リカの英雄伝
その後、リカには範囲ではなく単体に当てるヘイトスキルで注意をひきつけてもらって、リカが囮になっている隙にキングに倒してもらうというやり方で順調に守護者たちを倒していった。
「ケケケェ!」
まるでその辺の雑草でも狩るみたいに守護者を倒すキング。
「こいつこんなに強かったのか……ただのトラブルメイカーじゃなかったんだな」
「仮にも悪魔族の首領ですからね。基本のステータスが幹部の中でも頭一つ抜けて高い上に状態異常系の魔法なども使えます。戦闘力ではヒデオ様に次ぐ高さかと」
「まじか……」
ライルの解説にただ驚くことしか出来ない。
ドラゴン族の首領、バハムートの住処へと続くダンジョンということで他のダンジョンよりもかなり守護者が強いらしいんだけど、キングはそれを相手にしても全く苦にする様子を見せない。
「ギャオオオオオオ!!!!あっ、これはこれはキン……」
「オラァ!!」
突然出て来たモンスターを一撃で薙ぎ払う。
「おいキング、今のお前の部下だったんじゃないのか?」
「そんなのノリにノッてる今の俺にゃ関係ねえぜぇ!!」
…………。
やがて、ゲームならセーブポイントでもありそうな、明らかにそれまでとは様子が違う部屋にたどり着いた。
部屋の奥には、豪華な装飾の施された扉がある。
「何か出て来そうな感じがすごいするんだけど、みんな準備はいいか?」
「お~っ!」
ノリノリのソフィア。
「よしリカ、開けてくれ」
「開け、ゴマ!」
そう叫びながら手動でリカが扉を開けると、暗闇の中から何かが現れた。
「ココハ……ドコ……アナタタチハ……」
「ヒャッハァ!!」
キングによって何かは一撃で粉砕され、跡形もなく消滅する。
「おおおおおおい!!キング何やってんだよ!!今の明らかにイベントか何かだっただろ!!ああいうのが出て来たらせめて話くらい聞いてやれよ!!」
「細けえことは気にせず行こうぜぇ!」
扉から入った部屋の奥にはまた扉がある。
案の定その扉には何か仕掛けのようなものがあって、キングが話も聞かずに一撃で倒した何かが落とした、メダルみたいなものをはめ込める程度の大きさの穴がいくつか空いている。
まあ、よくあるパターンとしてはどれか一つの穴が正解で、どれが正解かをさっきの何かが教えてくれる仕組みだったんだろう。他の穴にはめ込めば罰ゲーム的なものが待ち受けてるに違いない。
おいおい、どうすんだこれ……。
一体どの穴にメダルをはめれば……。
「英雄さん!ここは魔王らしくズバッと決めちゃいましょう!」
ソフィアの声ではっと我に返る。
「そうだな。考えてもわかるわけないし……みんな、何が起きてもいいように準備をしておいてくれ……いくぞ」
覚悟を決めた俺は、ランダムに選んだ穴にメダルをはめ込んだ。
メダルは穴に沈んで取り込まれ、外せなくなる。
「どうだ……?」
部屋が静まり返り息をのんだ次の瞬間。
天井からめちゃめちゃミカンが降って来た。
「いてて!何でミカンなんだよ!ソフィア、危ないから俺のマントの中に来い!」
「わあ!英雄さん紳士~!」
賑やかに魔王っぽいマントの中に入るソフィア。
今も俺たちの頭上からは無数のミカンが降り注ぎ、ボコボコと音を立てている。
「なかなかおいしいわね!このミカン!」
気づけばリカがその辺のミカンを拾って食っていた。
本当に食い意地の張っているやつだ。腹壊さなきゃいいけど。
ようやくミカンの襲撃が止むと、メダルは押し戻されて穴から取り外せるようになっていた。
「よし、次いくぞ」
取り外したメダルを、また違う穴にはめてみる。
今度は俺の頭にタライが降って来た。
…………。
後ろを振り向くと、エレナとライルは必死に笑いを堪えているものの、キングとリカは隠すこともなく俺を指さしながらゲラゲラと笑っていた。
「ふむ……これはなかなかいい仕事をしてますね!」
ソフィアはタライを飛び回りながら観察し、たまに手で触って何かを確認している。
「ライル……このダンジョンを作ったのはどこのどいつだ?どうしたっておちょくられてるようにしか思えないんだけど」
俺の言葉に、ライルはこちらを向いて一つ咳ばらいをした。
「恐らくは初代ドラゴン族の首領ではないかと……。今となっては確認のしようもありませんが、ダンジョンの主として考えられるのはそれくらいしか……もしくは神、といったところでしょうか」
「神ねえ……ま、いいや」
メダルを取り外し、更に別の穴にはめると、まるで主の気が済んだかのようにあっさりと扉が開く。
「おい、いつまでも笑ってないでいくぞ」
リカとキングを先頭にして進軍を再開。
後ろを歩きながら、俺はソフィアに小声で話しかけた。
「なあソフィア、このダンジョンの主ってもしかして……」
「はい。私じゃないですけど、神々の一柱でしょうね。この世界の住人でもあんな意味不明な仕掛けを作れなくはないですが、かなり大変ですし、あれを作ろうとする趣味から考えても……」
「神ってのはろくなやつがいないんだな……」
ソフィアを始めとして、俺は神には大変な目にあわされてばかりだ。
チート系主人公を全部倒して元の世界へ帰る時には、盛大なお礼を貰いたいもんだな。
部屋を出てからは一本道だったこともあって何事もなく進むと、やがて大きな広間に出た。ゲームとかだといかにも大勢で討伐するタイプの巨大なボスが出そうな今までで一番広い部屋だ。
部屋全体を眺めながら、これまでの経験上起こりうるトラブルを予測した俺は、あらかじめ釘を刺しておくことにした。
「キング、多分だけどすぐにボス的なモンスターとかが出るからな。ちゃんと相手の話を聞いて、そろそろいいかなと思ったら殴るんだぞ」
自分で言っといてなんだけど小学校の先生かよ。
「あれのことかぁ!?」
キングが示す先には、話しかけた瞬間に起き上がってゴーレムとかに組みあがりそうないくつかの岩の塊があった。
「ああ、そうだ。お前はこういう時、いつも真っ先に……」
「あら!これは何かしら!」
声の方に視線を向けると、リカがその岩塊群の一つをバシンバシンと叩いているところだった。
くそっ、もう一人アホがいるのを忘れてた……。
「リカお前なあ、せっかく俺がトラブルの素をあらかじめ断っておこうとしてんのに……!」
俺がそこまで言いかけたところで、岩の塊たちが動き出した。
それはあらかじめ予定されていたみたいに配置を変えると、気づいた頃にはもう巨大なゴーレムへと姿を変えている。
でっか。いやいやこれはまずいだろ。
岩塊群が変形する様子をゴーレムの足元でじっと見上げていたリカ。
「おいリカ!何やってんだ早く逃げろ!」
次の瞬間、ゴーレムは腕を振り上げると、信じられない程の速さでそれをリカ目掛けて振り下ろした。轟音と共にリカの姿が消える。
さっきまでリカがいた場所にはゴーレムの拳があった。
「リカーーーーーーっ!!!!」
「リカちゃんっ!!!!」
「だめだエレナ!危ないからお前は下がってろ!」
「いやあっ!!!!」
俺は泣き叫ぶエレナの腕を後ろからつかみ、こちらに抱き寄せる。
エレナは目の前でリカが消えたショックに錯乱していて、ゴーレムに向かって走り出していたところだった。このまましっかり捕まえてないとまた今にも走り出しそうだ。俺はその体勢のまま指示を出す。
「キング、ライル、やれるか!?」
「おうよぉ!」「お任せください!」
そう言って走り出す二人を見送りながら、俺は何も出来ない悔しさのあまりどうにかなってしまいそうだった。
手加減して『英雄プロージョン』を撃てばダンジョンを崩壊させずに戦うことが出来るかもしれないけど、それでも崩落の危険は残るし、その程度の『英雄プロージョン』があの巨大なゴーレムに通用するかどうかも疑問だ。
「くそっ……リカ……嘘だろ?嘘って言ってくれよ!!!!」
気づけば俺は誰にともなく、そんな風に叫んでしまっていた。
しかし。
「嘘よ!」
「「えっ」」
エレナと声がハモる。
声がした方を見ると、ゴーレムの拳があった場所の下にリカがめり込んでいて、そこから自力で這い出てくるところだった。
「さすがはダメージ無効化チートですね!リカさん、何ともないですよ!」
「あっ」
ソフィアに言われるまで忘れてたけど、こいつHP限界突破チートだけじゃなくて、ノックバック無効やダメージ無効化のチートも持ってるんだった。
エレナはあまりの出来事に泣き止んで呆然としている。
「二人がそんなに心配してくれるなんて、私嬉しいわ!」
リカがそんなことをこっちに向いて言っている背後で、ゴーレムの腕が今度は横なぎにリカを殴った。しかし、びくともしない。
「まじかあいつ……」
「ううっ……」
気が抜けたとばかりにエレナが俺の腕の中でへなへなと座りこんだ。
「エレナ、大丈夫か?」
「あっ……あの、ご、ごめんなさい……」
「それじゃ、後は若いお二人でごゆっくり~♪」
そう言いながらどこかに飛んで行くソフィア。
気づけば俺は座ったままエレナを後ろから抱きかかえる恰好になっていた。
「うわっ……ご、ごめん!」
「い、いえあの……その、ありがとうございました……」
「ちょっと!こっちは真剣に戦ってるのに後ろでラブコメしないで欲しいわ!」
「うるせえ!ラブコメ言うな!俺のことをどうこう言っておきながらお前もデリカシーゼロじゃねえか!」
顔を両手で覆うエレナ。
会話している最中にもリカはバシバシとゴーレムに殴られている。
どうやら、単体用のヘイトスキルをゴーレムに使ってほぼ突っ立っているだけみたいだ。
リカのおかげでキングとライルはひたすらに全力で殴るだけだったから、ゴーレムを倒すのにそんなに時間はかからなかった。
数分後。
「『くそっ……リカ……嘘だろ?嘘って言ってくれよ!!!!』……あれは名ゼリフね!!私感動したわ!!」
両手で顔を覆う俺。
さすがに本気で泣きじゃくっていたエレナを冷やかすことは出来ないらしく、戦闘後のリカのおもちゃは俺一人になっていた。
「でもね、どさくさに紛れてエレナちゃんを抱きしめたのは許せないわ!」
「リカちゃんっ、お願いだからもうやめてっ……!」
バシバシ、とリカを叩くエレナ。
そう、あの時の俺を冷やかすとたまにエレナに飛び火が行くので、さっきからずっとこのやり取りが繰り広げられている。
「もう、本気で死んじゃったと思ったんだから……リカちゃんなんて知らないっ」
「エレナちゃん……ありがとう!愛してるわ!」
そっぽを向くエレナ。
エレナの優しさに感動して抱き着くリカ。ええ話やな。
「ふふふ、このダンジョンでは色々といいものを見せていただきましたよ!」
満足そうに感想を述べるソフィア。
キングは最初から俺たちのやり取りには興味がないらしい。
ライルは、本当は俺を冷やかすリカを止めたいんだろうけど、どうにも出来ないから黙って俺たちを見守っている。
俺たちの初めてのダンジョン探索は終わりに近づいていた。
やがてさっきの部屋から続く通路の先に光の溢れる出口が見えてくる。
外に出ると、そこには地下のはずなのに不思議と明るい世界が広がっていた。
地下であることを忘れてしまいそうなほど広く、天井も高い。
ところどころに丘や草原、森林などの大自然もあり、むしろ地上とは違う点を探す方が難しかった。
「どうやらこれがバハムート殿の住処、ドラゴンの里のようですね」
こうして俺たちは、ドラゴンの里へとたどり着いた。
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