カクヨム合同執筆会のお知らせ

ちびまるフォイ

力を合わせて良いものができるのかは人それぞれ

混迷を極めるカクヨム界隈に新しいイベントが開催された。


「合同執筆会!? これは行くしかねぇ!!」


食べていた笹の葉っぱを放り出してすぐに会場へ直行した。

会場は広いホールで、いくつものテーブルとPCが並べられている。


カクヨムの投稿者のみ参加できるイベントで、

人数も学校の全校朝会くらいに集まっていた。


「ようこそお集まりいただいた書籍化できないクズ作家ども。

 これからみなさんにはグループ執筆をしてもらいます」


なんかもうのっけからけんか腰の司会だったが、

参加資格が「書籍化経験のない人に限る」だったので強く言えない。

行ったところで「ぶち殺すぞゴミめら」とか怒られそう。


「グループ執筆は3ターンにわけて行われます。

 前にでてくじを引いたらそのテーブルに行ってください。

 そこで集まった初対面の人と一緒に時間内にひとつの作品を作ります」


モニターには説明を補助するような図と、

司会者が好きな動物のかわいい動画が流されている。意図はわからない。


「で、作った作品をここにいるプロの作家陣が読んで判定をします。

 能力がある人はこの場で書籍化作家としてレーベルが確定するので

 せいぜい頑張るがいいです」


「ちょっと待ってくれ! だったら個々人で書いたほうがいいじゃないか!

 なんでわざわざ初対面の人と書かされなきゃいけないんだ!」


「そうよそうよ! 私の自信作を読んでもらったほうがいいじゃない!」


司会は持っていたサブマシンガンを打ちまくった。


「いいですか、まだみなさんはわからないかと思いますが

 作品を作ることはいわば共同作業なんです。

 それにみなさんのグループワークも採点基準に含まれますからね」


ピーと甲高い笛が鳴って、1ターン目が開始された。

俺は自分の番号が書かれたテーブルと椅子につく。


「あ、どうも……」

「ははは、よろしく……」


作家というものはインドアになりがちなのか、

どうにも初対面の人とはなかなか打ち解けにくい。……と思っていた。


「みなさんこんにちは。

 僕はドラゴンファンタジア文庫の

 最終選考まで行った経験があります。まずはこれを見てください」


恰幅のいい男が全員にA4の紙を配り始めた。

ホールにはプリンターが何台も設置されているので、PCからいつでも印刷可能。

俺もさっき好きなアイドルの抱き枕カバーを印刷した。


「これは……世界観設定?」


「そうです。こんな場合もあろうかと、この日のために頭に練っていました。

 本邦初公開です。みなさん、これをグループ執筆で仕上げていきましょう」


「いや、まずはみんなの意見を聞いてみては?」


「では、この中に最終選考もしくは2次選考まで進んだ人は?」


誰も手を上げなかった。

というか、手を上げたら怒られそうな空気が重い。


「雑多な意見で作ってもいい作品は生まれません。

 みなさん、まずは最も実績のある僕の世界観に沿った物語を作ってください。

 できた人から僕に提出し、僕がチェックします」


誰も返事はしなかったが、暗黙の了解で静かな執筆が始まった。

俺は冒頭の日常パートを担当し、出来上がったものはボスに提出した。


「お色気が足りないね。もっとヒロインと絡ませて」


「そういうの違うんじゃ……」

「ラノベはそういうものだよ!!」


1ターンが終了すると、出来上がりに関係なく作家へと提出された。

俺たちの『僕を異世界に連れて行って甲子園で優勝すればエッチできるって本当ですか』は、

ギャグ異世界ラノベとして提出された。くそつまないのに。


「みなさん、提出ありがとうございます。

 では2ターン目を開始します」


「ちょっと待て! これの品評はないのか!?」と、ボスが声をあげる。


「すべての作家評価は、3ターン目終了後に行います。

 ではみなさん、次の組みを分けるので順番にこの帽子をかぶりに来てください」


「くじ引きは!?」


一人ひとり前に出て古びた帽子をかぶって、帽子が叫んだテーブルへと向かう。

うまいこと配分されているようで2度同じテーブルにはならないようだ。


「こんにちは」

「よろしくお願いします」


今度は女が多いテーブルになった。

不思議なものでハーレムだなどと下半身が熱くならないのは

エッチな要素をさっきのテーブルで根こそぎ執筆したからだろうか。


「2ターン目、開始してください」


司会の声とともに2ターン目が開始された。

最初のテーブルのようなぎすぎす感もない、和気あいあいとした柔らかい雰囲気があった。


「それじゃ、みんなで意見を出し合いましょう」

「そうね。私は悪役令嬢の話がいいかな」

「いいかも。王道だけど外さないよね」


「男の子もいるし、バトル要素も書けるんじゃないか」

「たしかに。それじゃ男の子同士のバトル要素も入れよう」


「あーでも、かわいいペットとか出したくない?」

「「「 わかるーー 」」」


「あの……もう半分時間すぎてますけど……」


やっとこさ女子トークに切り込んだころには執筆時間の半分を使っていた。

そして、みんなの意見をひとつに集約してなんとか書き上げた。


ただ、取捨選択しなかった末の出来栄えは

「カオス」という言葉をゲシュタルト崩壊させたくらいに混沌だった。


「なにこれ……」

「恋愛かと思ったらバトル入って、BL入って、農業はじめて、ショップ開いたんだけど……」


「でも私たち、がんばったよね!」

「「 だよね!! 」」


2ターン目のテーブルは終始楽し気な雰囲気だった。

俺だけクォリティにうなだれていた。

犯罪の片棒を担がされたような気分。


「みなさん、執筆お疲れさまでした。

 それでは最後の3ターン目を開始します」


司会のアナウンスがあったが、今度はくじも帽子も出てこなかった。


「最後の3ターン目は好きな人と組んでください。

 自分が一緒に組みたいと思った人に声をかけてテーブルに集まって執筆。

 それぞれの人数制限はありません。好きに組んでください」


「えっ、急に学校方式!?」


面食らっていると、みんな一斉に動き出して声をかけはじめた。


同じテーブルだった女の子に声をかける女。

他人に頼らず、ひとりだけで執筆を始める人。

誰にも声をかけられずに縮こまっている人などさまざまだ。


「どうしようかな……」


これまでさんざんなものを書かされた反動もあり、

今回はちゃんとした満足のいくものを書いてみたいと思う。


「あ、そういえば最初の作品のバトルパートの人上手だったな。

 2ターン目で同じテーブルだった人は心理描写がすごかった。

 あの人は発想がぶっ飛んでいたから、アドバイスもらえるかも!」


とにかく同じテーブルで何となく気になった人に声をかけた。


声をかけられると「自分が必要とされている」と思ったのか

みんな断ることなく嬉しそうに同じグループになってくれた。


「みんな、うまいこと引っ張っていくことはできないし

 意見をまとめることもできないけど、

 ここのグループはせめて、みんな同じくらい発言できるといいね」


「ぼ、ぼぼぼく、口下手だけど……よろしく」


「お姉さんに書かせたいだなんて、とんだロールキャベツ男子ねぇ♪」


「ズバットバシャーな感じをズギャってしていくんで!! ヨロッス!!!」


「アクが強いな……」


3ターン目のグループは人数は少なめだった。

俺のリーダシップがないこともあり、みんな思い思いのことを同じだけしゃべっていた。


「できた!! 完成だ!!」


「い、いいい、いいいがいと、できる、もんだ、ね」

「好き勝手書いたって感じだけどねぇ」

「パッションがバサッてなればギャンだぜ!!」


3ターン目の作品も作家陣に回された。


「みなさん、執筆お疲れさまでした。もう何も出てこないかと思います。

 ではこれから合格者の発表を行いたいと思います!!」


「え、もう!?」


「はい、すでに決まりました。

 合格者は……ドルルルルル、ジャン!!」



モニターには数名の書籍化を勝ち取ったアカウント名が掲載された。

俺の名前も書かれていた。


司会よりも早く、最初のテーブルのボスが怒り出した。


「ちょっと待てよ! どうして僕が合格してないんだ!

 1、2ターン目の出来はともかく、最後のはちゃんと審査したのか!?」


「ええ、もちろんです。そのうえで排除しました。おめでとうございます」


「バカな……」


「あ、もちろん。みなさんの人間評価シートと作品評価シートは送ります。

 今後の執筆活動にお役立てください」


俺の評価シートも2枚渡された。片方が作品の評価で、片方が人間評価。

作品評価はどれも平均的で「ありきたり」との評価が多かった。

人間評価についても平均的だったが「柔軟性」だけが高かった。


「あの、これで本当に合格しちゃっていいんですか?

 他のグループにはもっと作品をかける人がいたような気もしますけど」


「最初にいったじゃないですか、作品は共同作業だと。

 ワンマンプレイで扱いにくい人材よりも、

 平均的だけど合わせられる人が好まれるんですよ。所詮、会社ですからね」


いい人と同じテーブルになれていたこともあるが、作家デビューできて断る理由もない。

賞金はないけれど、作家としてデビューできるのがうれしかった。


「それで、これからどうすればいいんですか?」


「はい、こちらにどうぞ!!」


別の部屋に通されると、番号札を持ったスーツの人が何人も立っていた。

会話の内容から彼らが編集者だということはすぐにつかめた。


「今の流行は異世界だ! 異世界小説を書くしかねぇ!」

「そんなことより、作家の書きたいものを書かせればいいんじゃない??」

「最近見たゴリゴリのSF映画で面白いのがあったから、それを書かせよう!」




「はい! ではこれから誰にあたっても恨みっこなし!

 担当編集をきめるアミダをはじめます!!」




執筆が共同作業という意味がやっとわかった。俺はただ神に祈った。


「ああ、どうか自分に合う人と組めますように……」

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