第5話 波打ち
それは、さっき私が降り立った駅のホームの写真。
街の中で一番大きな駅で、高校に通ってた頃は毎日利用していた。
はずなのに。
朝焼けの白く輝く空に、地を這う位の低い視点から、駅のホームとベンチを切り取った一枚。
綺麗なものだけが集まって出来た写真。まるで違う場所を写しているように見える。
「……紗世が上京するのを見送って、もう四年か、」
この写真は、私が上京する日の朝。見送りに来ていた風斗が地べたに這って撮った写真。こんな時にまで写真撮るのか。って、その時は私と雷斗で笑ったけど、いざ現像されて、額縁に囲われているものを見ると、あのときの一瞬一瞬が鮮明に甦る気がした。
こんな写真を撮れる人を、私は風斗以外に知らない。
「私には、四年前も今もあの駅がこんな風には見えないや」
「まぁ、実際、寂れたふっるい駅だから」
雷斗が、私の言葉に同調するように笑ってくれる。が、違うのだ。
風斗はいつもそうだった。どことなくぼんやりしているようで、必ず周りに見えていない何かを見透かしていた。
周りが気にも留めないところに、スポットライトを当てて、輝かすことが出来る力を持っている。
当時の私にとってそれは、憧れだった。
写真を撮るが趣味だった年の離れたいとこの影響もあって、小さなころからカメラ片手の生活を送っていた高校生の私。しかしながら、撮る写真はぱっとしない物ばかり。
たまたま同じクラスだった風斗の見え隠れする才能に目を付け、写真仲間にしたはいいものの、持ち前のセンスをいかんなく発揮して次々と評価されていく彼。
彼でなければきっと恨んでいたかもしれない。
彼の性格や人柄もあり、さしてコンプレックスを抱くことなく円満に、私は写真を撮ることをやめ、彼と彼の双子の弟である雷斗、それに私の三人で残された高校生活を謳歌した。
高校を卒業すると同時に、私は上京して編集社の記者になることにした。そこには少なからず風斗の影響があった。
風斗の様に、人とはどこか違う
でも、うまくはいかなかった。
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