第12話

「うお~っ!まだまだ~っ!!」


美紀は今、早紀と幸を相手に稽古をしている。

わしをでたらめに振り回すのを、稽古と呼んでいいか分からないが。

とにかく今の美紀は、自分でも抑えられない有り余った体力と、妖魔退治に出られないイライラをわしを振り回すことで、消費しようと思っておるようじゃ。

何故妖魔退治に出られないかと言うと、狐面に会わないようにするためじゃ。

じゃから、強い妖魔が出てしまい、応援要請があった時だけ、仕方なく妖魔封印を手伝う事を、美紀たちは許されている。

わしも気づかなかったが、美紀の奴は妖魔を封印することで、心の平穏を保っておったようじゃ。

おっ、ようやく終わったようじゃ。


「はあはあはあはあ、この子どんな体力してんのよ」

「ほんとに、わたしたちは休憩取りながらですけど、休憩なしで刀振り回し続けるなんて」


早紀も幸もお疲れさんじゃったな。

わしの主が、体力バカですまなんだの。

美紀が溜まった体力とうっぷんを消費したころ、小夜は岩手を出て新潟に来ていた。


「村正、刀探してきて」

「探してやってもいいが、ならお前もここを出てゆくんだな」

「・・・」


小夜は涼しい喫茶店で、のんびりクリームソーダを飲んでいた。


「ねえ、村正」

「なんだ」

「なんで村正には足が無いの?」

「それは、俺が一人で探して来てくれればいいのにということか」

「うん」

「では想像しろ、足の生えた刀がその辺をぶらぶら歩いているのを」

「きもちわるい」

「小夜よ。暑いのは諦めろ。そのかわり、仕事は日が暮れてからやればいいだろ」

「うん。そうする」


喫茶店を出ると、村正は刀の気配を探した。

はじめは大まかな方向へ車で移動し、妖魔を召喚する場所は歩いて捜した。


「暑いよ村正。もうどこでもいいよ」

「そうもいくか。しかし、そのままでは暑いか。では、日傘でも買え。少しはましなはずだ」


村正に言われ早紀が買った日傘は、白いレースのついた紫の日傘だった。


「どうかな」

「お、おう。お前にぴったりだ。よく似合っている」

「そう?」


似合ってる言われ、小夜はご機嫌であった」

派手な気もするが、それは言わない方がいいな。

機嫌を損ねるとめんどくさい。

1時間ほどすると、仕事場所は見つかった。


「うむ、この交差点でいいだろう」

「もう終わり?」

「そうだ。今日の夜はこの交差点に妖魔を召喚する」

「うん。じゃ、いこう」

「どこに行く気だ」

「近くの喫茶店。もう暑くて死にそう」


そして夜の9時になり、小夜は行動をはじめた。

げふ

「おい小夜。お前大丈夫なのか」

「大丈夫、大丈夫。げふ」

「大丈夫じゃないだろ。だいたいお前、飲み食いしすぎだ」

「でも、ジュース1杯で、何時間もあそこにいれないから」

「あの店暇してたんだ。何か言われるまでほっとけばよかったんだよ」

「そんなの、お店に悪い」


こいつは~、こんなとこだけ律儀なやつだな。


「小夜よ。ホントに大丈夫なんだな」

「大丈夫」

「そうか、なら後は頼んだぞ」

「うん」


そして小夜は、いつものように妖魔を呼び出し、黒巫女を待った。


「聞いてなかったけど、今日はどんな刀」

「ああ、今日は左文字だ」

「正宗十哲の?」

「そうだ」

「へえ」


5分ほどすると、結界士に黒巫女がほぼ同時にやってきた。

おかしい。

左文字の気配がない。


「小夜。左文字の気配がない」

「どういうこと?」

「言葉のままだ。あの黒巫女たちの中に、左文字を持った者はいない。遅刻か」

「そんなことないと思うけど、もしかしたら病気かなんかで出てこれないのかも」

「どうする小夜」

「目当ての刀がないなら、帰ろうかな」


その日黒巫女たちは、無事に妖魔を封印した。

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