魔王様が魔王城攻略パーティに加入しました。

月城 ゆあ

第1話

「君の願い事は何だい?」


「願い?」

 

願いなんて考えたこともなかった。


「願い・・・・・・じゃあ、旅をしてみたい。まだ、見たことのないものを見てみたい」


 ぼやけていて何かよくわからないが、人の形をしている何かが、くすっと笑う。


「そんなことでいいのかい?何でもいいんだよ!欲しいものでも、やりたいことでもなんでも!ふふっ。わかった。君がそこまで言うなら、君の願いを叶えよう!・・・・・・そこで、君の本当の願いが見つかるといいね」


 え、最後はなんて言ったんだろう。だんだん薄れていく声の最後の言葉は俺の耳に入ることなく消えていった。



 ん?またこの夢か。目を覚まし、今まで何度か見たことのある夢に、少し疑問を持ちながら魔族特有の紅い右目を魔法で隠す。魔王だからか、両目ではなく片目だけなんだよな。


「おっと・・・・・・そろそろ物資が尽きるな。どこか街を探すか」


 とりあえず今滞在している森を抜けるべく一直線に歩き出す。


 ん?こんなとこに湖が。丁度いい。水も無くなってきたことだし、もらっていくとしよう。水筒を開け湖に近づくと人影が見えた。先客がいたらしい。まあ、水をもらっていくだけだしさっさと済ませるか。


 水を汲もうと手を伸ばし目線を前に向ける。目が合ってしまった。金髪でロングヘア、スタイルもよくきれいな白い肌。綺麗な女の子だ。見とれてしまうほどに。やってしまったと少し後悔しながら言い訳を考える。


「な、なんでこんなところに人がっ!」


と急いでで草むらに隠れる。


「いや、その水を汲もうとしただけなんだ。別にのぞきをしようとしたわけでは・・・・・・」


 こんな言い訳が通じるだろうか。むしろ逆効果ではないか、少し心配になってきた。


 女の子は「はあ。」と一つため息をつき

「いえ、私も不覚でした。まさかこんなところに人がいるだなんて。少し待ってください。今着替えるので」


 待たなければいけないのか。気まずいから今すぐこの場を去りたい。



 「お待たせしました」


 意外と早く出てきたのであまり頭の整理ができていない。

「まあ、まずは自己紹介からしましょうか。私はアイシア・イリュームです」


 今この状況で自己紹介するのか?なんか少し抜けているようなだな。


「で、あなたは?」


「俺はロロ。旅人だ」


 少し戸惑ったが自己紹介に乗ることにした。


「まあ、呼び止めてしまったけど、なんで呼び止めてしまったのでしょう?」


 いや、呼び止められた方がそんなことわかるわけがない。なんだこの人狙ってぼけてるのかそれともマジの天然!?


「こんな時に言うのもなんだが、近くに街はないだろうか。そろそろ物資が尽きそうだから買いそろえたいんだ」


「街ですか。それなら少し歩いたところに王都があります。私も用事があるので案内します」


 アイシアは荷物を持ち出発の準備を始める。行動力があるらしい。またアイシアのペースに乗せられてしまった。まあ、いいか。細かいことは考えないようにし前に進みだしたアイシアの後ろに続く。


「少し歩けばとは言いましたが、半日はかかるのでご容赦を」


「半日くらいなら問題ない」


 王都か、最近王都の周りで魔族がよくあらわれるらしい。そんな噂を数日前に聞いたが、まさか自分が王都に行くことになるなんてな。俺が魔王ということはばれないようにしなくては。



 馬車が止まっている。何かあったのだろうか。


「何かあったのですか?」


 相変わらずの行動力だと、少し感心しつつ話を聞く。


「車輪が壊れてしまってな。これを王都まで運ぶようなんだけど、どうしたもんか・・・・・・」


「わかりました。専門ではありませんが、少し手伝いましょうか」


「それは助かるよ」


 馬車のおじさんは、ほっとした様子で答える。


 しかし、何か引っかかる。この道は俺たちが来た道と同じだ。ここら周辺には町はない。あの森を馬車で?あの森を抜けるのに何日かかると思っているんだ。


「おじさんその荷物は何が入ってるんですか?」


 アイシアが馬車の荷物に手を伸ばし、被せてあった布をよける。これは・・・・・・大規模な爆発を起こす水晶だ。


「はあ、クソッ!ばれずにやるつもりだったのになあ」


 さっきまで温厚だったおじさんは一変してきつい口調にかわる。


「おじさんのその目・・・・・・魔族だったんですね」


 あの紅い目は確かに魔族のそれだ。まさかほんとにこんなところに出るなんてな。


「力ずくで止めさせてもらいます」


 アイシアが動く。まさにその速さは閃光。一瞬で懐に入り、手持ちの剣で貫いた。と、思った。しかし剣は折れ、剣先が宙を舞い、ガランという音を立て、地面に落下した。魔族には傷一つついていなかった。魔法で強度を上げていたらしい。


 魔族の強烈な蹴りが腹部に直撃した。


「ぐっ!けほけほっ・・・・・・がはっ・・・・・・」


 そろそろ見てられない。アイシアにはさっきのわびもしてないし王都まで案内してもらうし、まだ何も返してあげられてない。よし、やるか。


地面を強く蹴り、魔族との距離を詰める。


 ドンッ!まずは一発。魔族の腹部に一撃。そして次の蹴りで魔族の体は横に真っ二つに両断した。


「ふぅ。悪いな」そう魔族の亡骸に一言掛け、アイシアのもとに向かう。


「あなたは一体何者ですか?剣で傷つかない魔族をたった2発だなんて・・・・・・」


「俺は・・・・・・旅人だ」


 少しこの言い方だと何か文句が飛んできてもおかしくないな。


「ふふ。そうですか。手を貸してくれてありがとうございます。旅人さん」


 アイシアは俺の前で初めて笑った。初めて会ってからこんなに笑った彼女は見たことがなかった。「ハハッ。」なぜだろうか彼女笑顔を見たら俺まで笑ってしまった。不思議な人だ。もちろん悪い意味じゃない。


 あれから、2時間と少しが過ぎ街の入口までついた。


「ここが王都です。ついてきてください。気が変わりました」


 ん?なんだろう。言われるがままについていくことにした。


 城の門を通過し堂々と城に入っていく。少し嫌な予感がしてきた。しかしなぜよりによって城なんだ?しかも普通に城に入れるなんていったいアイシアは何者なんだ。


 「遅い!時間はとっくに過ぎているぞ!いったいどこで何をしていた!?」


 扉を開け、前を向く。そこには2メートルはあるだろう40歳くらいの男性と綺麗な青い髪のポニーテールがよく似合う、10代後半くらいの少女とリッカルド王らしき人がそこでなにやらアイシアのことを待っていた。


「その男は誰?」


 銀髪の少女は、少し警戒したように問う。


「この人はロロ。私はこの人を魔王城攻略パーティのメンバーに推薦します!


 はあ?あまりに衝撃的な一言にその場の全員が驚愕する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る