魔物の国のアリス Part3

 Another side:『ヘルハウンドの首領』


 少しずつ魔物の国での生活にも慣れてきたある日。ヒデオ君が、突然食事の準備をする私とエレナちゃんの元を訪ねて来た。


「突然だけどアリスはさ、犬とかって好きか?」


 犬、犬ねえ……別に嫌いじゃないけど、特別に好きというわけでもない。

 それよりも、何でそんなことを聞いてくるんだろう?この前みたいに、突然犬をプレゼント!なんてことはまさかないだろうし……。


 とりあえず、ここは男ウケの良さそうな返事でもしとけばいいかな。


「へ?い、わんちゃん……ですか?大好きですっ」


 おっと危ない。素が出てしまうところだった。

 私結構いい笑顔してると思うんだけど、ヒデオ君って反応薄いのよね……性欲とかないのかしら。


 それとも私の素がバレてる?まさかね。


「そうか、じゃあ明日を楽しみにしててくれ」


 …………?

 変なヒデオ君ね。何だったんだろ……。


 翌日。


「ヘルハウンドのジンだ。犬、好きなんだろ?犬とはちょっと違うけどどうかなと思ってさ」


 うわ~そのまさかだった~。普通に犬連れて来ちゃった~。

 いやいや、どうすんのよこれ。


 犬っぽいけどモンスターだから見た目めっちゃ怖いし!

 普通の女の子だったら泣いて逃げ出すわよ……相手が私で良かったわね。


 さすがの私も、こんな時に普通の町娘がどういう反応をするかなんてわからないなあ……難易度高すぎなんてもんじゃない。どう対応しよっかな……。


 でも迷っている暇はない。何か反応を返さなきゃ。


「わあ、可愛いですね~!私の為に連れて来てくださったんですかっ?ありがとうございますっ」


 よっしゃあうまく笑顔作れたぁ!男ウケMAX!100点っ!


 ちょっとエレナちゃん、そんな「何じゃこりゃあ」みたいな顔したら私が猫被ってるのバレちゃうでしょ!でもそんな素直なところも大好き!


 うっ、ヒデオ君も何だか反応薄い……どちらかと言えば喜んでもらえて安心、みたいな感じね。段々私、自信がなくなってきたわ。さすがは魔王ってことなのかしら……。アムスブルクの男の子たちなんてかなりチョロかったのに。


 とにかく何とかその場をしのぐと、ジンちゃんを迎えてのお昼ご飯になった。

 ちなみにジンちゃんはとってもいい子で、好きな食べ物はイチゴらしい。見た目は怖いのにすっごく可愛いよね。




 ご飯を食べた後、どういうわけか広いところで私とジンちゃんを遊ばせてみようという話になった。


 まあ私は運動も得意なんだけど、犬と遊ぶとなると少しだるいってのが本音。って言っても断るわけにもいかないから、こうして広場みたいなところに大人しく連れて来てもらっている。


 どうせ遊ぶならと思って、ボールみたいなのも持ってきた。一度やってみたかったよのね、あの取ってこ~いってやつ。


 遠くからヒデオ君と精霊様がこっちを見守っているし、ここは一つ元気にはしゃぐ私の姿でも見せてあげますかね~。何だか普通に心配してくれてるみたいだし。


「ほらジンちゃん、行くよ~えいっ」


 …………。

 あれ、何だかジンちゃんが動かないんだけど……「何やってんだこいつ」みたいな顔して遠ざかっていくボールをじっと見つめてる……。


「も~っ、ジンちゃんったらどうしちゃったのっ?」

「何がだ?」

「今のは私が投げたらジンちゃんが取りに行くやつでしょっ」

「なるほどそういうものだったのか」


 ボールを取りに行ってもう一度トライ!


 お~、今度はちゃんと走ってくれてる!っていうかはやっ!さすがはモンスターの首領、身体能力は抜群ね。


 自慢の足でジンちゃんはボールに追いつき、飛び掛かり……魔法で燃やしちゃった……ええっ……。


「あ~っ!もう、ジンちゃんったら何やってるの?めっ!」

「多少強引ではあったがターゲットを始末したのだから俺の勝ちだろう」

「勝ち負けじゃないの!私とのスキンシップなのっ!」

「それはイチゴよりもうまいのか?」

「食べ物のことじゃないっ」


 イチゴ好きすぎ!今度遊ぶ時はたくさん持ってきてあげなきゃね!


 それから少し楽しくなった私は、ちょっと疲れるくらいまで遊んだ後にジンちゃんを家まで送ってから魔王城に連れて帰ってもらった。


 最初はだるいと思ってたけど、何だかんだで楽しかったな。ジンちゃんも見た目は怖いのにすごくいい子だったし。


 そんな感じだったから、魔王城に帰って来た今は少ししんみりしちゃってる。

 またすぐにジンちゃんのところに遊びに行きたいな……。


 今日の余韻に浸っていると、ヒデオ君が話しかけてきた。


「今日は楽しかったか?」

「はい……魔王様、ありがとうございました」

「ヒデオでいいよ。ジンならいつでも会えるから、明日からもたくさん遊べるさ」

「ふふ、そうですね」


 あっ、一瞬だけど素で話しちゃった……まあ、たまにはいいよね。




 Another side:『天敵滞在』


「リカよ!見ての通り人間よ!ここまでやって来たのはいいのだけどあなたを連れて帰ることは出来そうにないわ!ごめんなさいね!」


 リカ……?また何だか変なのが来たわね。人間っていうか、ここにいるってことはチート系主人公でしょうね。


 それよりも、最近ヒデオ君の周りに女の子増えてない?

 いや、その一人が私ではあるんだけど。


 エレナちゃんとヒデオ君をラブさせたいんだから邪魔されちゃ困るわ。


「それで、アリスちゃんはヒデオのことをどう思ってるの!」


 ふふ、この質問は好都合ね、ヒデオ君の前でエレナちゃんをアピールさせなくっちゃ!


「う~ん、どうって言うかぁ……とってもいい人だと思いますっ」


 まず私の分はこんな感じで流しておいてっと……。


「…………」


 と思ったら、リカって子がじ~っと私を見てる。

 何か感づいてる……戦士とはいえそこは女の子ってことか。エレナちゃんと違って人を疑うことを知ってるのね。


「ふ~ん、まあいいわ!それで!エレナちゃんはどうなの!」


 ほっ……流してくれたみたいで良かった。

 ささ、エレナちゃんは何て答えるのかな~。


「エレナ、無理して答えなくていいぞ。こいつらただ単に暇なだけだから」


 ちっ、邪魔しないで欲しいわね……これだから男は。

 暇なだけだからって何よ。恋バナは遊びじゃないんだから!


「ちょっと!無粋な真似はしないでもらえるかしら!あなたは邪魔だから退場してて!ここからは女子会よ!ほら早く!」


 おっ、いいぞいいぞ。リカ先輩やっちゃって!


「いや、ここ俺の部屋なんだけど……」

「ヒデオ!私に逆らう気なのね!?いいわ!家具を持ち込んでこの広い部屋の一角を占領してやるから!」

「そんなことをしても英雄さんは喜んじゃうだけですよ!」

「ソフィアお前開口一番がそれかよ!わかったわかった!出て行きゃいいんだろ」


 こうしてリカさんの功績でうまいこと女子会にできた私たちは、少し雑談を交わした後にエレナちゃんの部屋に移動した。精霊様も付いてきている。


 準備は整った。じっくりエレナちゃんをいじれるわ。リカさんも何だか話のわかりそうな人だしね!


「さあ!これで邪魔者はいなくなったわ!女の子たち!あますことなくその思いを私に打ち明けてちょうだい!実際、あなたたちはヒデオのことをどう思ってるのかしら!」

「私はとってもいい人だなあってだけなんですけどぉ、エレナちゃんは何だかそれだけじゃないみたいって言うかぁ……ね、エレナちゃん?」

「えっ……ちょ、ちょっと、何言ってるの……アリスちゃんっ」

「エレナちゃんはヒデオのことが好きなのね!なら協力してあげるわよ!」

「私も協力します!」


 精霊様までノリノリ!


「ええっ……えと、その……協力って……私は別に……そういうの、よくわからないっていうか……」

「へ~え、そっかぁ。じゃあ、私やリカさんがヒデオ様とあんなことやこんなことしてても何も思わないんだね?」


 あっ、自分で言っといてなんだけどこれいいわ。すごくいい。


「じゃ、今度ヒデオの部屋に行った時はあんなことやそんなことをして遊ぶけど、別に構わないわよね!」

「わあ~!いいですね!楽しみです♪」


 リカさんと精霊様まで乗っかって来た。

 ていうかずっと気になってるんだけど、精霊ってそういう話が好きなのかな?やけにノリがいいような。


「あ、あんなことやこんなこと……?」

「リカさんがヒデオ様と大人な遊びをしちゃうってことよ!」

「私としても、英雄さんには魔王成分が足りないと思っていたところだったので、是非ともお願いしたいです!」


 魔王成分って何だろ……まあ、魔王っぽくないってのならわかるけど。


「えっ……えっ……」

「別に好きじゃないんだったら関係ないよねっ?エレナちゃんっ」

「うっ……もう知らない……みんな嫌い……うっ……ううっ……ひっく……」

「「「あっ」」」


 あらら、また泣かせちゃった……私、いじめっ子みたいじゃない。

 部屋出て行っちゃったし。


 慌ててみんなでエレナちゃんを追いかけてから謝って、何とかその場が収まると今日のところはお開きということになった。


 リカさんが帰る前に、アムスブルクにいる人たちに伝言や手紙があれば持っていってくれると言うので、お父さんとお母さんに手紙を書くことにした。


 そんなわけで今は私の部屋でその手紙を書いてるんだけど、隣ではリカさんがお菓子をぼりぼりと食べている。よく食べるなあ、この人。


「お父さんお母さんへ


 私は元気です。こっちではモンスターさんたちはいい人ばかりで、とても良くしてもらっています。だから心配しないで、そのうち必ず帰るからね」


 う~ん、あんまり大丈夫アピールをし過ぎると人質としての効果が薄くなって早々に返されちゃうかも。ちょっとだけひどい目に合ってる風な感じにしよう。


「お父さんお母さんへ


 私は元気です。モンスターとの暮らしは少し辛いけど、たまに楽しいこともあります。あんなことやこんなことです。魔王様はあらゆる大人なアレを私にしてくるので、私は快楽に溺れてしまっています。だから私は幸せです。心配しないでね」


 バッドエンド感半端ない。これだと帰ったら速攻で家族会議ね。

 それにヒデオ君にも濡れ衣を着せるみたいで何だか悪いし……。


「お父さんお母さんへ


 私は元気です。モンスターとの暮らしはたまに嫌なこともあるけど、特に痛い目にあったり病気にかかったりすることもなく、静かに暮らしています。だから心配しないでね。お父さんもお母さんも、どうか健康に気をつけて元気で過ごしてください」


 うん、こんなもんかな。


「じゃ、リカさんお願いします」

「承ったわ!」


 リカさんは風のように帰って行った。

 よく考えてみたらリカさんに私が元気だったことを伝えてもらえば良かっただけなんじゃ……まあいっか。


 お父さんお母さん、元気かな。お店……大変だろうな。


 でもごめんね……私、ここでエレナちゃんっていうおもち……友達が出来ちゃったから、しばらくは帰れないの……。


 そう思いながら、窓の外で茜色に染まる空を見つめた。

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