第11話

「幸、あんたいい加減に帰らなくてもいいの?」

「う~ん。わかんない」

「どういう意味?」

「それがね、帰って来いっていうまで、こっちにいろって言われてるんだ」

「なにそれ、もうすぐ休みも終わりなのに。幸、あんた嘘ついてんじゃないの?

学校行きたくなくて」

「学校は行きたくないけど、嘘なんかついてないもん」

「学校行きたくないってのは、否定しないんだ」


美紀と幸の会話を、早紀は黙って聞いていた。

これはもしかしたら、狐対策かもね。

狐が狙っているのはどうも、五ケ伝の刀、それも有名刀匠の刀みたいだから、1ヶ所に集めておきたいとか。

関西支部の役員でもある、おじさんに聞いてみよう。

あの子たちには内緒で。


「おじさん、幸が帰らないのは、もしかして狐対策?」

「ああそうだ。よくわかったな、早紀ちゃん」

「やっぱり。この間の会議でそう決まったの?」

「いんや。決まっていたら支部からの命令が出るはずだろ。支部の上の奴らは、

各自で判断しろだってさ。こんだけ被害が出てると言うのに。馬鹿なのか、あいつら」

「それでなんで、幸はいるの」

「賛成した奴らだけで、五ケ伝の刀持ちを、それぞれ集めることにしたんだよ。その一つが、うちっていうわけ。あいつらには言うなよ。どんな反応するか分からないからな」

「そうですね。そのほうがいいかもしれません」


なにやらひそひそ話をしていると思えば、そういうことだったのか。

たしかに、あの二人には聞かせん方がいいかもしれんな。

しかし、関西支部のやつらは、何を考えておるんじゃ。

被害が出てからじゃ遅いというのに。

余程腕に覚えがあるんじゃろか。

だとしたら、大輔が言う通り、馬鹿の集まりじゃな。

各自の判断とは言え、狐対策が取られていた頃、小夜はようやく暑さに慣れてきたようだった。


「小夜よ。体の方は大丈夫なのか」

「だるいけど平気。それで、刀はどんなのがあるの?」

「ああ、古備前正恒があるぞ」

「へえ」

「どうする、やるのか」

「やる。休みすぎたから」


刀強奪というしごとがあれば、小夜は成績トップだろうな。

ほんとにあったら、こわくて誰も刀を持とうとしないかもしれんが。

今回の仕事場所は、盛岡市の郊外にある交差点。


「ここでいい」

「ああいいぞ」


いつものように妖魔を召喚すると、やはり5分と経たずに結界士が現れた。

そして黒巫女。

妖魔の封印が終わるのを見たどけた小夜は、黒巫女の前へと飛び出した。


「き、狐面の悪魔。何しに来た」

「いいから、正恒ちょうだい」

「くれと言われて、やるやつがいるか。これはうちの家宝だ。誰がくれてやるか。

みんな、取り囲め。行くぞ、狐やろう!」


6人の黒巫女たちは、じりじりと間合いを詰めていく。

構えは、上段、下段、正眼に構える者もいれば、右袈裟、左袈裟に構える者、霞に構える者、みんなばらばらの構えを取っていた。


「これでお前はおしまいだ」

「意味あんの。それ」

「意味はある。みんな同じ攻撃ならともかく、バラバラの攻撃だ。全部の攻撃に対処は出来ないはずだ」


「村正。どれが正恒?」

「正面の黒巫女の刀がそうだ」

「わかった」


小夜は村正に確認を取ると、黒巫女に手招きをした。


「来て」

「言われずとも、いくわ!」


黒巫女たちが一斉に斬りかかってくる。

小夜はぎりぎりまで引き付け1回転し、正恒以外の刀を破壊。

正恒を持つ黒巫女の腕を切り落とした。

正恒を傷つけないために。

そして、2回転目に入り、他の黒巫女たちの胸のあたりを切って、はだけさせた。


はだけさせた意味は分からないが。


「まだやる?」


そう小夜が問うと、黒巫女たちは悔しそうな顔をした。

自分たちの仲間が、無残にも腕を切り落とされたのだ。

獲物を持っていれば、死を覚悟して斬りかかっていたかもしれなかった。

そして、小夜は闇に消えて行った。

宿に帰る途中、引っかかることがあったので、村正は小夜に問いかけた。


「小夜よ聞きたいことがある」

「なに?」

「あの2回転目の攻撃、何か意味があるのか?意味があるようには見えなかったが」

「・・・」

「どうした」

「意味があるかは、私が決める」

「そうか。俺には人間の考える事は、分からんと言う事か」


小夜は少し胸が痛んだ。

あの攻撃は、小夜のひがみから出た攻撃だった。

今日の黒巫女たちはみんながみんな、胸の大きな連中ばかりだったからである。

それに小夜は嫉妬して、最後の無駄な攻撃をしてしまった。

しかし、殺すことはいくら何でもできないと小夜は判断し、服を斬りはだけさせるにとどまったのだった。

そんな、ひがみ根性丸出しの小夜は、宿に着くと正恒の手入れを始めた。


「地鉄は小板目がよくつんで地沸(じにえ)もよくついてる。刃紋は直刃(すぐは)で小乱れまじりかあ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る