巨大ハンバーグを調理せよ!前編
「何でエレナじゃなきゃだめなんだよ」
「出来ないというのか?いいぞ、ならば我の力で世界を滅ぼすまでだ……」
ハンバーグのために世界を滅ぼすのはやめて欲しいんだけど……。
ていうかハンバーグすげえな。
「いや、もちろん作るけど、何でエレナなのかっていうのが気になってさ」
「魔王よ……お前はむさ苦しい男が作ったハンバーグと、家庭的な女の子が一生懸命作ったハンバーグならどちらの方を食べたいのだ?」
「そりゃまあ、女の子が作ってくれた方だけど……」
「そういうことだ……」
何言ってんだこいつ……いやまあわからなくもないけど。
「家庭的な女の子が一生懸命作ってくれる感じが何かこう……いいのだ……」
「いやもうそれはわかった。とにかく持ってくるから……エレナ、ハンバーグはすぐに作れるか?」
「は、はいっ……材料さえあれば、大丈夫です。あの、バハムートさん……伝統的な……ダークエルフ風のハンバーグに、なりますけど……」
「構わん。むしろ伝統的、というところに母の味的な家庭の温かさを感じてそそられるな……」
ドラゴン族の首領は妙に人間くさい感覚の持ち主らしい。
まあ、何にせよ契約の代価が俺たちで用意できそうなもので良かった。
「あとわかっておるとは思うが……お前らが食べるような大きさと量では話にならんぞ……。さすがに我とサイズの比率を合わせろとは言わんが……ある程度は大きいものをたくさん作ってこい……でなければ世界が滅ぶと思え……」
俺たちの責任が重大過ぎる……。
「わかった。話はついたし、一旦ルーンガルドに戻って作って来るよ。期限とかはあるか?」
「特にはないが……なるべく早めで頼む」
「オーケー。それじゃまた来るよ」
こうして俺たちは、巨大ハンバーグを作る為に一度ルーンガルドに戻って来た。
「テレポートで帰って来れるんだな」
「はい。通常ダンジョン内ではテレポートは使えず、別の転移系魔法を使うことになるのですが……あそこはダンジョンの外という判定のようですね」
「なるほどな……でも、それなら巨大ハンバーグを運ぶ時はかなり楽になるな」
ひとまずサンハイム森本の食堂にて会議をすることに。
「エレナ、ダークエルフ風ハンバーグに使う材料にはどんなものがあるんだ?」
「えっと……」
エレナが教えてくれた材料から考えて、どうやら俺やリカの知っているあちらの世界のハンバーグとは少しだけ違うものらしいけど、大体のイメージは同じだ。
「ライル、特に集めるのが難しい材料はなさそうか?」
「はい、今挙げられた材料なら手に入ることは入るのですが……」
「量的な問題か」
「仰る通りです。バハムート殿の要求は巨大ハンバーグを大量に、ということでしたので、満足してもらえる大きさを一つ作るだけでも普通のハンバーグの何倍もの材料が必要になります。すぐには何とも……」
そこそこに復興したとはいえ、それはルーンガルドだけの話であって、外での魔族の領域は全くと言っていいほどに回復していないらしい。
特に農耕地から取れるものに関しては確実に量が足りないのでは、とのことだ。
「この分だといつもとは違う材料の調達ルートも必要になるか……」
まず考えられるのは人間の街からの調達だけど……。
「リカ、サフラン。人間の街からの調達はどうだ?」
リカは人間だし、サフランはルミナスという人間の街にスナック的なお店を持っている。
「私はテレポートを持っていないから、かなり時間がかかるわ!せいぜいアムスブルクのお店から買い占めるくらいが限界だから、あまり期待はしないことね!」
「えっ……お前テレポート持ってないの?いつもどうやってここまで来てんだよ」
「もちろん走って来てるわ!」
「まじかお前」
シャドウから以前聞いた話だと、ここから一番近い人間の街であるアムスブルクまででもかなりの距離があるとのことだ。なぜか無駄に足の速いリカでも、そこそこの時間はかかるだろう。
リカは最近サンハイム森本にいない日の方が少なくなってきている。
わかってはいたけど、どうやらこいつはめちゃめちゃ暇人らしい。
「私も時間はかからないけど、ルミナスのお店から買い占めるくらいが限度よ。あまり当てにすることは出来ないと思うわ」
「そうか……」
サフランはテレポート持ちだけど、ルミナス以外の街は登録してないということだろう。仮にもモンスターなんだから、登録していてもルミナス以外の街を歩くのは危険だしな。
「とりあえず、ルーンガルドでどれだけ材料を調達出来るかによるか。それに肉の調達もして来ないといけない。ライルに農耕地から取れそうな量を調査してもらって、俺はその間動物を狩って肉を調達して来るよ」
数時間後。
そこそこの数の動物を狩ったところで、時間的にもそろそろかなという頃に俺は魔王城へと帰還した。
すぐにライルも戻って来て、再び食堂で会議が行われたんだけど。
「結論から申し上げますと……材料は何とかなりそうです」
「えっ……まじか」
「はい、私も未だに信じられないのですが……ゴンザレスの働きにより、数日後に収穫できると予想される農作物の量が従来の数倍に跳ね上がっています」
ゴンザレス……アリスと間違えてさらってしまった元無職の中年親父か。
「そう言えば前様子を見に行った時には狂ったように畑を耕してたけど……あいつそんなにすごいことしてたのか」
「どうやらその様で……正直私も怖くなり、ゴンザレスに対する調査を怠っていたのですが……申し訳ありません」
「いや、その気持ちはすごくわかる」
「ルーンガルド民の今後の食料事情も考えて、サフランとリカには食料を買い出しにいってもらいますが、まずは問題なさそうです」
ゴンザレスはまた改めて様子を見に行くとして、ひとまずハンバーグ作りの懸念のうち一つが解決した。
「そうなると次は調理方法か……エレナ、どうだ?」
「はい、さっき……ゴンさんのところに行って、聞いてきたのですが……特注で作れるフライパンの大きさは、大体……これ……くらいが限度みたいです……」
エレナは席を立ち、喋りながらとことこと歩きつつ、身振り手振りで具体的な大きさを示してくれた。
「今の可愛かったわ!エレナちゃん、もう一回やってくれるかしら!」
「リカ、真面目な話してんだから余計な口を挟むなよ」
リカの茶々に少し照れながらもエレナは話を続ける。
「大きさはそれが限界として……一番の、問題は……ハンバーグをひっくり返す時だと思います……。熱したフライパンの中に……入らないといけないので……」
「なあソフィア」
いつも真面目な話になると黙り込んでいるソフィア。
まさかとは思っていたけど俺の肩で寝ていた。
俺の手のひらに乗せ換えて揺り起こしてみる。
「もう~……なんですかぁ……?英雄さん……」
「何ですかじゃなくて……何で真面目な話には参加しないこと前提なんだよ。とにかくさ、ちょっと聞きたいことがあるんだよ」
「ふぁい、どうぞぉ……」
…………。
「手を触れずに離れたところからものをひっくり返す魔法ってあるのか?」
「うぅ……多分ないです……重力を軽減する魔法と……風の魔法とかぁ……いくつかの魔法を駆使すれば、出来ないこともないですが……確実じゃないですぅ……ふわあぁ……」
ソフィアは言うだけ言ってまた俺の手のひらで寝息を立て始めた。
「まあそんな難しそうな魔法だと使えるやつを探すのも大変そうだし、熱さに耐性のあるやつにひっくり返す役をやってもらった方が早いだろうな」
「そうですね、炎熱耐性と言えばヘルハウンドですが、ヘルハウンドはその、犬ですので……ハンバーグをひっくり返すことが出来ないかと思われます」
ライルの言う通りだ。ヘルハウンドは見た目怖いしモンスターはモンスターなんだけど、ぶっちゃけ完全に犬なんだよな……。
ちなみに、アリスとジンはずっと街の見張りをやってくれていたシャドウが「二人で街を散歩しているようでござる」と言っていた。仲が良くて何より。
「キングはどうだ?」
「俺ぁ熱いのは好きだけどよぉ!さすがにフライパンの中に入ると焼け死んじまうなぁ!それも楽しいっちゃ楽しいけどよぉ!」
「ホネゾウは?ていうかお前骨だからいけるだろ」
「骨じゃなくてスケルトンゾンビと言って欲しいでやんす!身体が熱でボロボロにならないように、炎熱耐性を付与する支援魔法をかけてもらえば何とかいけると思うでやんすよ!」
「よっしゃ頼んだ!後はリカだな。お前は決定で」
「ちょっと私の扱いが雑じゃないかしら!仮にも女の子をフライパンにぶち込む気ね!何たる鬼畜!さすがは魔王よ!」
「お前が最近入り浸っているここで食った飯の材料費はどこから出てると思ってんだ。こんな時くらい働け」
「あらそうだったの!わかったわ!」
意外と素直じゃねえか……。
そう、チート系主人公というのは大体が金持ちなので、それを狩りまくってきた俺は実はかなりお金を持っていたりする。
だからここでの生活費を始め、国として必要な費用なんかはほとんど俺が出しているのだ。
リカはダメージも状態異常も全て無効化するし、どうやらスキルポイントも耐久系に振りまくっているらしく、炎熱耐性もかなり高いと聞いている。多少の支援魔法をかけてやれば恐らく熱さすらも難なく耐えるはずだ。
「ライル、これで一通り決まったか?」
「はい。後は材料が揃うのを待って決行するだけです」
「よし!それじゃ各自準備を始めてくれ!リカとサフランはそれぞれアムスブルクとルミナスでの買い出しを頼むな!」
「何だか私だけ仕事が多い気がするけどわかったわ!」
その言葉と同時にものすごい勢いで走り去っていくリカ。
「ふふ、任せて頂戴。きっとルーミンが頑張ってくれるわ」
助かるけど自分では行かないんだな……。
「よっし、じゃあ俺はフライパンの注文にでも行ってくるかな」
「あっ、そ、それなら私も……ご一緒します……」
「そうだな。エレナが居てくれた方が助かるよ」
あら。これはまさかデートというやつでは……。
生活雑貨店「ゴブリンゴ」。
ダークドワーフが経営するこの店は、軒先にまるで下町の金物店のような風情を漂わせているのが特徴だ。
店主は、技術は確かなものの毎度毎度アイディアが残念なゴン。
ゴンは今日も自分が作った商品を眺めながらのんびりと店番をしていた。
「おっす。元気にしてたか?要塞の建設をやってもらって以来だな」
「こ、こんばんは……」
時刻は既に夕暮れ時だった。
「おう、これはこれは魔王の旦那にエレナの嬢ちゃんじゃありやせんか。もしかしてフライパンの正式な発注で?」
「ああ、そういうことだ。材料の調達の目処が立ったんでな」
「よ、よろしくお願いします……」
エレナとゴンで話し合ってもらい、どういったフライパンにするかを決める。
「エレナの嬢ちゃん、提案なんですが……フライパンに翼をつけるってぇのは?」
「えっ……翼、ですか……?」
またゴンがアホなアイディアを出し始めた……。
「いやゴン、奇抜なアイディアは必要ない。オーソドックスで丈夫なやつを頼む」
「しかし魔王の旦那、翼とかつけたらめちゃめちゃかっこいいですぜ……?男にはロマンも必要なんじゃないですかい?」
「エレナは女の子だからな……」
「しかもその翼、はばたくように出来やすぜ……?」
「えっ……まじ?」
しまった興味を持ってしまった。
「ヒデオ様が翼に興味がおありならその、私は大丈夫です……」
「いやいやエレナ、翼に興味がおありって何だよ……大丈夫。正直ちょっと興味をひかれたけど、本当にシンプルなやつで頼むよ」
「合点承知でい」
こうして俺たちはゴンの店を後にしたんだけど。
数日後。
「いやいや何でだよ……」
発注したフライパンを取りに来たら、見事にかっこいい翼が付いていた。
「フリかと思いやして……」
「どこにそんな勘違いをするポイントがあったんだよ」
「これは翼を付けて羽ばたいた形をイメージし、『フライパンヴィクトリーカスタム』と名付けやした。よろしくお願いしまさあ」
「別に聞いてないから」
「ちょ、調理する時に燃えたりしないかな……この翼……」
エレナのツッコミは正しい。
とにかくこうして材料が揃い、俺たちの巨大ハンバーグ作りが始まった。
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