年上彼女は甘えながらも奉仕がしたい!

二川 迅

プロローグ

1 俺のOL彼女

「う、受かった………」


 二月末。俺は届いた書類を凝視していた。

 そこに記されていたのは、念願の高校、舞原高校。

 公立にして倍率も高く偏差値もそれなりにあったため、先生からはやめておいた方がいいと言われた。

 でも、俺の中では舞原高校に入りたかった唯一の理由。

 沙麗されいさんがいるからだ。沙麗さんは俺の大切な恋人。かけがえの無い人だ。


「さ、沙麗さん……!」


 俺は沙麗さんが会社から帰ってくるのを玄関で犬のように待っていた。早く沙麗さんの喜ぶ顔が見たい。周りをグルグルと回って書類を何度も見返す。

 そして、その度に不安に思う。これがもし夢ならば。でも、それでも沙麗さんには伝いたい。ただその一心だった。


「ただいまぁ…」

「沙麗さん!」

「きゃっ!し、翔人しょうと?」


 その場で叫び、バッと書類を見せる。

 最初は目を細めて書類をマジマジと見ていたが、やがて明るくなり、自分のことのように喜んだ。


「う、嘘っ!?やったー!」

「わっ!」


 沙麗さんは涙目になりながら、俺を体ごと自分の方に寄せ、きつく抱きしめた。ワイシャツ越しにふくよかな二つ膨らみが完全に密着する。

 俺は沙麗さんの胸が当たったことにより、さらに焦り始めた。


「やった!翔人ぉー!」

「さ、沙麗さっ……」


 沙麗さんはさらにきつく抱きしめ、流石に俺は息が苦しくなったが、悪い気はしなかった。

 沙麗さんの仄かな香りが俺の鼻腔をくすぐる。ラズベリーの匂いだ。


「さっ、今日はお祝いだね。翔人、何か頼む?」

「へっ?いいの?」

「いいのいいの!今日給料日だから、お姉さん張り切るよ!」


 袖をまくり、鼻を鳴らす沙麗さんは少し無理をしているようで可愛らしかった。


「い、いいよ。沙麗さんの手料理が食べたい」

「わ、私の?」

「うん」

「翔人はそれでいいの?」

「それがいい」

「……よしっ!それじゃお姉さん腕奮っちゃうよ!」


 今度こそ得意げになる沙麗さん。

 浜名 沙麗。俺とは11歳という大きな年の差がある。現在は大手ゲーム会社のOLとして働いている。

 金色の光る長い髪は腰まで伸びており、青色の双眸が綺麗さをさらに引き立たせていた。俺はそんな彼女に去年告白されたんだ。

 去年のバレンタインデー。俺はこのずっと前から沙麗さんの事が好きだった。

 沙麗さんがそれを汲み取ってくれたのか、毎年バレンタインデーにはチョコを貰う。その時は俺の気持ちがバレて親切でくれたと思い、焦ったのだが、沙麗さんはその後すぐに


『本命……だよ?翔人くん』


 と、顔を赤らめながら上目遣いで言ってきたので、俺はその時に大声で告白の返事を返して、今に至るということだ。

 また、チョコを渡したところが俺ん家の前だったので、親にはガッツリ聞こえた。

 最初は反対されるかと思ったのだが


『年の差なんか関係ないよ。沙麗さん可愛いし、いんじゃない?』


 と、かなり適当な事で俺達は親公認のカップルとなり、今は俺ん家のお向かいの家に同棲している。もちろん、学校にはバレていない。


 俺は高校の書類を机の上に置き、自分の携帯を見る。LINEがいくつか来ていたが、それを全て無視をして、ゲームを始めた。

 受験勉強に熱心だったため、ゲームをするのは本当に久しぶりだった。部屋にはキッチンでエプロンを着け、鼻歌を響かせる沙麗さんだけだった。


「本当に、翔人がまさか舞原高校に受かるとはね〜」

「俺もびっくりだよ。まさかあんないい高校に入れるなんてね……」

「部活はどうするの?」

「どうしようかな……」

「でも翔人なら何でも出来るでしょ?」

「まぁ……」


 舞原高校に入ったのはいいのだが、それからが問題なのだろう。部活もこれと言って入りたいものもない。

 自分で言うのもなんだが、体力には自信がある方なので、運動に遅れは取らないと思う。

 しかし、部活に入ると沙麗さんとイチャイチャ……なんて、そこまで濃いカップルじゃないので、一人の時間もしっかり作らないといけないし、沙麗さんだって会社があるし。


「できたっ!」

「はやっ……」

「はい!オムライス!んで、ケチャップで「syouto love ♡」って書くの!」

「メイドカフェかここは……」


 俺の問いかけにも答えず、沙麗さんはスラスラとケチャップで文字を書いていく。

 沙麗さんは器用で丸い可愛い文字で「syouto love ♡」と描かれた。それを見て、俺は思わず感嘆の息を漏らした。


「すげぇ……」

「んふふー、褒めて褒めて!」

「すごいよ沙麗さん……食べるのがもったいないくらい…」

「でしょでしょー、いやぁ、頑張ったかいがあったなぁ」

「あ、でも調子のってお酒飲みすぎないでよ」

「うっ……」


 沙麗さんはお酒が大好きで酔っ払うと収集がつかなくなり、寝かせるまでに数時間はかかってしまう。それだけは避けたいのだ。


「なら、一緒に食べましょ?私が食べさせてあげる」

「え、ええ……何もそこまで…」

「やるんだ、小僧。これも前進の道だ」

「キャラ見失ってるよ沙麗さん」

「いいからっ!はい、あーん」


 沙麗さんは俺の隣に座り、スプーンでオムライスを掬い、俺の口元にそれを近づける。

 俺はその場で赤面しながら顔を背けるが、沙麗さんも負けずとスプーンを突き出す。顔を見ると少し頬をふくらませていた。

 ……完全に俺の負けだ。


「あ、あーん……」


 俺は沙麗さんが持ってるスプーンを口の中に入れ、オムライスを食べた。

 この上ない恥ずかしさに、オムライスの味を感じるのが少し遅れた。


「んまっ……」

「でしょうでしょう?」


 沙麗さんが料理上手いのは知っていたが、こんな美味しいオムライス、三星に出しても文句が無いくらいに美味しかった。


「……もっと食べる?」

「食べる」


 俺はそのまま、沙麗さんのされるがまま、オムライスを食べ、すぐに完食した。


「美味しかった。ありがと、沙麗さん」

「いいえ、合格おめでとう」

「……うん…」


 ソファに座った後、俺と沙麗さんはテレビを見ていた。

 お笑い番組が終わり、俺はそろそろ眠りにつこうとしていた。そんな時に、俺の頭が倒され、柔らかなものの上に乗せられた。


「えっ!?沙麗さん?」

「今日くらいいいでしょ?膝枕」


 今日の沙麗さんはお酒を飲んだように積極的だったが、顔を赤らめ、恥ずかしがっているので酔っ払ってはいないだろう。

 俺も膝枕は本当に嬉しかったので、そのまま膝の上で眠ることにした。


「おやすみ……翔人…大好きだよ……」


 ちゅっ………

 保湿の行き届いた沙麗さんの唇が俺の頬に当たった。俺はその時にはもう眠気が勝っており、まぶたを閉じた。

 最後まで沙麗さんは俺を見ていた。

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