珈琲休憩 サイドB
錦木
第1話
仕事場を出ると大通りに行き着く。
行き交う人々はまるで水族館の魚のようだ。自分がいる場所が海ではなく水槽であるとも知らないまま、漫然と漂うだけ。
この中の一体どれほどの人間が生きている価値があるんだろうか。
まともに学校に行き、まともに会社に行く。真っ当に生きていますって顔をしているやつの一体どれほどがまともな人間なのだろう。
そんなことを考えながら人の間を抜き、目当ての自販機に行き着くと先客がいた。
「おろ?まつりんじゃんお疲れ〜」
「
自称科学捜査部の花であるところの彼女はビタミンも刺激もこれ一本でチャージ!眠気も疲れも吹っ飛ぶ!気分爽快!と書かれたドリンクをゴキュゴキュと飲み干す。
怪しげなドラッグのような宣伝文句だ。
どうでもいいけど大丈夫なのかそれは。
「わかる?先日運ばれてきた遺体がすっごく興味深くてさー。解剖室にこもりきりでろくすっぽ報告もしてないの。なのによくわかったね私が徹夜明けだって」
「目の下にクマができていますよ」
「そりゃホームズもびっくりの名推理だー」
には、と彼女は愉快そうに笑う。
「ていうかまつりんも徹夜明けでしょーに。その余裕と
「折角の誘いですがお断りしておきます」
「ちぇ、またデートはお預けかー」
冗談か本気かわからない口調で言いながら由比は唇を尖らせる。
「んで何してんの?」
「いえちょうど休憩時間なのでコーヒーでもと思いまして」
そう言いながら自動販売機に小銭を投入する。
「意外だなーまつりんが缶コーヒーなんて。淹れる方のしか飲まないんだと思ってた」
「そんなことありませんよ」
目当ての商品のボタンを押すと、ガコンと缶が落ちてきた。
「ん?まつりん好み変わった?ミルクと砂糖いっぱいのやつじゃないと飲めないんじゃなかったっけ。なんでブラック買うの?」
目ざといな、と思う。
さすが遺体しか相手にしないとはいえ腐っても頭脳労働者だ。彼女の目は鋭い。
「これを飲むのは私じゃないので」
ニコリと笑ってそう言うと由比は怯えた表情をしてみせた。
「まつりんの笑顔はこわいんだよ〜。絶対何か企んでいるね」
「まさか」
そう言って缶を取り出し口から出すとそれを持ったまま、目当ての人物に向かって歩き始めた。
珈琲休憩 サイドB 錦木 @book2017
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