死闘!ジェンガ作り
遠巻きに数多の好奇の視線を感じながらも、作業に没頭する。
エレナから許可をもらってその辺の木を切り倒し、そこからいくつかの木材を切り出す。更に切り出した木材からいくつかの長方形のブロックを切り出して積み上げてみる。
「う~ん、何か違うな」
「長さって均一じゃなかったかしら!たしか組みあがった時には縦に長い四角柱みたいになるはずよ!」
「そうだったっけ?」
「大きさももう少し小さくていいと思いますよ!」
そう、俺とリカ、ソフィアはジェンガを作ろうとしていた。
こたつは細かな仕組みまでは知らなくても、各パーツの大きさはぼんやりとわかっていたから「設計」スキルも仕事をしてくれた。
でも、ジェンガは俺がほとんどやった事がなく、どんなものだったかあまり覚えていないせいで各パーツの大きさなんかもわからない。だから「設計」スキルを使わずに手探りで作らないといけなかった。
そう言った経緯があって、今はこうして三人であれこれと相談しながらブロックを切り出している。
何度かミニタワーを組みあげて考えてみた結果、どうやらパーツは全て均一にするものらしいということがわかった。まあ、いざ出来上がってみればそりゃそうだろって感じだ。
ちなみに工具なんかはダークエルフの村から借りている。
ダガーとかの武器を使っても出来なくはないけど、工具を使わないと「木工」スキルが発動せずに大きさや品質がバラバラになってしまうからというのが一番の理由だ。
パーツの大きさを全て均一にすればいいとわかれば後は簡単で、「設計」スキルを使って一応の設計図を作り、「木工」スキルで設計図通りに木材からブロックを切り出していく。
これで素早く正確にブロックを量産出来るんだけど、欠点は作業中の俺の動きが速すぎて気持ち悪い事だ。
「すごいけど気持ち悪いわね!次からは私の見えないところでやって頂戴!」
「しょうがないだろ!文句なら世界とかに言え!」
「でもでも、動きの速い英雄さんも素敵ですよ!」
ソフィアに良くわからん褒め方をされながらもジェンガは完成。
後は最後の仕上げなんだけど……。
リカとソフィアが言うには、ジェンガには色が付いているものもあったはず、とのこと。
たしかに見た目的にも色が付いてないと味気ないし、表面に何かを塗った方が品質的にもいいんじゃないかと思う。
でも、この世界に塗料なんてものはあるんだろうか。
まあいつもの流れで言えば、紙の時みたいに「~とは似ているけど違うもの」があるんだろうな……と思いながらエレナに聞いてみると。
「塗料……はありますけど、ペイントの実がなかなか入手できないので、貴重なんです……」
これまた予想の斜め上を行く答えが返って来た。
「そのペイントの実ってのはどこに行けば手に入るんだ?」
「ここから少し歩いたところにある森で手に入りますが……その、かなり強いので……ヒデオ様なら大丈夫かとは思いますが、お気をつけください……」
「あ、ああ。ありがとう」
強い……?強いってなんだ?
それからエレナに大まかな位置を教えてもらって、俺、リカ、ソフィアはペイントの実を採取するために森へと向かった。
「それで、ペイントの実ってのがどんな見た目をしてるかはわかってるの?」
「ああ、エレナに絵を描いてもらって来た」
俺は絵が描かれているメモ用紙を広げる。
「わぁ~可愛い絵ですね!さすがエレナちゃんです!」
ソフィアのおめがねにはかなったらしい。
「とりあえずこれに似たやつを探せばいいとは思うんだけど、エレナが強いとか言ってたから戦闘になる可能性も考えておいてくれ」
「何よそれ、意味わかんないわ」
「俺もそう思う」
「ペイントの実を好きな動物がいて、取り合いになるとかでしょうか?」
スキルやチート系の知識やらに関してはいつも頼りになるソフィえもんだけど、実はそれ以外のこの世界の知識はほとんどないらしい。
それからしばらく森の中を歩いていると、ソフィアが俺の魔王っぽいマントをくいくいと引っ張ってきた。
「英雄さん英雄さん!あれじゃないですか!?」
ソフィアが指で示した先にはたしかにエレナに描いてもらった通りのペイントの実がある。
「おっ、ソフィアサンキュー」
いくつかの色があって、欲しい色のやつが選べる親切設計になっている。
とりあえず俺たちが好きな色でも取っておくかな。
と、ペイントの実に触れた瞬間のことだった。
まるで強烈な風が吹いたかのように、うるさい程の葉擦れ音が渦巻く。
ペイントの実をつけている木が突然起き上がって伸び、表面から口が生えた。
自分でも何を言ってるのかわからないけど、ざっと言えばそういうことだ。
口が生えた、というのはずっと閉じていた口をいきなり開いたからそう見えただけか。突然起き上がって伸びたように見えたのも、人間なら頭に当たる梢の部分をもたげ、全身の一部を地面に埋めていたからだろう。
つまりこいつはペイントの実を餌にして、それを採ろうとする人間やモンスターを捕らえて食べる、食人植物的なタイプの植物だったらしい。
そして、ドラゴン族みたいに俺たちモンスターとはまた違う勢力だから言うことを聞かせることも出来はしない。
「ホンギャラピー!!!!」
鼓膜を引き裂くような叫び声とともに枝の一本が鞭のようにしなり、俺に襲い掛かって来た。
「ヒデオ!!」
リカがすかさず俺の前に出て武器で枝を受け止めてくれる。
武器がぶっ壊れた。
「リカ……助けてもらっといてなんだけど、お前なら武器で受け止める必要なんて全くなかったんじゃ……」
「その方がかっこいいでしょう!」
「わからなくもないけど!」
「『正義の光弾』!!」
リカが単体用のヘイトスキルを使って囮になってくれたので、これで後は俺がボコスカ攻撃して敵を倒すだけなんだけど……。
ペイントの実も一緒に消し飛ぶので、当然英雄プロージョンは使えない。
とりあえず横から通常攻撃を加えてみる。
…………。
「硬い…………なあソフィア、これって」
「地道に殴って倒すしかないと思いますよ!」
「即答かよ……いいぜ、やってやろうじゃねえか!」
数分後。
「ちょっとヒデオ!何休んでんのよ!」
「いや、ごめんちょっと疲れたから……」
バシバシ殴られているリカを放置して木陰に座り込む俺。
ソフィアはその木の上で寝ている。
この植物は防御力だけでなくHPも高いようなので、倒すにはかなりの根気が必要だったことが判明。
結局植物を倒してエレナのところに帰るころには、もう日が暮れていた。
もうこれ以上は動けないというくらいにくたくたになっていたので、俺たちは一度ルーンガルドに帰ることにする。
そして翌日。
俺たちはジェンガ一セット分と、昨日収穫したペイントの実を持って再びダークエルフ村を訪れていた。
まだエレナはイベント会場の設営には向かってなくて在宅だったものの、俺たちが訪ねて来た理由がよくわからずに不思議そうな顔をしている。
「あの……すいません、まだ設営も全然出来てなくて……」
エレナには、俺たちが実は観光したり遊んだりする気満々で、イベント当日以外の日もダークエルフ村に滞在しようと思っていたことを伝えていなかった。だからこんな反応なのだ。
今村に来ても何もないよ、ということだろう。
「いや、全然構わないよ。それより……」
しかし俺たちが今日ここに来た目的は、もちろんイベント関係じゃない。
もちろん観光や遊びに来たというのもあるけど、それだけならわざわざエレナの家まで足を運ぶ必要はないからな。
俺はくるりと部屋を見渡して、すぐにその目的の人物を見つけた。
エレナの妹、ルネが奥の部屋から身体を半分程出してこちらの様子を窺っているところだ。
「ルネ……だよな。ちょっとこっちに来てみないか?」
はっ、となるエレナ。俺がここに来た目的を察したみたいだ。
手招きをしてみたけど、ルネはこちらを見つめたまま動かない。
「ほら、ルネ……ヒデオ様が呼んでるでしょ?ご挨拶は?」
「こ、こんにちは……」
「ふふふ、恥ずかしがる姿がたまりませんねえ」
「ソフィアって実際結構おっさんだよな」
「すいませんヒデオ様。普段はこんな感じじゃないんですけど……人見知りというのもありますが、村からあまり出ることがないから、知らない人と最初にどう接したらいいかわからないみたいです……」
「なるほどな」
「そんなの簡単よ!私が教えてあげるわ!」
そう言いながらリカがずしずしとルネに歩み寄る。
「おい待てリカ、余計な事すんなって」
「ルネちゃん!初対面の人とはね、こうして握手をすればいいのよ!」
ずいっと右手をルネに向けて差し出すリカ。
ちなみに、こいつは俺や魔族と初めて会った時には握手などしていない。
ルネは右手を差し出されると、ざざっと後ずさる。
それを受けてリカもささっと一歩距離を縮めた。
ざざっ。ささっ。ざざっ。ささっ。
やがて格闘技でもやっているかのような間合いの取り合いが始まる。
何やってんだこいつら。
そして痺れを切らしたリカがルネに飛び込むと、ルネはそれを避けた勢いで走って家の外にまで逃げてしまった。速い。さすがはエルフ系統。
「だからお前は余計な事を……おいちょっと待てって!」
「追いかけっこは得意よ!」
リカはこともあろうにそれを追いかけて行く。
それをおろおろと見つめていたエレナが謝って来た。
「もう、ルネったら……ごめんなさい、ヒデオ様……」
「いやいやあれはリカが悪いだろ……」
仕方なくエレナが出してくれたお茶を飲み、雑談をしながら待つこと数分。
リカがルネを片腕で抱きかかえて戻って来た。
ルネは、変な抱っこのされ方をして逃げようとする犬猫みたいにびちびちとリカの腕の中で跳ねまわっている。
「う~!」
「なかなかいい運動になったわ!」
「リカちゃんごめんね……」
エレナが謝る必要はないと思う。
とにかくルネが戻ってきたので、ここに来た目的を果たすとしよう。
「ルネ、新しいおもちゃを作ったんだけど……最後の仕上げに色を塗らないといけないんだ。もしよかったら手伝ってくれないか?」
俺は、ルネと仲良くなるきっかけにジェンガを使うことを思いついた。
そして遊ぶだけよりも、貴重らしい塗料を使っておもちゃに色を塗ることなんかもやらせてあげれば、より心を開いてくれるかもしれないと考えたのだ。
これはソフィア、リカ、エレナにも伝えてある。
びちびちと跳ねまわる動きがぴたっと止まり、ルネがこちらに顔を向けた。
しかしまた恥ずかしそうに俯いてしまう。
「リカ、ルネを降ろしてやってくれ」
珍しく言うことを聞いてルネをすとんと降ろしてくれたリカ。
俺は、ジェンガを持ってそちらに歩み寄ると、視線を合わせて話しかけた。
「これ。ジェンガって言うんだ。塗料は俺たちが採って来たから、色を塗ってから一緒に遊ぼう」
ルネは少しの間俺が差し出したジェンガを見つめると、俺と目を合わせて頷いてからそれを受け取ってくれる。
「よし、交渉成立だ。汚れるから外でやろうぜ」
そう言って俺たちはエレナの家の庭に出た。
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