第1話

 ガタンと大きく揺れて、俺は目を覚ました。薄暗い、人三人がようやく寝れるくらいに小さな、小屋のような空間。背後でカツカツと複数の馬のひづめが地を打つ音がする。外の景色が後ろへと流れていくのが小さな窓から見えて、ああそういえば馬車に乗っていたんだったと思い出した。

 積み上げられた荷物にもたれかかった体勢から起き上がろうとして、首がずきりと痛んだ。思わず顔を顰める。変な寝方をしていたらしい。


「おはようございます」


 俺の正面から声がかかる。耳に心地いい、きれいな声だった。そいつは揺れる馬車で器用にたったまま前かがみになって、黒い右目で俺の顔を覗いていた。


「随分とうなされてましたね。いやな夢でも?」

「夢……夢、か。ああ、そうだな、夢、だ」


 曖昧な意識の中、途切れ途切れにそう返す。俺の横に寝かしてあったハルバードの持ち手を無意識に撫でた。


「あれは、確かに夢だった」


 そして、夢じゃなかった。あれは紛れもない過去だ。でもそう口にするのをすこしためらってしまうのは、俺がただの夢であってほしいと思っているから。屋根が不安げにきしむ。

 そんな情けないことは口にしない。でも目の前の彼女は俺の考え程度お見通しなんだろう。はあと息を吐いていつもの笑みを浮かべ、人差し指をピンと立てた。


「ユルトがどう考えていようが現実は変わりませんよ。今見ていた夢は、間違いなく現実です。数か月前に起こった出来事ですよ」

「はは、お前は俺が何の夢を見ていたのかもわかるのか」

「それくらい簡単です。何年の付き合いだと思ってるんです?」

「普通どんな夢を見てたかなんてわからんだろ」

「わかりやすいんですよ、ユルトは。それこそ自分のことのように何でも分かりますので」

「それはおまえだけだろ――クロナ」


 軽く笑いながら彼女に――クロナにそう言った。するとクロナは「そうかもしれませんね」なんて目を細めて笑う。


 あまりにもあたりまえのように言うものだから、なんだかおかしくて俺もククと喉を鳴らした。それもそうだ。彼女とは生まれた時から一緒といっても過言ではないし、だからこそ彼女が言っていることは正しいとわかる。

 あれは確かに起こったことだ。

 なんとなく右手に視線を向けた。革のグローブの下には、あの時できた変なあざが今でもある。なんとなく悪いようなもののような気がして誰にも見せてない。このグローブは人からそれを隠すためでもあるが、間違いなく俺からも隠すためでもあった。

 すこし気分に影が差す。しかし彼女の顔を見れば、それも少しはましになった気がした。


「でもユルトがわかりやすいっていうのはほんとですよ? 結構顔に出やすいんですよ」

「本当か? クロナは普通の人よりも鋭いじゃないか。クロナにしかわかってないって」

「知らないだけ幸せなことってありますよねー」

「おい」

「ちょっとユルト、起きたの?」


 俺への呼びかけとともに、ひとりの少女が姿を現した。

 燃えるような長い赤髪が波打ち。すこしつり上がった強気な目つき。女性的でありながらまだ幼さを感じさせる容姿だが、腰に携えた一振りの刀がすこしの違和感を感じさせる。

 馬車の屋根の上にいたのか彼女は一瞬へりにぶら下がり、瞬時に馬車の中へと滑り込むように入ってきた。クロナはずっと横にズレ、着地の衝撃で馬車が大きく揺れる。背後で「うわっ!」と跳ねるような声が聞こえた気がした。


「おい、危ないだろ。壊れたらどうするんだ、ミズキ」

「大丈夫よ。帝国が作った、星噛みに襲われても問題ないらしい馬車よ? 簡単に壊れるはずないじゃない」

「そもそも木で作ってある時点で怪しいものですけどねー」


 クロナが意地悪にもそういった。木でできている以上この馬車さえも星噛みの捕食対象だ。でも仮にも馬が引くものを重い石で作るわけにもいかない。そんなことクロナにもわかりきっているはずなのにわざわざ突っ込んでくるあたりなんとも彼女らしい。

 しかしミズキはクロナの言葉に反応するわけもなく、座り込んで積み上がった荷物にもたれかかっている俺を見た。そして「それにしても」なんて肩をすくめる。


「ユルトも相変わらずね」

「……うるさいな。悪いかよ」

「別にそんなことはいってないじゃない。人の性格とか悪癖についてあれこれいう趣味はないわよ」

「悪癖って言っちゃってるんだよなあ……」

「わざとに決まってるじゃない」


 気まずかったり気恥ずかしかったり。つい彼女から顔をそらす。ミズキの呆れるような息遣い。視界の隅、彼女の背後でクスクスとクロナが笑っていた。


「まあそれはどっちでもいいけど。ねえユルト、ちょっと見張りの話し相手になってくれない?」

「見張りは今ミズキの番だろ? 俺さっき変わったばかりじゃないか」

「だからその見張りに付き合ってっていってるのよ」


 えー、と。嫌そうな声が無意識に漏れ、それを咎めるようにミズキの厳しい視線が突き刺さる。

 いや、別にいいじゃないか、そんな反応しても。俺はきちんと見張りの交代の順番とか時間を守ってるんだ。そう言いたいのをなんとか飲み込んだ。


「私たちは全国を旅して星噛みを狩る星狩りほしがりよ。そのための見張り――っていうか索敵。それはわかってるんだけど、どうにも暇なのよ」

「ま、そう星噛みなんているわけじゃないしな」


 星狩り。それが今俺の所属する団体だ。

 星噛みはあるとき突然現れる。どこに現れるかわからないから、街を攻めてくるまで待っていてそこ以外の命が全て喰らわれていた、なんてことになりかねない。

 そこで帝国が組織したのが、星狩り。一つの場所にとどまらず国の指示に従って旅をして、発見した星噛みを片っ端から狩る。

 あの夜崖の下でなんとか目覚めた俺は数日森をさまよい、彼らに保護された。ちょうど星噛みに憎悪を抱いていた俺が彼らの仲間になるのはわかりきっていた。

  

「馬車の上に乗ってぼーっとしながら景色を眺めるってのも悪くわないんだけどね。やっぱりすこし人恋しくなったのよ」

「ファウロさんは?」

「馬車の運転で大変そうだったから」

「まあ、たしかに」

「そう思うなら変わってくれないかい? まだまだ僕だって初心者なんだからしょうがないじゃないか」


 進行方向の壁の向こうから、落ち着いたすこし掠れた声が響く。俺もミズキも、チラと前方に視線を向けた。

 ファウロさんは俺たち星狩り第九二隊の隊長だ。最近までは御者がいたけどそれもいなくなり。代わりに運転することになって普段温厚な彼が珍しく取り乱していたのが印象的だった。

 この壁の向こうで手綱を握り、必死になっているのが簡単に想像できる。しかし任されてからたった数日でここまでになっているあたり、星狩りの隊長を任されるだけあって、彼もなかなかおかしな人だった。


「どうせユルトもやることないでしょ。なら付き合ってくれない?」

「いや……」


 俺は返事を濁しながら、ミズキごしにその向こうにいるはずのクロナへと視線を向けた。

 別に付き合うことはなんの問題もない。実際に俺は今やることがないから。ただ、なんとなく後ろめたかった。

 ミズキは俺が彼女をじっと見ているように感じたのか首を傾げる。それと同時に彼女の肩からクロナがヒョコっと顔を出した。


「いいですよ? 行ってもらって。私のことはお気になさらず」

「何? じっと見て。どうするの?」

「……わかった、付き合うよ」

「ん、ありがと」


 彼女はくしゃりと笑うと後ろへと振り返り、その先に何もないかのように歩き出す。

 少なくとも俺から見てそこにはクロナがいるはずだ。でもミズキは止まらない。そのまま進み――



 ――ミズキはクロナをすり抜けた。



 そしてクロナがミズキの背後に姿を現わす。腕を背後で組んで、ニコニコと楽しそうな笑み。一番後ろまでたどり着いたミズキがそこでふと思いついたようにこちらへと振り返り。


「いつもみたいにひとり言・・・・いってないで、早く来てよ?」


 それだけ告げて、器用にまた上へと登っていく。また大きく、馬車がガタンと揺れた。


「……ひとり言なんて、言ってないさ」


 誰にいうわけでもなく、ただそうこぼす。

 そう、ミズキにはクロナが見えていない。それどころか誰もがクロナを見ることができない。

 いや、違うか。もっと正確にいうと、クロナは俺にだけ見えている。声を聞くことができるのも、話しかけることができるのも、触れることができるのも、全部俺だけだ。

 ふと、右手に目を向けた。

 彼女と出会ったのは崖の下で目を覚ましたときだった。なぜかはわからない。あの時できた、この右手の紋章のせいかもしれない。それとも。


 ――わたしが死んでも、絶対にわたしのことを忘れないでくださいね。


 最後に彼女が口にした言葉が脳裏に蘇る。

 もしかしたら彼女との約束を守りたいがために俺が生み出した、単なる幻覚かもしれない。

 でも正直どちらでもいいんだ。彼女がいたから俺は壊れずに済んだことに変わりはない。彼女を消したいと思ったこともない。

 でもやっぱりすこしは考えてしまう。

 これはただ逃げているだけなんじゃないか、なんて。


「ユルト」

「――っっ!?!? ゴホッ! ゲホッ!」


 突然視界いっぱいに現れたクロナの顔。

 うわっ! と思わず声を上げそうになったのを無理やり飲み込んで、咳を吐き出した。たった今ミズキにひとり言のことを言われたばっかりなんだ。ここで大きな声を出せばなんて言われるかわからない。

 しかし咳き込んで喉がジクジクと痛む。顔をしかめれば、クロナは口を押さえて小さく笑う。「おいクロナ……」とミズキやファウロに聞こえない程度に彼女の名をつぶやき、恨めしげに彼女を見上げた。


「そんなに難しく考えなくてもいいんですよ」

「クロナ……?」

「いわば私は幽霊です。幻覚です。ユルトにしか認識してもらえない、悲しい存在。だから好きに使ってくださいな。必要だったら求めてくれればいいです。いらないのなら消してくれればいいんです」

「俺は……」


 彼女をどうするか。正直わからなかった。彼女の右目はまっすぐ俺に向いていて。それは完全に俺の意思に従うという意思表示にも思えてきて。でもどうすればいいのかわからない。どうしたいのかはっきりしない。


「俺は……」


 また口にしても、その先が続かない。どんどん思考が渦の中に吸い込んでしまいそうになる。そんなときだった。



 突然、馬車が止まった。

 それとほぼ同時にミズキが馬車の屋根から飛び降りたのが見えた。


「ミズキ!」


 慣性で体が大きく揺れるのに耐えながら、彼女に声をかける。ミズキはふとこちらをむき、そして浮かんだのは憂鬱にしかめられた表情。


「ユルト、くるの遅いのよ……お陰で普通に見つけちゃったじゃない」

「見つけた……? まさか!」

「そう、そのまさかだよ」


 次いで顔を出したのはファウロさんだった。険しい顔をしながら緊張感を貼り付ける。そして俺に向かって手招き。俺はいつも通り立てかけてあった彼の直剣を彼に向かって放る。


「いくよ、ユルト。仕事の時間だ」

「ほら、はやくその斧槍もって。いつまでのそんなところにいないで、はやくいくわよ」

「じゃあやっぱり……!」

「ああ――星噛みだ」


 グッと斧槍を持つ手に力がこもる。俺も星狩りとして数ヶ月活動して、集落にいた時よりは沢山の星噛みを殺してきた。でもやっぱり、死がすぐ後ろで手を伸ばしているような感覚は好きじゃない。

 ミズキとファウロさんが歩き出し、俺もそれを追うように馬車から降りる。そこは森だった。馬車があるのは森の中に引かれた、いかにもとりあえずといったような未舗装の道。強い日差しに目をしかめながら、気配を探る。

 すると微かだが確かに聞こえた。木の葉が揺れる音、知らない小鳥の鳴き声、それらに混じって岩を引っ掻くような星噛みの鳴き声が。

 俺たちは同時に同じ方向に向かって駆け出した。言葉はいらない。これくらいできないと星狩りなんてやってられない。

 未踏の森林へと足を踏み入れる。地面からは所々岩が突き出し、木の根が這い回り。しかしそれを気にすることもなく駆ける。

 星噛みを狩る時は素早く、ためらいなく。初めて星狩りとして戦う時ファウロさんに言われたことだ。


「おかしいわね……」


 同じく隣を走るミズキが、かがんで枝を避けながらそうこぼした。


「なにが?」

「こんな近くに星噛みがいるのに、樹木が食われてない。まさかこんなところに人がいるなんて考えにくいし……」

「もしかしたら、そのまさかかもしれないね」


 険しい顔をしながらファウロさんがそう告げる。ミズキは「そう」というだけだった。人がいようがいまいが、やることは変わらない。

 限られた視界が突然開けたのは、そんな会話をしてすぐのことだった。

 なにもない。そこには、なにもなかった。若々しい木々も、足元で密かに咲く草花も。ぽっかりと穴が空いたような空間で、地面はえぐられたかのように凸凹している。あまり広くはない。小さな町の教会程度の広さで、端から端まで歩いておそらく十秒程度。しかしここで目にできる命は、一つもない。ひゅうひゅうと乾いた風が寂しげに流れた。

 あまりにもわかりやすい、星噛みの捕食跡。


 そしてその中央。そこに星噛みはいた。その数五体。円形に並んで、それぞれが中央を向いている。

 しかし俺たちが確認したのはそれだけじゃなかった。星噛みの隙間から微かに見える白いなにか。星噛みたちの向く先に、だれか人がいた。

 だれかがいる? そんなことはありえない。草木が食われたということはそこに人がいなかったということだ。だというのにそこに人がいる。しかも星噛みたちはその人を囲んだまま、襲う気配もない。明らかに異常だ。


「ミズキ! 僕と一緒に星噛みの駆除! ユルトはあそこにいる人の安全の確保!」


 しかし俺の意識はファウロさんの命令によって中断された。


「わかったわ!」

「了解!」


 俺とミズキは即座にそう切り返す。

 ミズキとファウロさんが前へ、俺がその少し後ろを走った。

 もともと距離はそんなにない。すぐに星噛みたちも俺たちに気が付き、威嚇するかのように叫ぶ。

 一番近くにいた二体がとびかかる。


「はっ!」

「ふっ!」


 ミズキが刀を、ファウロさんが直剣を抜きそれを防ぐ。俺は二人の隙間を通り過ぎ、人間のもとへ。


「行くぞ」

「……あ」


 そいつの手を取り、走り出す。小さく漏れた声は女のものだ。握った手も小さく、そして冷たい。

 だがふと、その声が引っ掛かった。どこかで聞いたことがあるような……。

 顔を見たくなったが今はそんなときじゃない。雑念をふるい落とし、反対側の森へと向かって走り抜ける。

 星噛みは単純だ。ほぼすべての星噛みが最初に目にした人間に襲い掛かる。ミズキとファウロさんのおかげで俺たちに向かってくる星噛みはいなかった。

 そのまま突き進み森の中へ。入口の一本の木に隠れるように回り込む。


「ガアァァアア!!」


 しかしそこで飛びかかってくる、一匹の星噛み。


 ――取りこぼしか!


 斧槍の持ち手、その両端を持ち防ぐ。黒く鋭い爪がそことかち合い、ズシリとした重みが体にのしかかる。そしてその奥で光る星噛みの赤い瞳。大きく口を開け、俺の顔へと迫ってくる。


「おらっ!」


 星噛みの腹あたりを思い切り蹴飛ばす。やつの体が背後に傾き、目の前でガチン! と顎が閉じられる。

そのまま戦闘体制へ。体の周りで斧槍を振り回し、遠心力を使うようにして――


「はあっ!」


 ――断つ。

 空気を切って斧の部分が星噛みの首へと吸い込まれ。そしてやつの頭と胴体を切り離す。

 黒い血が吹き出て、星噛みは倒れ伏した。しかしまだ完全に死んだわけじゃない。体も頭も、未だピクピクと細かく震えている。

 どうせ放っておいても死ぬかもしれない。でも星噛みはいまだ未知の化け物だ。念には念を入れ、やつの頭に槍を突き刺す。ケアッと情けない声を漏らしてついに、星噛みは動きを止めた。

 よし、とりあえずこいつはこれで大丈夫だ。木の陰からミズキとファウロさんのほうを隠れつつ伺った。刀を振るい、直剣で切り裂き。地には二匹の星噛みが倒れている。

 俺は彼らから視線を外した。特に手助けしなくても大丈夫だ。彼らは俺よりも強い。あれくらいなら間違いなく殺せる。


「……ふう」

「ダメですねーまだまだ」


 漏れつつあった安堵のため息を飲み込んで、恨めしげにクロナを見た。彼女はそれこそ幽霊のように、突然消えれば突然現れる。蜃気楼のような彼女は、しゃがみこんで地面に転がった星噛みの死体を眺めながらいつもの笑みを浮かべていた。


「まだまだ遅いです。それに、体重移動がなってない。スムーズな体重移動ができないと、次の動きに移るのも遅くなりますし、そもそも刃に威力が乗りませんよ?」


 そしてその切断面をなぞるふりをする・・・・・。彼女が触れられるのは俺だけで、彼女に触れられるのも俺だけだ。切断面が荒いとでも言いたいのだろうか。

 特に言い返せはしない。彼女は俺よりも、下手すればミズキやファウロさんよりも強いのだから。だがそれは何度も言われたこと。わかってると、逃げるように別のものへと意識を向けた。

 というより、むしろそちらに向けなければならなかった。

 それはさっき助けた少女だ。そういえばまだ顔も見てなかったと、今更ながら思い出す。


「えっと、だいじょう――っ!?」


 声をかけようとして、俺は言葉を失った。つい今まで俺はなにを口にしようとしていたのか忘れてしまうくらいに衝撃的だった。

 意識が全てその少女に吸い寄せられて。その隅でクロナでさえも驚愕で目を見開いている。


 珍しい見た目の少女だった。一三か一四歳くらいだろうか。純白の髪、そして星噛みのように紅色の瞳。体に布を巻いただけのようなお粗末な衣服には、星噛みの血だろうか、黒いシミがたくさんあって。そして左目には眼帯が。


 それだけならまだいい。

 それだけなら、まだ珍しいだけだった。


 ただジッと見つめる俺を疑問に思ったのか、地面に座り込んだままコテンと彼女は首をかしげる。それに合わせて、左目を隠していた彼女の長い前髪が揺れた。こんな状況だというのに、感情のこもっていない右目が俺を捉える。


「クロ、ナ……?」


 隣で同じく見つめる幽霊のような彼女の方がビクリと震える。でも彼女もわかってるはずなんだ。それが自分に向けられたものではないと。


 似ていた。助けた少女は、あまりにも似ていた。


 数ヶ月前に俺の前から消えたはずの、おかしな星噛みに飲み込まれたはずの彼女が。隣の彼女以上にこの場にいることがありえないはずの彼女が。


 ――クロナが、そこにいた。

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