に立てたようで良かった。


 それから私は順調に農作業を進めつつ、無理せず倒せる範囲内でチート系主人公を返り討ちにしていった。


 もとより、こちらまで回り込んでくるチート系主人公は数も多くはないし、たまたま攻撃や防御に特化した者がいなかったからというのもあるが。


 そんなある日、アリス殿とジン殿が私の下を訪ねて来た。


「こんにちはっ」

「邪魔するぞ」

「おお、これはこれは!ジン様とアリス様!こんな所に何の御用でしょうか?」

「ヒデオからお前に贈り物があるそうでな。それを届けに来た」

「何と!!??ヒデオ様から私に!?」

「はいっどうぞ」


 アリス殿が手渡してくれたのは、かなり騎士っぽいマントだ。

 身に余る光栄……!!私は手渡されたマントを前に心を震わせた。


「おお……!!これは何と素敵なマント……触り心地の良い生地に触れると、表面を彩る紅がまるで私の心を燃やすかのように心に侵入してきますな」


 いかん、大人げなく口頭でマントの様子を描写してしまった。

 このマントは私の家宝にしよう。


 そういえば現在ヒデオ様はダークエルフ村のイベントに参加していらっしゃるはずなので、お礼がてら後で差し入れを持って参上することにした。


 物は何がいいかとジン殿に相談したところ、イチゴがいいそうだ。


 アリス殿とジン殿が帰った後、私も一度家に帰って身なりを整えることにした。

 ヒデオ様にお会いするというのにいつもの上半身裸に汗だくでは失礼というものだろう。


 風呂に入り、シャツを着てヒデオ様より賜ったマントを纏う。

 あらかじめ収穫しておいたイチゴを持ってダークエルフ村へと向かった。


 ダークエルフ村の場所は知っている。

 まだ私が王族だった頃、敵対勢力として村の場所だけは確認しておくように言われていたからだ。


 また人間の街にいた頃の知識が役に立ったな。


 たまに道中現れるチート系主人公を倒しながらダークエルフ村に着くと、そこはもぬけの殻だった。


 たまたま通りかかった住民に尋ねると、どうやら別にイベント会場というのが用意されていて、そこで催されているらしい。


 ちなみに、ヒデオ様からいただいたマントにヒデオ様の魔王印が入っているので人間だからと警戒されるようなことはなかった。


 案内してもらった通りにイベント会場に行くと、何やら様子がおかしい。

 ヒデオ様とリカ殿がモンスターに囲まれているではないか。


 どういうことかはわからないが、ヒデオ様が危険なのは確実なようだ。


「ヒデオ様ーーーー!!!!」

「ゴンザレス……!?何でこんなとこにいるんだ!お前も避難しろ!」


 お優しいヒデオ様は、私の事を気遣ってくださっている。

 モンスターであるのにヒデオ様に歯向かうとは……許せん!!


 二度と使うことはないと思っていた『あのスキル』を使うことにしよう。

 私は人間なので、基本的に範囲攻撃ではヒデオ様を巻き込んでしまうだろう。


 しかしそこは幸いにもリカ殿がいる。そしてあの光は……。


「リカ殿!『正義の献身』を発動しておられますかな!?」

「…………!?え、ええ!まだしばらく持つわ!」


 確認も完了。


「偉大なる魔王、ヒデオ様に仇なす愚かな反逆者たちよ!モンスターだからと手を出せないお優しい魔王様に代わり、この忠実なる僕、ゴンザレスが制裁を下してくれるわ!!」


 私は口上を述べた後、『あのスキル』を発動した。


「『聖なる大十字グランドクロス』!!!!」




 その後、私は恐れ多くもヒデオ様を助けたとしてモンスターの幹部に昇格。

 身に余ることだからと最初は断ったのだが、ヒデオ様に是非にと仰っていただけば断る理由などない。


 ヒデオ様の忠実な僕として、ルーンガルドの農耕地担当として。

 私の新たな人生は、まだまだ始まったばかりだ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る