第27話 陰陽剣鬼編
「ねえねえ村正。こいつ、正恒なんか持ってる。こいつには勿体ないから、長光と正恒も持って帰るね」
ああ、好きにしろ。
小夜の奴は今日も刀を狩っている。
今日は、長光と正恒だ。
そのおかげで、小夜の奴の機嫌がいい。
こんな顔を見ると、昔を思い出す。
一番古い思い出は、人間を切った思い出だ。
すぱっと気持ちいいくらいに、骨ごと断ち切った。
それが一番古い思い出だ。
そして、その時俺で人間を切ったやつが、小夜のご先祖様というわけだ。
名前は、神野 咲夜(さくや)。
そのあとも、こいつは人を斬りつづけた。
小夜も人斬りはするが、こいつは人を斬り殺すのが目的だった。
いや、人斬りというよりも、神野の連中に復讐しているようだった。
「咲夜様、星読み様からの伝言で、妖魔が出るから退治しろとのことです」
「またですか。昨日もそんなこと言って妖魔なんか出なかったのに。行きたくないですね」
「さ、咲夜様、どうかそんなこと言わずに」
「わかってます。ただの冗談です。行きますよ、忠助」
「はい」
その夜、月読みのばあさんの占いはあたった。
くそっ、ばあさんのやつ、ご先祖様が落ちこぼれ陰陽師だったからって偉そうにして。
はらたつ~。
全然当たらなかったら、無視してやるのに。
「忠助、まだですか?」
「もうすぐです。この道をまっすぐ行ったところのはずです。あっ、見えてきました、咲夜様」
「うん。それでは行ってきます」
「えっ、だめです咲夜様。一人で突っ込んでは!」
「大丈夫。あんな妖魔にやられたりしないから」
「いえ、そうではなくて・・・。行ってしまわれた。あ~もう、また怒られるから他の黒巫女たちを待ってほしかったのに」
咲夜は忠助の静止なんか気にせずに、妖魔に斬りかかっていった。
決着はすぐについた。
「忠助、封印の方おねがいしますね」
「はいはい、わかりましたよ。剣姫さま」
「忠助、いまどっちの『けんき』のつもりで私を呼んだの?」
「そりゃ『ひめ』のほうですけど」
「そう、ならよし」
姫様は、『けんき』と呼ばれるのがあまりお好きではない。
他の黒巫女の中には、剣の鬼で『けんき』と呼ぶ人間もいるからだ。
男の俺としてはそんな風に呼ばれてみたいが、女の姫様は違うらしい。
かっこいいと思うのだが。
女はわからん。
封印が終わりしばらくすると、他の黒巫女たちがやってきた。
「姫様、またおひとりで妖魔を相手にしたのですか」
「いえ、忠助もいましたよ」
「あんなのは数のうちに入りません。何度言わせれば気が済むのですか姫様」
ひどい。
あんなのはひどすぎる。
たしかに妖魔なんかの相手はできないけど・・・。
いま、俺のことをあんなの呼ばわりしたのは、俺の姉貴の、神野 さやか。
そう、俺はただの咲夜様のお付きの世話係だ。
「忠助!」
「は、はい!」
「なぜ姫様を止めなかったの!」
「いや、止めようとはしたんだけど」
「うるさい!口答えする気」
そう言うと、さやかは忠助を睨んだ。
「すみませんでした」
「そう、はじめから素直に謝っていればいいの。それから、これからは体を張ってでも姫様を止めなさい」
ばかいうな。
そんなことしたら切り殺されるわ!
「へんじ!!」
「は、はい!」
「まあまあ、許してあげて、私が悪いんだから。ねっ、おねがい」
「わかりました」
はあ~っ、たすかった~~。
でも、元をただせば姫様のせいだけどな。
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