死闘!ジェンガ遊び
ペイントの実さえあれば塗料を作るのは簡単だった。
早い話、中身が塗料になっているからだ。
バケツでも何でもいいから入れ物を用意して、そこにペイントの実を潰して出て来た果汁、つまり塗料を注ぎ込む。これだけで塗料の完成だ。
ちなみに、塗料は飲み込んでも健康に害はないどころか普通においしいので、間違えてお子様が飲み込んでしまっても安心な親切設計だ。
もっとも、採るのに苦労する上に他の飲み物の方が味は上だから、わざわざペイントの実ジュースを飲もうとするやつはあまりいないんだけど。
ルネには汚れてもいい服に着替えてもらい、俺も魔王っぽいマントを脱いだ。
「一応ハケなんかも用意したけど、基本は好きなように塗ってくれ」
楽しめるようにと、ペイントの実は違う色のものをいくつか採って来た。
ルネはまたも好奇心に目を輝かせ、段々とエレナの話に聞いていた通りのやんちゃな姿を見せてくれそうな気配がある。
「ほ、ほんとにいいの……?」
「ああ。思いっきりやっちゃってくれ」
皆に見守られる中、ルネはハケを使ってジェンガのパーツに色を塗り始めた。
それを嬉しそうに見守るエレナ。
「ヒデオ様……ありがとうございます、妹を気にかけていただいて……」
「いや別に……その、俺にも妹がいるからついな。構ってあげたくなるというか」
転生前は明らかに距離を置かれてたけど、小さい頃にはそれなりに面倒を見てやったりしたものだった。
しかしどういうことか、俺の言葉にエレナは首を傾げている。
「妹様が……いらっしゃるのですか?そういえば、ヒデオ様のご実家はどちらで……?」
やらかした……墓穴を掘ってしまった。
リカと同じ国の出身ということに関しては、リカによって「前世で生き別れの兄弟だった」という余計な設定が付加されたものの、俺がこの世界のどこ出身かという設定は考えていない事に気付く。
ソフィアに目線で助けを求めるも、ニコニコしたまま動かない。
結局こういうことは俺任せか……。
俺は咄嗟に何とかなりそうな設定を考えてみた。
「それがな……気付いた時には俺はルーンガルドにいてな、それ以前の記憶が一切ないんだ……ただ、自分の名前とか家族の事とかは覚えてて……それでソフィアの精霊の導きに従うまま魔王になったんだ……」
どうだ?とソフィアに目配せをしてみる。
「はい……そうなんです。私は英雄さんを魔王にする使命を課せられた、暗黒の精霊……。英雄さんを立派な魔王に育てて魔族を完全に救うまでは、私は闇にその心を捕らえられたままなのです……」
こいつもまた余計な設定を……。
俺の部屋でいつも寝るか菓子食うかしかしてない暗黒の精霊がどこにいるんだ。
「そ、そうだったんですね……変な事を聞いてしまって、ごめんなさい……」
「いや、全然気にしてないから」
まあエレナはいい子だからこうしてすぐ信じてくれるし、ちょっと良心が痛むもののごまかすのは簡単なんだよな……。
そうこうしている内に、ルネがジェンガのパーツを一通り塗り終わっていた。
「で、できました……」
「なかなかやるわね!上手に塗れてるわよ!」
「わあ~!とってもお上手ですね!」
ぱちぱちと笑顔で拍手を送るソフィア。
「ああ、良く出来てる。それじゃ一旦乾かして、出来上がったらこれを使って遊ぼうか」
「はい!」
元気よく返事をするルネ。段々打ち解けてくれているらしい。
「あの……ヒデオ様、これからお昼ごはんにしますので、もし良ければ召し上がっていかれますか……?」
「えっ……いいのか?何か悪い気もするけど」
「いえそんな……ヒデオ様にはいつもお世話になっていますので、これぐらい」
「エレナちゃんの手料理ね!楽しみだわ!」
「リカ、お前はいつもルーンガルドで食ってるだろうが」
「ダークエルフの村で食べるエレナちゃんの手料理もまた一味違うかもしれませんよ!」
ソフィアのよくわからん押しはともかく、何だかルネも期待に目を輝かせているのでお言葉に甘えることにした。
昼食を食べながらの歓談が大いに盛り上がったおかげか、ルネとは大分仲良くなって「ひでおにいちゃん」と呼ばれるまでになる。
これが「ヒデオ兄ちゃん」なのか「ヒデお兄ちゃん」なのかはわからないけど、とにかく「ヒデオお兄ちゃん」は呼びづらいみたいだ。
その後は、約束通り完成したジェンガで遊ぶことにした。
「こういう風にして何人かで交互にブロックを引き抜いていって、崩したやつの負けだ。簡単だろ?」
「うん!」
「それじゃやってみるか」
俺、ソフィア、リカ、ルネでジェンガスタート。
エレナは今日の設営や準備があるとのことでイベント会場へ向かった。
「何でお前微妙に上手いんだよ」
リカが意外に強く、後半に差し掛かっても危なげなくスッと抜いて行く。
抜く場所の選び方とかそういうのがいいんだろうか。
「そういうあんたは下手くそよね!」
皆が上手いだけで俺は普通なんじゃないだろうか……そう信じたい。
ルネも何だか器用な感じで見ていて安心感がある。
「う~っ、よいしょ」
ソフィアは妖精モードのままで頑張ってやっていた。
そしてとうとう勝負も終盤に差し掛かった時のこと。
「負けた人が罰ゲームなんてのはどうかしら!」
リカがそんなことを言い出した。
「お前が嫌がる罰ゲームなんて思いつきそうにないから嫌なんだけど」
リカは何でもかんでも耐性があるし、性格的にも精神的な攻撃は無駄だと思う。
だてに人間の街でぼっちはやっていない。
「何でもいいから考えなさい。つまらない男ね」
「う~ん、そう言われてもなあ……」
「じゃあ俺が勝ったらお前の身体を好きにさせてもらうぜえ、グヘヘヘ」
「おいソフィア、ルネの前で変な事言うなよ……しかも一対一の勝負じゃないし」
「じゃあ私が勝ったらひでおにいちゃんに本当のお兄ちゃんになってもらう!」
負けたらエレナと結婚しろということだろうか。
ルネの無邪気な願いが何気に重い……。
「ルネいいかこれはな、ブロックを崩したやつが負けでそれ以外全員が勝ちだからそういう罰ゲームはだめだ。お前らもだぞ。ちゃんと全員に何かを出来るような罰ゲームをだな……」
「じゃあね~わんちゃんかねこちゃんが欲しい!」
「あら可愛いこと言うじゃない!じゃヒデオが負けたら犬か猫を連れて来るってことで」
こいつら全然人の話聞いてねえな……。
「いいじゃないですか英雄さん!じゃ英雄さんが以外が負けたら私たちが何でも言うこと聞いてあげますよ!ね、皆!」
「いいわよ!」
「いいよ~!」
「ええっ……」
ソフィアが自信満々なのが微妙に気になるけど、これ以上揉めてもぐだぐだになるだけだし……まあいいか。
「要は俺が崩さなきゃいいんだろ。その勝負乗った」
「そうこなくっちゃ!さすがは英雄さんです!」
そして勝負は再開。次の順番はソフィアだ。
「ううっ……なかなかきわどいですねえ……」
慎重にブロックを抜こうとするものの、残りのブロック数が少ないから妖精モードのままではかなりきついはずだ。
「う~っ!」
そんな唸り声をあげながらソフィアが山からブロックを引き抜いた。
しかし、無残にも空洞になった部分の周囲のブロックがぐらつき、少しずつ山もソフィアの方に傾いていく。
俺は勝ちを確信した。
しかし次の瞬間。
どう見たって一瞬ソフィアの方に倒れ掛かった山がまるで時間が巻き戻ったかのように押し戻され、その原因となったぐらついたブロックたちも何事もなかったかのように綺麗に組まれたままになっている。
「ふう~っ、何とか引き抜けました!」
「おいソフィア、お前今何かやっただろ」
「え~っ、何ですか英雄さん!変な言いがかりなんて、そんなところで魔王っぽくなるのはやめてください!」
「いやいや何言ってんだ、皆も見ただろ!?」
「ヒデオ……男らしくないわよ!」
「ひでおにいちゃんかっこ悪い!」
「ええっ……」
リカは読めないけどルネは本当に何も気付いてないっぽい。
これ以上言ってもどうにもならないので、抗議するのはやめた。
次の順番は俺だ。
「ふっ……俺のバランス感覚なめんな」
俺は安定した場所を見つけると、失敗しないようにゆっくりとブロックを抜き始める。でも、ぐらつくことのないように見えた山は俺が引き抜き終わった後、不自然に俺の方に向かって倒れ始める。
こういう時ってブロックが引き抜かれた場所を中心にして崩れるものなのに、なぜか山全体が俺の方に倒れて来た。
次の瞬間、大きな音を立てて無残にも山は崩壊してしまった。
「おいおい何だ今のおかしいだろ」
「え~英雄さん負け惜しみですかあ?」
ジト目で俺を睨んでくるソフィア。
「男らしくないわね!」
「おとこらしくない!」
絶対にソフィアが何かやったんだろうけど……ここで言っても無駄だろうな。
「わかったわかった、俺の負けだ。しかし犬か猫なんて……」
…………。
数分後。
「わ~っ!わんちゃんだ!」
ぶにぶにとジンの頬を引っ張るルネ。
「ヒデオよ……いや、別に構わんのだが……最近俺のことを完全に犬扱いしてはおらんか?」
「そこは申し訳ないと思ってる……こういう時に頼れるのがお前しかいなくてさ」
「もう少し別のことで頼って欲しいが……まあいいだろう」
「いいのか……」
「もうヒデオ様ったらっ」
ジンを取られ、頬を膨らませて怒るアリス。
犬か猫の心当たりがヘルハウンドしかなかった俺は、一度ルーンガルドに戻ってアリスとジンを連れて来た。ついでにギドの店に寄ってアリス用のスカーフを受け取って来たので、モンスターやダークエルフたちにはアリスが俺の客人だとわかるようになっている。
ちなみに、リカに関してはダークエルフたちに「何をしても無駄だし害はないから放っておいてくれ」と説明してあった。
「ほら、ルネ。ジンはこれが好きだから食べさせてやれ」
ルネに苺を手渡す。
「え~そうなの?かわいいね!はいっどうぞ」
「クックック……わかっておるではないか小娘よ……この鮮血の様な赤……弾けるような食感……いつ食べても悪くない……」
相変わらず尻尾を振りながらそんなことを言うジン。
ていうか連れて来ておいてなんだけど初見でジンを怖がらないルネも中々の大物かもしれない……末恐ろしい子。
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