2.彼女はそこでまだ

 黒い本を読んでいる。思い起こされる限りの記憶を遡るが、記憶と寸分たがわぬ姿で読み続けている。何を読んでいるのか。先に見たものと違う本だろうと推測される。もっと、薄い、詩集か何かだろうか。文字は相変わらず小さいが、少ない。余白が多い。間違い探しをする子供か何かか、と自分の姿に呆れるも、彼女を盗み見することはやめられない。仕方がない、黒い塊が視界に入れば気になるというものだ。

 そういえば、彼女は一体どこの誰なのだろう。土地は広いが、人間関係の狭い田舎だ。内の人間なら知らないはずもなく、外の人間なら大抵内の誰かの親戚だ。でなければ誰がこんなところに好き好んで訪れるのだ。しかし、誰かが遊びに来たなんて話を聞いていない。ならば、この田舎にただ本を読むに好ましい環境を求めに来た奇人だろうか。

 黒い彼女だ、それもありうる。

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