第29話

はっ!

とおっ!

うりゃ!


咲夜はひとり蜘蛛の妖魔、鬼蜘蛛相手に奮戦していた。

しかし、相手は何匹も妖魔を喰らい力をつけた妖魔。

咲夜でも躱すので精一杯であった。


「いったい忠助の奴なにしてんの?まったく。くっ!早く応援にきてよ」


咲夜は愚痴をこぼしながらも頑張っていた。

そのとき、忠助が他の黒巫女たちを連れてやってきた。


「咲夜様!おそくなりました。千様を連れてきま、うおっ!」

「待たせたわね咲夜。今すぐ手伝うわっ!な、なんて格好してんのあんた!」

「なに訳の分からないこと言ってんの。早く手伝いなさい!」

「そ、そうね。今はそれが先決ね」


応援に来たのは咲夜のいとこで幼馴染の、神野 千。


「忠助、あんたは後ろを向いてなさい。こっちを見たら殺すわよ」

「は、はい、わかりました。絶対にそっちはみません」

「よし。じゃ、いってくる」


そして、千は咲夜の助太刀にいった。

千がこちらを見るなといったのにはある理由があった。

それは、咲夜の袴が切り刻まれあられもない姿をしていたからだ。

それから次々と黒巫女たちが現れ、十人ほどになったころやっと決着がついた。


とりゃっ!

ざくっ!

ぐりっ!


咲夜は鬼蜘蛛の頭と胴体の付け根にある核に刀を突きさし、戦いは終わった。


「はあ~、つかれた~。忠助お水ちょううだい」

「わかりました」


忠助はカニ歩きで顔を背けて歩いてゆく。


「忠助、なにしてんの?首でも痛めたの?」

「いえ、そうではなくてですね。とりあえず、これ着てもらえますか」


そういうと忠助は、自分の着ていたものを脱ぎだした。


「な、なにやってんのただすけ!この変態!」

「そうじゃないんですってば。姫様、ご自分の恰好をよく見てください。そして、これを着てください」

「ん?」


咲夜はうつむき着物を見た。

そこでやっと理解したのだった。


「きゃ~~っ!」


理解した咲夜は忠助に質問した。


「見たわね」

「えっと、あの~その~・・・」


忠助はどう答えるか考えた。

それも2,3秒のうちに。

見てないといっても、そんなわけないでしょ、と怒られる。

見たといっても、スケベと怒られる。

どうすればいい・・・

そして、忠助はある答えにたどりつく。

そうだ、これならばあるいは。


「どうしたの。やっぱり見たのね。このすけべ」

かちゃ


咲夜が刀に手をかけた音が聞こえた。


「ごめんなさい、見てしまいました。でも、とてもきれいでしたっ!」

「なっ」


咲夜の頬は一瞬にして赤く染まった。

おっ、許してくれたのか?


「き」

「き?」

「きれい、なんて・・・ゆうな~!!」

ぶんっ!

「うをっ!あ、あぶね~!なにするんですか~!」

「うるさい。うるさいうるさいうるさ~い。黙って私に殴られなさい」

「な、なんで?褒めただけなのに」

「それでも見たんでしょ。なら、わすれさせてあげるから」

「かたなでですか?」

「そう」

「死んじゃいますよ」

「だいじょうぶ。峰打ちで殴るだけだから」

「それでも死んじゃいますよ~!!」


そう叫んで忠助は走って逃げて行った。


「こら忠助、素直になぐられなさ~い!」

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