入居率400%ルームの監禁者
ちびまるフォイ
考えればきっと、辛くなる。
目を覚ますと壁に囲まれた倉庫のような場所にいた。
記憶をたどっても学校帰りにいつもの道を歩いていたことしか思い出せない。
服は着ているが、荷物はすべて奪われている。
「ここは……!?」
部屋にはまだ目を開けていない人や、
自分のようになんだかわからない状況を必死に理解しようと
周りを見ている人がいる。
「あの、ここはどこなんですか!?」
部屋の角にひざを抱えているおじさんに声をかけた。
「……」
「私、いったいいつからここに!?
なにがどうなってるんですか!?」
「……」
おじさんは何も答えなかった。
ただじっと前だけを見ていて、その目に私は映らない。
「だれかーー!! 誰か助けてーー!!」
私と同じく連れてこられた人が壁に向かって叫んだ。
分厚い壁に阻まれて声が届いているのか、外がどうなっているかもわからない。
何時間も助けを呼び続けて、
なんの反応がないとわかると部屋はまた静かになった。
「なぁ、いったいどうして俺たちはここにいるんだろうな」
閉じ込められる恐怖感から、なかば強引にコミュニケーションが求められる。
若い男は閉じ込められたメンバーを集めて話をしはじめた。
「わからないわよ……。人質にされてるんじゃない?」
「だったら、こんなに人数を集める必要ないだろう。
何人もの人質をわざわざ集めるなんて、どんな犯罪者だ」
「き、きっと、僕らの悪事を知っている人の復讐だ!!
僕らは殺されてしまうんだ!!」
「俺たちに共通点なんてあるのか?」
私たちはお互いのことを話しても、共通点なんてなかった。
すねに傷があるような人生を送っていないから、隠す要素もない。
「あんたはどうなんだ?」
「……」
男は部屋の片隅にいるホームレスのようなおじさんに話した。
「あんたは、どんな人間なんだ? 名前は? 生まれは?
何か閉じ込められるような過去があるのか?」
「……」
「やめなよ。私、さっきその人に声かけても何も返事されなかったし」
「くそっ! 結局、なにもわからないじゃねぇか!」
悔しがるリーダーはそれきり黙ってしまった。
メガネの男がふたたびおびえ始める。
「これは、何かの実験なんだよ……!
共通点がないのもそのためだ! 僕らはゲームとか
なにかの人体実験に無差別に選ばれてしまったんだ!!」
「どういうこと?」
「これからお互いを殺し合ったり、疑心暗鬼にさせられたり
その様子をずっと僕らを閉じ込めたやつが観察してるんだ!!」
「そんな馬鹿な……」
といっても、否定できる証拠もなかった。肯定する証拠もない。
私たちはただ理由なく監禁されている。
翌日、目を覚ますと部屋にはまた人が増えていた。
新しく部屋に監禁された人に話を聞いても答えは同じだった。
「わからない……あたし、何も悪い事してないもん!!」
「いったい何が目的なんだよ!? 金なら払うから出してくれ!」
誰もがわからないままこの部屋に連れてこられている。
外の状況も、自分の置かれている状況も把握できない。
翌日、目を覚ますと、また部屋に人が増えていた。
「また増えてる……」
新参の人たちは助けを呼んだり、叫んだり、騒いだり。
この状況を理解させるために説明するのも面倒くさくなってきた。
説明したところで、私もわからないし
「なんで閉じ込められてるの!? 早く出して!!」
と、逆ギレされてしまうから疲れてしまう。
だったら、静かに監禁生活が過ぎるのを待つしかない。
これが実験なのだとしたら終わりは来る。
それまで体力を温存しておきたい。
翌日、また人が増えている。
この部屋の唯一のルールは「毎日人が増えていく」だと気が付いた。
それは1日も欠かすことなくずっと続いた。
「おい、みんな集まってくれ。話したいことがある」
リーダーの男が全員を丸く囲んで話を始めた。
部屋の隅にいる小汚いおじさんはいつも通り無視を決め込んでいた。
「みんなもう気付いてると思うが、毎日人が追加されている。
だが、追加されているのを見た人はいるか?」
全員が顔を見合わせる。誰も見た人はいなかった。
「だろ、誰も見てないんだ。だが増えている。
俺は1度寝ないようにしていた日があったが、
そのときも寝てしまった。それも全員同時にだ」
「どういうこと?」
「この部屋、一定の時間になると催眠ガスが出てるんだよ。
全員が同じ時間に眠り始めるなんてありえないだろ」
「それじゃ、私たち全員が眠っているときに人が追加されてるの?」
「やっぱりこれは実験なんだ!! 僕らの反応を見る実験なんだ!!
あははははははは!!」
「実験なら、同じ人をずっと観察すればいいじゃない。
新しい人を増やし続けるなんて、実験としておかしいわよ」
「それじゃゲームなんだ! 僕らと知恵比べのゲーム!!
きっと、この部屋には何か隠されていて、僕らはそれを見つけるんだ!」
その後も会議は続いたが話はそれだけだった。
一応、その日は寝ないように立っていたけれど、男の言っていたように同じ時間に眠った。
翌日も人が増えていた。
そして、はじめて人が1人減った。
「どうして……どうして人が減ったの……?」
メガネの男は終始笑っていた。
「あははは! やっぱりだ! これはゲームなんだ!!」
「なにか知っているの?」
「昨日の夜、僕はひとり殺した!! そしたら翌日に片付けられている!
今この瞬間を見ている奴がいるんだよ! これはゲームだ!!
集団の中で人間がどうなっていくかのゲームなんだよ!!!」
「ひどいことを……」
「その目で確かめるといい! 僕はお前らの思い通りにならない!!
あはははは! 実験もゲームも失敗だ!」
メガネの男は自分で自殺してしまった。
翌日、その死体はキレイに処理され部屋から消えていた。
そして、毎日人は増え続けていく。
部屋にはどんどん人でいっぱいになっていく。
「ね、ねぇ、このまま人が増え続けたら私たちどうなるの……!?」
「知らねぇよ、そんなこと!!」
どんなに人が増えても、毎日追加されるルールは変わらない。
このままじゃ座る場所もなくなり、立っているしかなくなる。
ただでさえ監禁状態で苦しいのに、立ち続ける生活なんて限界。
翌日、また人が追加され、部屋は満員電車のような状態。
ぎゅうぎゅう詰めにされてもなお人間は追加される。
うっかり転んでしまったら踏みつぶされるかもしれない。
「もう限界だ!! 誰かなんとかしてくれ!!」
「大声出すんじゃねぇよ! 近いんだから!」
「なんだとこの!!」
過剰なストレスでケンカが始まった。
「待って! 思いついた!!」
その様子を見て私は閃いた。
「この壁、みんなで力を合わせて壊そうよ!!
これだけ人数を入れば、きっと破れるよ!!」
私たちはぎゅうぎゅう詰めなりに順番を決めて、
壁をかわるがわる叩きまくった。
手が痛くなると次の人に変わって何度も何度も毎日続けた。
人が増えるたびに順番の周りが遅くなるので力をこめられる。
何度も続けていくうちに壁が変形していくのがわかった。
この部屋にきて初めて光が見えたきがする。
「みんな、この調子でいこう! きっとこの壁も壊せるよ!」
「無駄さ……」
初めて部屋の隅の男が声を出した。
「何か知ってるの!?」
「……」
「どうして無駄なのよ! 話して!」
「……」
いつものように男は話さなくなった。
「あなたはこの壁を破れないと思っているんだろうけど、
私たちは力を合わせてこの壁を必ず壊してみせるから!」
繰り返し、繰り返し、壁への打撃は続いた。
壁はどんどん「く」の字がたに曲がっていく。
「みんな! あとちょっとだよ! 頑張ろう!!」
脱出の瞬間はもうすぐ。
もうみんな順番を無視して、壁にすがり付いて叩きまくる。
パンパンに部屋に詰められた人間の力が一気に加えられる。
ギギッと、異音を立てて壁がどんどん押し出されていく。
ついにその時が来た。
「壊れた!!」
限界を迎えた壁が向こう側に押し出され、私たちはなだれ込むように部屋を脱出した。
「あ……」
壁をぶち抜いた先に待っていたのは、もっと広い1部屋だった。
床には数人の監禁者が壁をぶち抜いて現れた集団に驚いている。
隅に座ってい無口なた男が口を開いた。
「最初は小さな部屋だった。俺ひとりが監禁されていた。
毎日人間が追加されて窮屈になると何度も壁を壊して、今の部屋まで広げた。
そして、気付いたんだ。ずっとそれが続くだけだって……」
「それじゃあなたは……」
「もうこの部屋に60年は閉じ込められている。
最初のころに監禁されていた連中なら、ストレスで死んだよ。
それがこの部屋の終わりさ」
翌日、大部屋にまた人が追加された。
入居率400%ルームの監禁者 ちびまるフォイ @firestorage
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