炸裂!女神ビーム!
見間違えるわけがない、誰がどう見てもドラゴン族の幹部たちだ。
一つの山脈のようなドラゴンたちを見た詩織配下のモンスターたちは、詩織のスキルが解けたこともあって一目散に逃げだした。
「ひ、ひえええええっ!!ドラゴンだあ!!」
「何でこんなところに!!」
「お助けえええええっ!!」
「ちょっとあんたたち!何勝手に逃げてんのよ!」
ぎりぎりで避難していた女神の何とかさんが吠えるも、既に詩織のモンスターはほとんどがその場からいなくなっている。
気絶していたモンスターたちも気合で何とか歩き出していて、よろよろと会場を後にしていた。
そして何やら不機嫌らしいバハムートが、足元でわめき散らす何とかさんをギロリと睨む。
「ひ、ひいっ……!!何でこんなとこにドラゴンが……!!『勇者』といい本当にどうなってるのよもう!!」
「やかましいぞ小娘が……少し黙っておれ」
ハエでも叩くみたいにバハムートが腕を振ると、ルー何とかさんの身体が宙を舞い、こちらの方まで飛んできて動かなくなった。
「みんな~!」
バハムートの背中に乗っていたらしいアリスが、降りてこちらに駆け寄る。
「アリス、シャドウにジン!どうしたんだよ、お前ら」
「いや、それが……」
シャドウが何かを説明しようとしてくれたみたいだけど、その言葉は強烈な地響きによってかき消されてしまう。
バハムートがこちらに一歩踏み出したので地面が揺れたらしい。
それからバハムートは前に会った時より言葉に怒気を含めて喋り始めた。
「ヒデオ、貴様我らを裏切ったな……!」
「裏切った……?何がだよ!ていうか全然わけがわからないから状況を説明して欲しいんだけど!みんなも怖がってるだろ!」
気付けば、会場の外からは避難を終えて負傷もしていないお客さんたちが、恐る恐るこちらの様子を窺っている。
「貴様は“萌え”の祭典があるにも関わらずそれを我らに内緒にし、“萌え”を独り占めしようとしたのであろうが!現にここに“萌え”がないではないか!“萌え”をどこにやった!世界を滅ぼされたいか!」
やばい、何言ってんのか全然わかんねえ……。
「おいアリス、こいつら何言ってんだ?」
「それが、私たちもよくわからなくて……ここで今日『萌え萌え大運動会』があるってことを伝えたらもうこんな感じになって……」
その時、俺のマントの中に避難していたソフィアが出てきて耳元でぼそぼそと語りかけてくる。
「英雄さん、多分ですけど、ドラゴン族の皆さんは自分たちに内緒で『萌え萌え大運動会』が開催されたと思ってお怒りなんじゃないですか?自分が釣り好きなのを知っているのに、友達が自分抜きで釣りに行ったみたいな……」
「その例えは微妙だけど言いたいことはわかった」
確かにそれならこの状況も理解出来る……様な気もしてくる……。
落ち着け……俺が対応を間違えると、“萌え”のせいで世界が滅びるとかいう意味のわからんことになるぞ……。
「おーい!ドラゴン族の皆、聞いてくれ!別に隠してたわけじゃないんだ!お前たちには定期的に“萌え”を提供させてもらってるしいいかなって!それに、ここにお前たちを呼んだらメイドさん……“萌え”の使徒たちが怯えて“萌え”を出せなくなるぞ?それでもいいのか?」
俺の言葉に一瞬だけ固まると、ドラゴン族の幹部たちは顔を見合わせて何やら談議を始めた。
「“萌え”が怯えるだと……?我らにか……?」
「もしそれが本当なら……あってはならぬことだ……」
「怯える“萌え”など……もはや“萌え”ではない……キャサリンもそう言っていた……」
「何……?貴様、まだキャサリンと続いておったのか?」
「当たり前であろう……キャサリンは時に“萌え”よりもキュンとするからな……クックック……」
「何だと……?そうか、つまり私がキャサリンに対して抱いていた感情は……恋ではなく……“萌え”だったのだな……」
何を議論してるのか全然わからんけど、早くしてもらえないかな……。
やがて、幹部たちの議論を聞きながら周囲を見渡したバハムートが喋りだした。
「ふむ……そう言われてみれば、この会場の外に怯える“萌え”の使徒がちらほらと見える……たしかにヒデオの言う通り、我らの勘違いというか、早とちりだったのやもしれぬ……すまなかったな、ヒデオ」
「いや、わかってくれればいいんだ……今度からはちゃんと報告するよ」
良かった……何とか丸く収まりそうだ。
でも、バハムートにはまだ何か言いたいことがあるらしい。
「しかしだヒデオ……その……せっかくだから、我らにもイベントを見せてはもらえないだろうか……」
まあここまで来たんだからそりゃ見たいよな……。
「そうは言っても、メインのイベントはほとんど終わってて、今やってたのは」
俺はメイド喫茶とジェンガ大会の概要を説明した。
「なるほど……いや、それはそれで興味深い……是非とも見せてもらえないだろうか……」
「エレナ!ルネ!」
会場の外から事態を見守っていたエレナとルネを呼んで状況を説明し、今からメイド喫茶とジェンガ大会を再開出来るかどうかを確認してみる。
「スタッフは減っちゃいましたけど、その分お客さんも減ってそうなので……何とか、いけると思います……」
「私の方も大丈夫だよ~!」
「らしいぜ。良かったな、バハムート」
「おお……“萌え”の使徒たちのリーダー『萌え王』よ……感謝致します……」
何だかエレナが大層なあだ名をつけられてしまった……。
それからイベントを観に来ていてまだ会場に残ってたお客さんたちに事情を説明してイベントは再開。山脈みたいにそびえるドラゴンたちが見守る中でのメイド喫茶&ジェンガ大会という、中々お目にかかれないシュールな光景の完成だ。
何とか一段落ついたところで俺たちは何とかさんと詩織を連れて、今は誰もが出払っていて人気のないダークエルフ村のとある小屋の中にいる。
「どうしてこんな事をしたんだ?」
俺は、むくれてそっぽを向いている何とかさんを問いただした。
今までのやり取りからして、詩織って子に悪意がなくロー何とかさんの指示によるものなのは明らかだ。
ちなみに、詩織は意識は戻ったもののまだダメージの方が全く回復していないので、地面にへたり込むような感じで座っている。
「あんたには関係ないわ」
「いやいやそれはないだろ、ここまでやっておいて……ゴンザレスやドラゴンたちが来てくれなかったらどうなってたか」
「ふん、そこのクソ女神に一泡吹かせてやりたかったのよ……いつもいつも私の邪魔をしてくれちゃって、気にくわないのよ」
それを聞いた瞬間、ソフィアの周りの空気の温度が少し下がったように感じた。
魔王ランドに来てからほとんどずっとこいつと一緒にいるからわかる。ソフィアは今、めちゃくちゃ怒っているんだろう。
俺は、恐る恐る聞いてみた。
「ソフィア、その……こいつに何かしたのか?」
「さあ……こんな名前も頭に残らないような下っ端女神の事なんていちいち覚えていませんので♪それで?そんなくだらない理由で詩織ちゃんを巻き込み、中途半端な強さで魔王ランドに連れて来たというわけですか?」
「ふん!私なりに色々考えたんだから、運さえ悪くなければあんたたち何かに負けることはなかったのよ!大体詩織も詩織よ!こんなやつらに後れを取って!」
もはや八つ当たりをしたいだけの何とかさんの言葉を聞いた詩織は、
「う……うえぇ……だって、私だって……いきなりこんなところに連れて来られて……何も……うぇ……わかんないし……ひっく……ひどい……何でそんなこと言うのよぉ……」
泣き出してしまった。
そりゃあそうだ。
俺はライトノベルをよく読んでたから、転生させられても「あ~もしかして異世界転生か~」って感じで受け入れられたけど、詩織がそういう趣味を持ってない子なら普通はこうなる。
それを聞いた何とかさんは相変わらずの不機嫌そうな顔で怒鳴った。
「ちょっと!私だって泣きたいんだから!泣くのをやめ……」
「『女神ビ~ム』!!えいっ♪」
「「「!?」」」
女神ビーム!?
何とかさんの言葉を遮るようにソフィアが可愛らしくスキル名を発すると、久々に見た、先に五芒星の付いた杖から何か稲妻のような光が出た。
「きゃあああああっ!!!!」
響き渡る何とかさんの悲鳴。
稲妻は何とかさんを一瞬にして包み込むと、次の瞬間、そこにはソフィアと同じく妖精の姿になったロー……さんがいて、ぽとりと地面に落ちる。
「なっ、何よこれ……何でソフィアと同じ姿になってるのよ~!!」
「その姿になってもらって、神としての力もいくらか制限をつけさせていただきました♪しばらくは神界にも帰れませんので、思う存分に反省してくださいね♪」
「ふ、ふぇ~ん!!嫌よそんなの!!元に戻してよ~!!」
何とかさんまで泣き出した……こんな事を言ってはいけないのかもしれないけど……正直、スカっとした。やっぱり悪い事はするもんじゃないよな。
そこまでやると怒気が消えて雰囲気も元に戻ったソフィアは、姉や母になったような穏やかな表情で詩織に話しかける。
「詩織ちゃん……私たち神のせいでこんな事に巻き込んでしまってごめんなさい。でもね、すぐに元の世界に帰してあげることは出来ないんです。いつかは必ず……なので、それまでこの英雄さんが面倒を見てくれますから♪こちらにいる間はお兄ちゃんだと思って、遠慮なく頼ってくださいね♪」
「おっ、おい……やめろよ、またそんな……」
俺が抗議しようとすると、突然ソフィアは女神の姿になって俺の手を握った。
そして申し訳なさそうな表情で、
「英雄さん……いつもいつも迷惑をかけてごめんなさい。何でも頼りにしちゃうのは私としてもいけないことだとは思っています……でも、このままだと詩織ちゃんがかわいそうです。先輩として年上として、どうか詩織ちゃんの面倒を見てあげてはもらえませんか?」
そうお願いして来た。
うっ……ソフィアは女神だけあって元々見た目はすごく綺麗だ。
それに神だからか、何かオーラの様なものもある。
ここまでされて断れるやつはどの異世界にも見当たらないだろう。
「わかったよ……困ったらルーンガルドにある魔王城に来ればいい。俺に出来ることなら助けるからさ。よろしくな」
俺はそう言って詩織に右手を差し出す。
すると詩織は泣き止み、
「うっ……ぐすっ……そこまで言うなら頼ってあげてもいいけど……別に仲良くしたいとかそういうわけじゃないから……勘違いしないでね……」
ツンデレいただきやした~……。
うん……何だか面倒くさそうだな……。
げんなりした表情でソフィアの方を見ると、笑顔でこちらを見ている。
俺は思わずため息を吐いてしまった。
途中波乱はあったものの、結果的にイベントは大盛況に終わった。
何とかさんのせいで起きた一連の事件に関しては最終的に、むしろ「ドラゴンが現れる村」として強烈な宣伝効果を生み出したらしい。
それから何とかさんは特に悪さもせず、出来る範囲で詩織のサポートをしているそうだ。まあ、ソフィアに力を制限されて他に出来ることがないだけなんだけど。
とにかく、こうして「魔王ランド」に第二の魔王が誕生したのであった。
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