第21話

テレビを見ていて俺、村正は思う。

最近の黒巫女はなにをしているのかと。

いま日本は、妖魔にやりたい放題されている。

ただの自然災害なら仕方がないだろう。

しかし、妖魔がその自然災害に干渉してしまうと、予想以上の災害になってしまう。

それを未然に防ぐための黒巫女だというのに、随分黒巫女の質も落ちたものだ。

数十年に一度とかいう災害が、毎日のように起こっている。

まあ、小夜と俺たちには関係がないが。

と、思っていたのだが、今小夜と俺たちがいる場所が危ないらしい。

ここの管轄の黒巫女が早く妖魔をどうにかしてくれればいいのだが、てこずっているらしいのだ。


おい小夜よ。

このままでは、このあたりが水に浸かってしまうぞ。

「わかってる。それにしても黒巫女のくせに、なにやってんだろ」

そう言ってやるな。

やつらでは、歯が立たないやつなんだろうよ。

「ふん、よわっちいのばっかりしかいないのかな」


こうして、渋々ながら小夜は妖魔を封印しに行く。

妖魔がいる山奥に着くと、思った通り黒巫女たちが手も足も出ない状態だった。

相手の妖魔は、すっぽんの甲羅に、前と後ろに龍の出来損ないの頭を4つずつある妖魔だった。

その妖魔に黒巫女たちは、斬りつけるどころか、身を守るのに必死のようだった。

小夜よ、早く行った方がいいぞ。

いつ土石流が起きてもおかしくない感じだ。


「そっか、わかった」


黒巫女たちは、何とかしようと踏ん張っていた。


「班長!こんなの私たちには手に負えません。逃げましょう」

「ばか!そんなことしたら、麓の町や村はどうなると思ってんの」

「しかし・・・」


そのとき、黒巫女たちの前に狐面の小夜が飛んできた。

黒巫女たちは、それを見て驚愕した。


「な、なんでおまえがここにいる。まさか、これもお前の仕業か?」


小夜は、黒巫女の言うことなど無視して言い返す。


「あんたたち邪魔。向こういけ」

「なっ!」


そのとき、その黒巫女に出来損ないの龍の口が向かってきた。

黒巫女は、やられたと思った。

だが、目の前で小夜が首を落とすのが、まるでスローモーションのようにはっきりと見えた。

小夜は黒巫女に命令する。


「死にたくなかったら、此処から離れて私が斬り落とす首でも封印してろ」


黒巫女は頷くと、ほかの黒巫女たちにも伝えた。


「狐面の言う通りに、斬り落とされた首を封印することだけ考えなさい」

「しかし、あいつは」

「わかってる。でも今はあいつに頼るしか道はない」


少しだけ考えて、その黒巫女は頷いた。

あれだけ黒巫女たちが手こずっていた妖魔を、小夜は10分もかからずに出来損ないの龍の頭を切り落としていった。

最後の首を切り落とすと、甲羅の部分は灰色になり消えていった。

首の部分は、まだ生きていて黒巫女たちは、何とか封印できているようだった。

はあ~、ただ働きか~と、小夜が思っていると村正の声が頭に響いた。


「どういうこと?」

あの黒巫女が持っているのは、光忠だ。

「えっ、うそ。あの長船の祖っていわれてる?」

そうだ。

「なんで言ってくれなかったの」

今日はどうなるかわからなかったからな。

「ふ~ん」


気のない返事をしているようだが、小夜の顔はどことなくにやけていた。

小夜が黒巫女に声を掛けようとしたとき、向こうから声を掛けてきた。


「妖魔を倒してくれてありがとう」

「・・・」

「でもね、あんたをこのまま見逃すことはできない。だから、私と勝負して。どうせ、この光忠が欲しいんでしょ」

「全員でかかってきてもいいのに」

「全員でかかっても勝てないのはわかってる」

「だったらなんで?」

「この刀は、先祖代々伝わってきた家宝だからよ。そして、これは私の神野家に生まれた意地よ」


それを聞いた小夜は、少しだけ考えてから答えた。


「わかった。それじゃ、その意地というのを、私に見せて」


そう言うと小夜は、一人の黒巫女から鞘を借りた。


「かして」

「え、な、なにを」

「鞘貸して」


小夜は、黒巫女に向かって鞘を構える。


「鞘なんかでいいの?」


それに小夜は答えない。

じっと構えたままだった。


「わかった」


黒巫女は刀を抜いて正眼に構える。

じりじりと近づき、間合いに入ると同時に、上段から思い切り振り切った。

だが小夜は紙一枚でそれをよけ、左の腕をたたいた。

斬りつけるたびに、黒巫女は小夜に何処かしこ叩かれていた。

腫れない程度に。

1時間ほどしたころ、それは終わった。



「はい、終わり」


いきなり終わりを告げられ、息の上がり切った黒巫女はきょとんとしていた。

自分を取り戻した黒巫女は、どういう事だとたずねた。


「ん~、なんとなく?でも、これで少しは強くなったと思う」

「わたしがつよく?」

「そう」


それだけ言うと、小夜は雨に濡れて闇夜に消えていった。

小夜は、宿屋に戻るといつものように刀の手入れを始めた。


「光忠の擦り上げ(刀の長さに短くしたもの)してない太刀なんて珍しい。腰反り高くて重ねが厚くて身幅があって、切っ先は猪首(いくび}。まさに光忠。

地金は小板目がよく積んで細かい地沸(じにえ)があって、乱れ映りがきれい。

それから、刃紋は重花丁子かあ。へ~え」



翌日、小夜が妖魔を倒した町や村以外のところは、川が氾濫して洪水になったり、山崩れがあったり、土石流にあったりした。

この同時多発的な妖魔の出現には、黒巫女は対処できなかった。

小夜がいた町や村以外は。

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