第九章 思惑入り乱れて

 麦の穂が色付き、所々で刈り入れが始まっている。主食である麦が無事に得られ、人々がようやく飢饉を脱したと胸を撫で下ろしていた。

 義長が戻ってきたのは、そんな折のことだった。

「これを」

 差し出された書状には、幕府から宗弘に平家残党討伐に際して兵を出すようにとの旨が書かれていた。

「確かに」

 顔色一つ変えずに書状を読み終え、宗弘が顔を上げる。

「では、あの衣の持ち主はやはり平家の残党だと」

「いや、まだ決まった訳ではない。それを儂が行って確かめて来る。もし平家の残党であれば、戻り次第討伐隊の派遣をお願いしたい」

 それと、と宗弘とじっと視線を押し合う。

「もし、十日経っても戻らなかった場合にも、同じく討伐隊の派遣をお願いしたい」

 湯浅氏は先の合戦の際、平重盛の子忠房を匿い、源氏に盾突いた経歴がある。とはいえ、今は源氏の天下の世。今更平家の残党に与するとも思わないが、相手に敵か味方か迫るこの瞬間は息の詰まる緊張感がある。

「承知しました」

 ふっと視線を外し、宗弘が頭を下げる。

「もし何でしたら、護衛も付けさせますが」

「いや。折角だがそれは結構」

 義長が苦笑する。

「今回は行商人に成りすまして行くのでな」

 もはや再起の叶わない残党とはいえ、敵地に向かうことに違いはない。手に馴染んだ刀や弓を置いていくのは心許ないが、源氏の御家人と知られる訳にはいかない。

「それでも、万に一つのことでもあれば」

「その時はその時だ。まあ、海の物とも山の物ともつかぬ所へ行くのは、いつものことなんでな」

 互いに目を合わせて一つ、二つ。三つ数えた所で同時に笑う。

「参りましたな」

「いやいや。それに、相手が人でなければ、どれだけ護衛がいても役には立たぬしな」

「ほう」

 糸目の奥で宗弘の瞳が、初めて興味深げに笑った。

「義長様でも物の怪の類を恐れることがあるのですか」

「宗弘殿は儂を神罰をも恐れぬ、愚か者とでもお思いかな」

 義長は豪快に笑って否定する。

「儂とて神仏は敬うし、祟りや物の怪の類は恐れもする。だが、もし恐るるべき物の怪を隠れ蓑として、幕府に盾突く者がいるのであれば、それは生かしてはおけぬ。それだけだ」

 そう言ってまた笑ったが、その眼は宗弘をたじろかせる程に鋭かった。

「その、これは、一切、他意のない物としてお聞きしたいのですが」

 書状を丁寧に畳み、この話は終わりと、自らの横に置く。

「義長様はお役目とはいえ、何故そこまで幕府への忠誠を尽くされるのですか」

 随分と物騒なことを言うものだ。人によっては謀反の疑いを掛けられるかも知れんというのに。

 とはいえ、義長には今更宗弘を疑う腹もない。

「確かに、幕府の中では余りいい位置にはおらぬが」

 自分で言って苦笑する。向かった先でいつ殺されるかも分からない。無事に役目を果たしても、幕府がその気になれば、言いがかりを付ける理由はいくらでも作れるだろう。全ては祖父が謀反の疑いをかけられたことから始まるものである。

「それでも儂は幕府側の人間だからな。結局、幕府の敵は儂の敵でもある」

 妙な立ち位置だが、生まれた時から変わらない。内にも外にも味方はいないが、その中で生き抜いてきたことが矜持にもなっていた。


 翌朝、義長と茅彦は行商人の格好で屋敷を出た。

「おはようございます。あら、吉見様ではないですか」

「む。そなたは、確か」

 屋敷を出て間もなく声を掛けてきたのは、藤並の屋敷で抱えられていると言っていた女。白無垢に触れるなと忠告してきた時の印象が強く、記憶に残っていた。

「最近はこちらにも買い出しに来ることが増えまして」

 と話す手には今日も薄い紅の小袖に似つかわしくない濃い藍染の包みを抱えている。

「吉見様は、これから遠出でございますか」

「そなたの聞いて良いことではない」

 興味津々といった顔で聞いてくる女を茅彦が遮るが、どうにも義長はこの女が気に入ってしまっていた。

「まあ良い。なに、これから物の怪の里へ行ってみようと思ってな。あの衣を手に入れてきた者も行商人だというので、験を担いだのよ」

 さすがに平家の生き残りを捕えるためだとは言えなかったが、それでもここまで話してしまったのは、衣に関わる者達に肩入れするところがあったから、かもしれない。

 余り認めたくはなかったが、祖父の行いで冷遇されている義長と衣に関わることで世間から冷たい目で見られる者達が重なって見える部分もあった。この女がどうなのかは分からないが、どうにも無意識の内に同族意識が芽生えているようだった。

「おやおや。物の怪の里ですか」

 女は思わず開いてしまった口を慌てて手で隠す。左手で包みを抱え直すと、止められた方がよろしいのでは、と心配そうに言う。

「あの里に近づいた方達からは良い話を聞きませんが」

「うむ。しかし、これも勤めなものでな」

 女は『勤め』という言葉にはっとすると、「差し出がましい真似を致しました」と頭を下げ、路地の向こうへと去って行った。

「さて、儂らも行かねばな」

 よしっと気合を入れると川沿いに上流へと歩き出した。


 川沿いに順調に歩いて来た義長が、不意に道を外れたのは五西月さしきの村に入った所。この日はこの村の長の家に泊まり、翌朝から山を登ると聞かされていた茅彦は、急に違う方向へ進みだした義長に戸惑いの声を上げた。

「嫌なら先に村長の所へ行ってろ。すぐに戻る」

「そんな訳にはまいりません。お供します。が、どちらへ」

 茅彦が聞くと同時に「ここだ」と止まる。

「ここ、は」

 茅彦の声に緊張が見て取れる。この上に誰がいるかくらいは知っているのだろう。

 義長が橋のないどぶの様な小川に足を入れて進むのを見ると、顔を歪ませて悩んでいたが、直ぐに諦めると無言で後ろに続いた。


 石段の上ではぼろぼろの衣をまとった娘が、秋に来た時と同じように一人暮らしていた。

 前と異なるのは、いつの間に建てたのか奥に藤蔓と芭蕉の葉で作られた簡素な小屋があること、祠の周りに一つ二つ紫色の小さな片栗の花が咲いていること、そして娘の血色がよくなっていることである。

「無事に、冬を越せたのか」

 正直、義長にはこの娘が冬を越せるとは思っていなかった。

 にもかかわらず、ここを覗いたのは、これから対決する手前、もし娘が息絶えているようであれば、供養の手配くらいはしてやろうと考えたから。秋の一件で全ての動きが筒抜けになっていると分かった以上、里に行く前に少しでも心象を良くしておきたい。

 今回、義長は里の命を握っている。裏を返せば、これで命がないと思った里の者が義長を道連れにと殺しにくることだって大いにあり得る。

 できる限りの準備はしておきたかった。

「また、稲荷に助けられたのか」

「はい。種籾も頂いて、ようやく生きていけるだけの麦も手に入りました」

 小屋の奥からは脱穀のために持って上がってきたのであろう、麦わらの束が山となって積み上がっているのが見える。

 だが、その麦も税に取られれば、どれだけが残るか。

 無防備に語る娘の先は憐れだ。

 もっとも、娘の畑で取れた麦がどれ程かなど、わざわざ宗弘に伝えはしない。娘がここで稲荷の噂に守られて暮らしている内は取り立ても来ず、かえって安全なのかもしれない。

 そんなことをぼんやり考えていると、不思議そうに見上げていた娘が、あっと手を叩いた。

「少しお待ちください」と言って、小屋から持って来たのは件の白無垢。

「教えて頂いた衣です。冬の間に縫い上げました」

 誇らしげに見せる白無垢は綺麗に縫い合わされ、縫目さえ気にしなければ着るのには全く差支えのない物になっていた。

 そして何よりも義長を驚かせたのは、それを縫うのに使った糸。麻ではなく、娘の状況では決して手に入らなかったはずの生糸が使われている。

 娘に対する手厚い施しに、改めて里の執着を感じ取った。

「どうかさいました」

「いや。いい物を見せてもらった。これで、藤並の嫁御も衣の祟りを恐れずに済む。褒美と言うてはなんだが」

 義長は懐から金子の入った鹿皮の巾着を取り出しかけ、いや、とその手を戻した。

「お主には、こんな金子よりも必要なものがあったな」

 明日を楽しみにしているがいいと言い残し、意図の掴めない娘に微笑むと石段を下って行った。


 その晩。義長達は明日からの山中捜索に備えて五西月さしきの村の長の家にいた。

 酒も進み話も盛り上がってきた頃、義長はおもむろに巾着を取り出し、一掴みの砂金を長に手渡した。

「こいつで、神社の跡に住み着いているあの娘に家を建て直してやってくれ」

 長は目を丸くして驚きつつも、砂金を受け取る。

「あの娘に、ですか」

「まあ儂なりのお布施だ」

 苦笑する義長に、ようやく意を解したと長も笑う。

「吉見様も神仏の類は恐れるのですか」

「お主もそれを言うのか。いや、だがな。神仏の類も恐れるが、人心とて馬鹿にはできん。あの娘はただの人だが、あのまま『物の怪』に心酔させておいて山狩りなどすることになれば、どうなるか分かったものではない」

 眉間に皺を寄せたまま、酒をすする。

 まだ、『物の怪』が落人の子孫なのか、本当に物の怪の類なのか義長には判断できない。仮に向かった里で人を見つけたとしても、それがただの人なのか、落人の亡霊なのか見分けるすべも持ってはいない。

 結局の所、義長の判断の基準はその者が己を恨んでいるか否かが全てであった。

「しかし、小娘一人に何ができますか」

「そう言って頼朝公を野放しにしておいた結果がどうだ」

「あの小娘は平家の姫君ではございませんが」

「関係あるものか。気を持たせてしまえば、やり方などいくらでもあろう」

 それに、と義長はにやりと笑う。

「この土地の者達は、女の恨みの怖さなら十分によく知っているだろう」

 女の恨みと言われれば、この国の者なら嫌でも認めない訳にはいかない。

「清姫様のことですか。それは、まあ、確かに」

「であるから、だ」

 瓶子を引き寄せ注ぐ。

「それで家を建て直して、父親の墓を建てて、残りを娘にくれてやれ。これで、『物の怪』の衣を着た娘の噂は『最後には豊かになって、村に戻ってきた』で終われるだろう。とにかく、あの娘を『物の怪』の里からこちら側に引き戻すよう、しっかり面倒を見てやってくれ」

 長が頷くのを見て、満足げに酒を飲み干した。


 翌日、二人はいよいよ山に入って行った。

 茅彦は当然だが、義長にしても聞き取りの際にこの辺りは何度も入っている。しかし、馬を降りて歩いてみると、なかなかに骨の折れる道である。

 川沿いに遡っていくので、傾斜自体が急な訳ではないが、山奥の村の農民が税を納めるために通る程度の道である。街道のように均されていない道には、あちこちに石が転がり、小さな沢の上には丸太を三本編み合わせた頼りない橋が架けられている。また、猪でも掘り返したのか、道の途中で大きな溝が掘られている場所もあった。

「夏に回っていた頃は、ここまで酷い道だとは、思わなかったんだが」

 杖を突きながら重い体を揺らして歩く義長がぼやくと、ああそれは、と茅彦が笑う。

「水害以降ここまで手が回っていないんですよ。みんなその日の食べ物を得るのに必死でしたので」

 確かに、川上、川下いずれの村からも遠いこの辺りの道まで整備の手が届くまではかなりの時間がかかるだろう。

 それにしてもこの悪路では脇道に入るまでですら思いやられそうだ。

 溜め息を吐いて空を見上げる。急峻な山々は今や真上を見上げた義長の視界の半分近くを占めている。

 と、急に立ち止まり、直ぐ上の崖を指差す。

「あの辺りには誰か住んでいるのか」

「いえ。この辺り一帯には誰もいないはずです。どうかしましたか」

「ほれ、あそこ」

「俺には木が生えているようにしか見えませんが」

「峰の上のあの木だ」

 そう言って、もう一度指差した先には山毛欅や楠に混じって、緑の葉を広げる低木があった。

「茶、ですか」

「そうだ」

 義長が満足げに頷く。

「茶という物は、元々この国には無かった物でな、あれがあるということは、誰かが植えたということだ」

「ということは、あそこに物の怪の里が?」

 茅彦が不審そうに崖を見上げる。

「かもしれぬ。かもしれぬが、そこは後回しだ」

「なぜです」

「今回、儂が当たりを付けたのはまた別の場所だ。それが外れていれば、改めて調べることにしよう」

 今はとにかく目指す場所へ向けて歩かねば。

 このところ、ますます力強さを増してきた日差しを受けて汗を流しながら、川沿いの道を川上へと進んでいく。

 真っ直ぐに歩き続けた義長がようやく足を止めたのは、昨年、茅彦が龍を射かけたと言った川又だった。

「お前は、ここで龍を見たのだと言ったな」

「はい。それは確かに、身の丈二十尋もの巨大な龍でした」

 茅彦の言葉に思わず笑いが漏れる。

「前に言ったのよりも大きくなっておるぞ。まあ、とにかくだ。ここで見たと言うなら、この奥に進んでみようではないか」

「いや、しかし、この先は」

 急に茅彦の言葉の歯切れが悪くなる。

「どうした」

「この先は猟師の中でも、余り行く者がおらんのです。行ったからといって、実際に何かあったという話もないのですが」

 ただ、と茅彦は言葉を濁らせる。

「ただ、何だ」

「この土地の者は子どもの頃に、この先には怖い鬼がいて、見つけた者を残らず皆食い殺してしまうのだという話を聞くもので、進んで行きたがる者はおらんのです」

「ほう」

 茅彦の話にますます機嫌を良くする。

「だが、これまで調べてきて、誰もそんな話はしなかったぞ」

「それは、誰もそれにまつわる様な経験をしたことがないからだと。実際、俺も少しくらいなら入ったことはありますが、あの時以外は何も見ていませんし。それに、さっきの話も子どもに聞かせる昔話の類ですんで、吉見様のお求めの話ではないかと思いまして」

「まったく。あれだけ儂と一緒について回って来て、まだ分かっていないのか」

 杖で地面をがんがん叩きつけて怒るが、顔には笑みが浮かんでいる。

「こういう話こそが儂の求めていたものだぞ」

 でかした、と茅彦が顔を顰める程強く背中を叩くと、喜び勇んで河原へと降りて行く。

「こっちは本当にいい話を聞かんのです。山賊の巣に突っ込んでも知りませんよ」

 諦めの溜め息を一つ吐くと、茅彦も後を追って降りて行った。


 石を踏む音がする。

 川のせせらぎが聞こえる。

 風が揺らす枝葉の声が聞こえる。

 だが、異様に静かだ。

 支流へと足を踏み入れてから、二人は無音の圧力を感じていた。

 今や並んで川原を歩く二人はちらりと目配せをし、互いに同じことを考えていると理解する。

 見られている。

 どこからかは分からない。ただ、はっきりと人の視線が感じられる。

 元々義長は敵か味方か分からない所へ行くことが多かった。

 相手が謀反を画策しているのであれば、どこから射かけられるか分からない。人通りの少ない街道で山賊にでも襲われたことにされてしまえば、幕府がどう出るかはともかく、一応の言い訳が立ってしまう。

 自分の身は自分で守るしかない。そのために、人の視線というものには人一倍敏感になった。

 一方の茅彦は猟師である。

 相手にするのは獣であって人ではない。だが、見通しの悪い山のこと。仲間の猟師に獲物と間違われることもあれば、山賊と鉢合わせることもある。

「俺、狩りの時にうっかり山賊の縄張りに入ってしまったことがありまして」

 物の怪の噂を調査していた去年の初夏の頃、馬に乗って山道を進んでいた時に茅彦が話したことがあった。

「今でも山のことは分からないことが多いものですが、初めて鹿狩りをしたあの頃は本当に何一つ知らなかったんです。一緒に組んでいた親父が見えなくなったな、と思ったら、急に今まで感じたことのないような嫌な感覚に襲われて。

 おいおい、狩るのはこっち側なんだぞって言い聞かせても体が動かなくて。そしたら、いきなり矢が飛んできて山賊に囲まれて。

 もう駄目だと思った時、どこからか矢が飛んできて一人倒れたんです。そこから逃げ出して、何とか逃げ切ったんですけれど、親父は戻らなくて。三日後に矢を全て失って折れた刀を握った姿で死んでいるのが見つかりました」

 だからそっちは山賊の住処で駄目なんです。と、枝道を登ろうとしていた義長を必死で止めたのだった。

 そんな二人が揃って見られていると確信しているのである。だが、相手の場所も数も全く分からない。

 しばらくはそのまま歩いていたが、やがて耐えられなくなり、どちらともなく立ち止まった。

「少し、休憩にしますか」

 あくまでもにこやかに茅彦が問いかける。

「そうだな。いや、今日はやけに暑くていかん」

 不自然な程にこやかに返し、近くの岩に腰を下ろす。首筋に伝う汗を拭うが、春の日差しは柔らかく、谷間を吹き抜ける風は爽やかで、汗ばむような陽気ではない。

 さて、どうしたものか。

 射かけてくる様子もないなら、このまま進もうと思っていたが、あとどれだけの距離があるのかも分からない。これだけ監視されている中で、もし野宿でもすることになったなら。そう思うだけで、ぞっとするものがある。

「うふふふふふ……」

 急に笑い声に振り返ると、誰もいなかったはずの崖の下、張り出した楠の大きな枝の陰から十もいかない位の小さな子ども達が走り出してきた。

 あっけに取られて、茅彦と顔を見合わせる。

 茅彦も何が何だかといった様子で、困惑した表情を見せた。

「お侍さんどこに行くの?」

 先頭を走ってきた女の子が無邪気に問いかけると、くるりと向きを変え、義長達の座っている岩を回っていく。後から追いかけて来た子ども達も女の子に付いて、男の子も女の子もからからと笑いながら義長達の周りを駆け抜けて行く。

「この先は危ないよー」

「熊が出るよー」

「出るよー」

「ねー」

「ねー」

 そして、そのまま浅瀬を駆け抜け、深い場所は岩の頭を蹴り跳んで、あっという間に川を渡ると、そのまま小鹿が跳ぶように崖を駆け登り、途中の茂みで見えなくなった。

 急に静寂が戻って来る。

 それは余りにも不自然な静寂。まだ子ども達は見える場所にいるはずなのに。まるで、茂みの影で消えて無くなってしまったかのような、そもそも、今の子ども達も義長達が見た幻に過ぎなかったのではなはいかと思うような、嫌な静けさだった。

「何だったんですかね、今の」

 耐えきれなくなったのか、ぼそりと茅彦が呟く。

「来るなってことだな」

「物の怪、だったんでしょうか」

「試してみるか」

 そう言って、義長は足元から手頃な石をつかみ上げる。

「あの茂み、だったな」

 子ども達が消えた茂みを指差すが、何も反応はない。

「何を、する気なんです」

 茅彦の声が上ずっている。行商人に変装していることも忘れ、いつもの主従の関係の言葉使いに戻っている。

 一方の義長も、それを笑う余裕はない。

「本当に物の怪なのであれば、石など投げても当たらんだろ」

 その手は震えこそしていないが、じっとりと脂汗に濡れている。

「それが、人、であったなら」

「当たる、だろうな」

 一歩、また一歩、と川岸に向かって進む。

 川原の端まで来て、狙いを定める。

「お止め下さい」

 石を持った手を引いた所で、茅彦がその手を掴んだ。

「そんなこと、確かめたところで何になるのです。物の怪であれ、人であれ、無用の恨みを買うだけです。貴方様の目的は火種を摘むことではあっても、いたずらに火種を増やすことではない筈です」

 茅彦の説得に義長の右手に込めた力も、ふっと抜ける。ことり、と石の落ちる音がした。

「そう、だったな」

 よろよろと岩に戻り、腰を下ろす。

「儂とて命は惜しい。わざわざ怒らして行く必要もない、か」

 見上げれば狭い空を綿雲が流れている。その下をとんびが弧を描いて飛んでいく。日は既に高い山の峰の向こう側に行ってしまっていた。

 ふうと息を吐くと、少し落ち着きを取り戻した。

「まったく。出だしからいいようにされては、かなわないな」

「出直しますか」

「いや。出直しても変わるまい。手を替え品を替えて脅されれば、慣れることなどないだろうからな。このまま進まねば道は拓けぬぞ」

 よし、と立ち上がる。

 それに合わせるかのように、鮮やかな黄丹の頭の小鳥が一羽、義長のすぐ川下に落ち立ちヒンカラカラカラと囀った。

「そうか」

「何がですか」

「急に静かになったと思っていたんだが、鳥の声が聞こえなくなっていたんだな」

 義長が納得する一方で、今度はようやく冷静さを取り戻した茅彦の顔から血の気が引く。

「それは、つまり、ここ一帯に人が隠れていて、鳥すらも鳴かない程に殺気立っていたと」

「そう、なるな」

「一体、何人が。いや、そもそも、そんなこと人のためせる技ではないですよ」

「そういう相手だと、いうことだ」

 それに、と義長が綿雲の流れる空を見上げて苦笑する。

「『お侍さん』と言っていただろう。もう全てお見通しということだ」

「化け物だ」

 うつむき、呟く。

 もはや、茅彦が恐れていた山賊を相手にしているという可能性はない。しかし、恐れていた相手よりも遥かに手強い。茅彦がようやくそれに気が付いたのだと、義長には分かった。

 ここまで、か。

 後は一人で行くしかない、と義長が歩き始めた時、「お待ちください」と声が聞こえた。

「俺も付いて行きます」

「怖くないのか」

「怖いです。ですが、貴方様を一人で行かせる訳に参りません」

 震える膝を叩くと一歩踏み出した。

「それに、この山は俺の狩場です。来たことがないといって、何があるのか知らないままでいる訳にもいきません」

「死ぬかも知れんぞ」

「山では、知らないこと自体が死に繋がります。だったら、死の危険を冒そうが、少しでも安全な時に知っておくべきです」

 さあ、参りましょう、とつづらを背負い直して義長と並ぶ。

 駒鳥達の囀りを聞きながら、二人は歩を進めていった。


 二人の目の前に急に人里が現れたのは、辺りが暗くなり始め、そろそろ探索を諦めて野宿の準備を始めなければと考えていた頃だった。

 三歩前には左右に張り出した峰の裾と、そこに生える木々に隠れて見えなかった民家が、突然現れたのを見て、二人は思わず顔を見合わせた。

「これは、また見事に隠れているものだな」

「わざと、でしょうか」

「そういう場所を選んだ。ということなんだろうよ」

 里の入り口に付けられた小さな橋を一人ずづ渡る。大人の広げた手程の丸太を三本、蔦で繋ぎ合わせただけの橋は、しかし、揺れも少なく安心して身体を預けられた。

 川を渡ったところで、すぐ川上から子ども達が歩いてくるのが見えた。

 長い髪を後ろで一つに束ねた十二、三歳くらいの少年と、彼に負ぶわれた赤子。そして、もう一人、少年に手を引かれた三つか四つの小さな女の子の三人が、調子はずれの唄を歌いながらやってくる。

 と、少年は義長をちらりと見ると、女の子の手を掴んだまま、右手を口元に持っていく。

 フィ、フィ、フィ。

 山に向かって三度鋭く強い指笛を吹くと、女の子に笑いかけたまま二人の方へ向かってくる。

「ここから戦だな。気を引き締めろよ」

「こんなつわもの相手に気など抜けませんよ」

 少年に聞こえない程の小声で、しかし顔は世間話でもしているかのように、にこやかに言葉を交わす。

「おっさんら行商人?」

 右の頬に金糸のような浅い傷跡を持った少年が、好奇心一杯の笑顔で尋ねる。

「ああ。珍しいか」

「そらあ、こんな人里離れた山奥まで客を探しにくる行商人なんて聞いたことないわ」

 それもそうだ、と義長も一緒になって笑う。

「なに、高野山へ行きたいのでな。こっちに近道があると聞いたのだが、お主は知らんか」

「さあ。ここに来る人もおらんのに、奥に向かう人なんか」

 ねー、と女の子と顔を見合わせる。

「お父ちゃんなら知っているかも」

 もう日も暮れるし、どうせ宿の当てなんかないんだろ。と、くるりと向きを変えると、連れていた女の子を先に帰し、二人の返事も聞かずに里の中へと歩いて行く。

「ついて行きますか」

「来いと言うのだ。行くしかあるまい」

 笑顔が引きつっているぞ、と笑って茅彦の背を叩くと、義長は少年を追って里の中へと入って行った。

 細く小さな田んぼの脇を抜け、斜面に食い込むようにして建つ家の隣を登って行く。崖沿いに人一人がやっとの幅の道を歩いて行くと、このまま森の奥まで連れて行かれるのではないかという気にすらなってくる。

 崖から頭の上に張り出した大きな楠の下をくぐると、山腹にへばり付く様にして建つ細長い家に辿り着いた。

「お父ちゃん。お客だってよ」

 膝丈まである敷居を踏むことなく器用に越える少年に続いて、いやいやどうもと家の中に上がり込む。ちらりと振り向くと、敷居に引っかかり、しっかり踏みつけて入ってきた茅彦と目が合う。茅彦はばつが悪そうに苦笑いを浮かべると、すっと視線を逸らした。

「ずいぶん散らかっていましてすみませんが、良ければどうぞ上がってください」

 父と言われたその男は、土間に広げた麦の穂に槌を振い脱穀する手を止めて笑う。隣では男の妻と思しき女が一緒に脱穀を手伝っていたが、二人の姿を見るとにこりと笑って土間の奥へと消えていった。

「この時期にまで脱穀しているとは、随分遅いんですな」

「麓と比べればここは涼しいですからね。種を撒く時期も、刈り入れの時期も少しずつ遅れるんですよ」

「さあさ、どうぞそこに腰掛けて下さい。足の汚れを落としますんで」

 女が、水を張ったたらいを持って戻って来る。

 板の間に軽く腰を掛けると、「もっと深く腰掛けて下さいな」と言うので、腿まで乗せる。草鞋を脱ぎ、宙ぶらりんになった足を、女が冷たく気持ちの良い布で拭ってくれるのに任せて、義長は家の中をぐるりと見渡した。

 土間も土壁も柱も梁も茅葺きの屋根も、全てが煤で真っ黒になっている。しかし、板の間には煤一つなく、よく磨かれた真っ黒な柱や板戸には漆かと見紛うばかりの光沢があった。

「おお、お客人とは珍しい。どこから参られましたか」

 女に礼を言い、板の間に上がると、ちょうど奥の間からこの家の主と思しき老爺が出てきた。隣で先の少年に足を拭ってもらっていた茅彦と二人で挨拶をする。

「ちょっと摂津の方から。熊野まで行商に行った帰りだったんですが、戻る前に高野山まで足を伸ばそうと思いましてな。ちょうど、熊野で会った男から『湯浅のお城から川を遡って山中を北へ行く道を通ると早い』と聞いたのですが。いやいや。中々その道が見つからなくてですな」

 既に正体がばれているのは分かっている。だが今更後には引けず、用意していた行商人という設定のままに話す。

 ほう、と老爺はおもしろそうにあごを撫でる。

「儂も余り詳しくはないが、その道は一旦戻って、川の本流の方を遡った方が行きやすいらしいですよ」

「左様でしたか。これは端っから道を間違えましたな」

 口元には笑みを浮かべたまま、互いに見合わせると、がははと二人して笑う。

 後ろから脱穀を続けていた男が声を掛けた。

「今日はもう暗くなりますから、今夜はうちで泊まって、明日また下って行かれるといい」

「では、お言葉に甘えさせていただきましょうか」

 義長の言葉に茅彦も合わせる。

「ええ。こんな山の中で一時はどうなるかと思いましたが、屋根の下で眠れるならいうことなしです」

 心底安心した表情を見せる茅彦に、思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えていると、老爺がしげしげと興味深そうにつづらを見る。

「ところで、お客人方は行商をされていると言いましたかな」

「ええ。畿内から熊野の辺りまで広く回っておりますが」

「ならば、ちょいと売り物を見せては頂けまいか」

 おや、と義長は内心首を傾げる。

 既に義長達の正体が分かっているのなら、売り物を見て粗を探すのは無意味。むしろ、義長達から色々と手を打つ口実を与えかねない。

 この爺さん。何か企んでいるのか。

 しかし、何にしても義長にとっては好機。下品ににやつきそうになる口元を堪えて、つづらを引き寄せる。

「こちらは干しアワビで」

 にこやかに説明する。老爺は興味深そうに眺めるが、やはりその意図は読めない。

 もしや、どさくさに紛れて掻っ攫うつもりでは。

 いや。それはないな、と心の中で首を振る。

 小助の時には高価な衣を引き換えに出している。それと同じくらいの高価な物がこの煤けた家にまだいくつも残っているとは考えにくい。

 それに、義長が鎌倉の御家人と分かっているのであれば、盗めば後で山狩りの口実を与えるだけだと分かっているはず。そんなことをする人間であれば、これまで生き残ることなどできなかっただろう。

 やはり、何か意図があるはずなのだが。

「こちらは貝殻とアワビ玉ですな。目の病に良いとかで、宝石としてだけでなく薬としても有名なものです」

 これらの品は湯浅氏の屋敷を離れた秋頃から探して、なんとか手に入れた物。方々手を尽くしたが中々見つからず、最後は通りかかった行商人から運良く手に入れた物だった。

 これらの品を見せても、老爺はふむふむと興味深そうに眺めるばかりで何も言わない。

 老爺が口を開いたのは、一通り見せ終わって、品物を片付け始めた時だった。

「それで、お客人方はこれから高野山を回って摂津へ戻られるのですかな」

「ええ。多少の儲けも出ましたので、一度戻って品を調達しないといけませんからな」

「なら」にこやかな老爺の目だけがぞっとする程、鋭くなった。

「こちらの野菜などを買い付けていかれてはいかがでしょう」

「えっ」

 思わず、義長の口から本心からの驚きが漏れる。

 それはその場にいた立場の異なる全員が思ったことのようで、後ろからも同じ驚きが二人分、振り返るまでもなく男とその妻のものが義長の耳に届いた。

「アワビなどには遠く及ばぬ安い野菜ではありますが、余所にはない物もあるやもしれません。数日泊まって見ていかれてはどうでしょう」

「は、はあ。それでは喜んで」

 何を企んでいる。

 義長の正体を知っておいて、わざわざ長期間招きたいとは考えにくい。まずは一晩、失礼のないようにもてなして、翌日やんわりと送り出してしまいたいところではないか。

 もちろん、その時には義長もなんのかんのと言い訳を付けて、滞在を引き延ばす算段ではあった。

 しかし、ここでいきなり里側から何日も泊まって行けと、あまつさえ、里の中を見て回れと言われるとは思いもしなかった。何とか返事はしたものの、その読めない腹の内に義長は得体の知れないものを見た気がしたのだった。


 翌朝、真上にしか見えない谷底の狭い空がうっすらと白み始めた頃、義長は川辺に降り、眠く腫れぼったい目のまま清流で顔を洗っていた。

 昨晩は茅彦と交代で番をしたが、結局何も起こらなかった。

 板戸を挟んで義長の頭側と右手側には、少年の親夫婦と祖父がそれぞれ寝ているはずだが、皆すぐに寝てしまい、襲い掛かるどころか相談する様子すらなかった。少年は隣家で寝るからと、いなくなったが、夜中に里の人間が近くを歩く物音も聞かなかった。

 もっとも、少年が隣家に行った以上、義長達がしばらく滞在することは知れ渡っているだろうし、何の策も用意していないことは、ないはずである。

「しばらくは根競べ、か」

 立ち上がり振り返ると、ちょうど茅彦が坂を降りて来た。

「朝餉ができたそうです」

「ああ」

 一晩中、神経を張り詰め、同時に色々と考えていた義長とは異なり、茅彦は元気そうな顔をしていた。

「どうされましたか」

「いや」と言いかけて辺りを見回す。人の動く気配はあったが、まだ近くに出てきている人影はない。

「何をどう仕掛けるつもりなのかと思ってな」

 ま、猟師のお前が悩む必要のないことだ、と肩を叩く。

 しかし、茅彦はその手を掴むと義長を見据えた。

「いいえ。今は私とて同じ立場です」

 その声は周りに聞かれぬよう、低く抑えられていたが、意思を感じさせる強さがあった。

「今は同じ行商人仲間ですし、一時のものではあれ義長様の案内人です。それに、義長様の予想が正しく、この里の人間達が一帯の物の怪騒動を引き起こしていたのであれば、私は彼らに矢を放った敵。すでに危害を加えている分、感情的に許せない相手になっていることでしょう」

 気付いていたのか。

 一見、暢気なこの青年を改めてまじまじと見つめる。

 山道のことや、村人とのやり取りは得意でも、ギリギリの命の駆け引きは苦手そうだと思っていたが、どうやら、それ程でもないらしい。

「だったら、よくゆうべは眠れたものだな」

 皮肉交じりに言うと、さすがに少しむっとしたようである。

「私の番の時は起きておりましたよ。それに、殺したければ里に着くまでにいくらでも機会はあったでしょうし、追い出すのであれば、寝てても死にはしませんよ」

 さ、早く戻らないと朝餉が冷めますよ。と、茅彦はさっさと歩いて行く。

 出し抜く気がなければ、それでもいいのだろうがな。

 思わず言いたくなる気持ちを押し込めて溜め息を吐くと、義長も麦の炊ける香りの漂う里の中へと戻って行った。


 麦の茶粥と筍、それに青菜の汁物の朝餉を取っていると、老爺から今日は裏山の畑を見てくればいいと提案された。

「裏山、ですか」

 老爺の後ろには二重の引き戸が開けられ、外が見えている。外とはいってもすぐ目の前には石垣で固めた裏山の崖があるので、見通しがある訳ではない。しかし、暗い室内において、そこだけから入る光が老爺に異様な迫力を与えていた。

 畑はその石垣を上った先にあるという。

「今日は天気もいいですし、畑からの景色も良いでしょうな」

「ほう。それは楽しみですな」

 何を企んでいるのかは分からないが、それでも相手の手の内が見られるのであれば断る理由はない。二人して勘蔵と名乗る老爺の息子に案内されて、裏山へと向かった。


 義長達が出て行った後、一人残された老爺―寅吉―はぼそりと一人ごちる。

「祠に誘い込むことはできるか」

「一日あればできるかと」

 二枚の引き戸の間から声だけが漏れ出てくる。

「十分だ」

 寅吉はにっと人の悪い笑みを浮かべて振り返った。

「数日は引き延ばせるから、無理なく頼む」

 義長達が裏山を登って行くのを確認して、引き戸の間の物入れから椿がするりと寅吉の前に出てくる。湯浅の城下町から戻って着替えることもできていないため、胸元からはきっちり畳まれた濃紺の風呂敷が顔を出している。

「承知致しました。ただ」寅吉から床へと視線を逸らす。

「本当にお義父様にも内密のままでいいんですか」

「勘蔵は二人に付きっきりだからな。無理に伝えなくても、ことが起これば分かるだろうよ」

 それに、と寅吉はじっと椿を見つめる。

「里の中では知る者はおらんのだが、実はな」

 椿も何事かと目を合わす。

「この山の奥には『本物』がおる」

「本物、ですか」

 そういえば、以前鷹之進様も同じことを言っていた。

 自分達が「偽物」で、それに対する「本物」と言えば、あるのは二種類。

「正直言って、ここで生まれ暮らしてきた儂らには関わりはない。そもそも、先の戦とて金で手を結んだだけで、恩義があって味方した訳ではないからの」

 となれば、「本物」とは落人としての「本物」。手下や手伝い戦だった自分達ではない、平家本家の人間がこの山の奥地にいることになる。

「彼らが見つかろうが儂らには関係はない。だが、見つかれば儂らとてただでは済まんだろ。ここで里の中を疲れ果てるまでくまなく見てもらって、他の里を探す気を起さずに帰ってもらわんといかん」

 椿も頷いて見せる。

「そのために少々怒らせても構わん。『物の怪の里』の力を目一杯に見せつける。儂が責任を取るから、皆には言わずに手伝ってくれんか」

「どうせあの人達の前には出られませんので、やる分にはいいのですが」

「どうした」

 少し言い淀んで、結局「いえ」と返した。

「折角助かった命を粗末にはしないでくださいね」

 首をすくめる椿に分かった分かったと笑う。

 他に知る者がいないというなら、鷹之進様は自分が知っていることを伝えてはいないのだろう。わざわざ聞くことでもない。

 それに、そんなことは些細な問題でしかない。

 鷹之進様が平家本家の人間をかばって人の目をこの里に引き付けようとしていたのなら、これまでのやり方も腑に落ちる。

 結局あの人は里を見つけてほしかったのだ。そうして身の証を立てて、この山の落人の疑いに決着を付けたいと考えていたのだろう。

 役目の都合で鷹之進様はお城の周り。ここにはいないけど。

 まさに今、その絶好の機会が来ているのなら、張り切らないとね。

「こんなことを頼んでおいて何だが、あんたも、あんまりやり過ぎんようにな。人を操るのは容易いことではないと忘れてはいかんよ」

「もちろん、分かっております」

 そのまま猫のように音もなく土間に飛び降りると、厨でお藤とあれはあるか、これはあるかと話し始めた。


 家を出て、勘蔵と共にすぐ隣の登り口から裏山を登る。石垣で固めた頼りない山道だが、よく踏み固められているのか、歩いていて不安な感じはしない。

 登り始めてすぐ、茶の木の間から、先程まで朝餉を食べていた居間が見えた。そこにはまだ老爺が同じところで座ったまま。その隣にちらりと着物の裾が見えたのは勘蔵の奥方だったか。忙しそうに通り過ぎて行った。

「ここは違うのか」

「ああ、ここは余所の家の畑ですんで」

 勘蔵は振り返ることもなく進んでいく。

「それにここには茶しかないもんで。もし茶で良ければ、後で今年の茶葉をお出ししますよ」

「この辺では茶が多いのか」

「そうですね。特にここでは」

 そう言って立ち止まると、谷間を見下ろす。

 まだ、勘蔵の家の屋根を少し越えた程しか登っていないのに、竹林の間からは里の家々がよく見渡せた。その奥には猫の額程の小さな田んぼと谷川が見える。そこからは涼しげなせせらぎが、頭の上からは竹の葉を揺らす風の音とせわしない小鳥の声が聞こえてくる。

 この里の暮らし向きがどれほどか、田んぼが狭いことの他は分からなかったが、俗世とは切り離された美しい場所は、常に陰謀の渦巻く中を生きてきた義長には妬ましくさえ思えた。

「こんな土地では大した米も麦も採れませんから。皆、おかいさんにして、少しでも米を始末して暮らしているんですよ」

「その、『おかいさん』とは」

「『おかいさん』は『お粥さん』。茶粥のことですよ」

 茅彦が割り込んで説明する。

「お連れの方は詳しいんですね」

「ええ。私は紀伊の国にはよく出入りしているもので」

「左様でしたか」

 茅彦のことも調べられていることだろう。しかし、勘蔵はそれだけ聞くと、何も言わずに、そのままずいずいと登って行く。

 勘蔵の後ろで、茅彦と顔を見合わせるが、どうにも腹の内が見えない。ひとまず諦めてついて行こうとした時、ふと違和感を感じた。始め、それがどこから来ているものか分からなかったが、何度も見返す内にようやく気がついた。

 この「畑」か。

 だが、勘蔵は義長の様子に気づいたか気づかなかったか、脇道には目もくれずに登っていく。義長も無理に事を荒立てずについて行くこととした。

 竹藪の間を抜け、時に猪に掘り返されて途切れている道をまたぎ越して歩いて行くと、急に視界が明るくなる。そこには畑の幅と石垣の高さが変わらない程の急な斜面を掘り込んで、何段かの畑が作られていた。

「これは、なかなか」

 下からでは全く見えなかった畑に、思わず感服の笑いが漏れる。一つ一つは決して広くはない。畝もせいぜい大人の身の丈と同じくらいの長さしかない。だが、石垣を組み、これだけの畑を作るには相当な人手と時間が掛かったはず。里に入る前までは、落ちぶれて山賊紛いの暮らしをしているかもしれない、と考えていた義長にはこれだけでも意外なものであった。

 見下ろすと、ちょうど里の前を流れる川が小さく見えた。余程用心して開墾したのだろう。その上流も下流も木々に遮られて見えなかった。

「ここは南側が山で遮られているもので、この辺りまで登って来ないと日が当たらないんですよ」

 不便なものです、と急な山道に軽く息を切らせて勘蔵が笑う。

 少し息をついてから、ここは里芋、ここは紫蘇、それから茗荷に大根と、勘蔵が一つ一つ説明していくのを聞きながら、義長は畑で働く人々を観察していった。

 畑に入って菜を摘み、虫を取る女達も、畑の奥で木を伐り、開墾している男達も皆、黙々と作業を行っている。義長達の話が伝わっているのか、彼らをじろじろと視る者はいない。

 一見したところでは、里の人々はまじめで義長達に敵意を向けることもない。だが、余りにもよそよそしく、それがかえって怪しくも見えた。

 それに、どうにも少な過ぎる。

 里に入った時にぱっと見えた家の数、そして目の前にある畑に対して人の数が余りにも少ない。今、義長の目に入るのは勘蔵を含め十人程だが、本当なら二、三十人位はいてもいいはず。だが、家から裏山に入るまででも、ほとんど人影は見ていなかった。

 しばらく、様子を見てみるしかない、か。

 明日は余所の畑も見せてもらうと約束を取り付けて、その日は畑を後にした。


 夜。皆が眠りにつき、横になった義長はひたすらに耳を澄ましていた。

 既に板戸を隔てた隣の部屋からは勘蔵夫婦の寝息が聞こえている。せせらぎは絶えず聞こえてくるが、縁側も重い板戸を閉めてしまっているので、月の位置を確かめることもできない。

 遠くの山で狼の遠吠えが聞こえた。一通り鳴き終わり、再び静けさが戻った後、義長は用を足すふりをして、一人外に忍び出た。

 初夏の陽気に釣られた虫達が舞う中、山の峰の際から煌々と照らす月の明かりを頼りに昼間登った裏山の道を登って行く。

 一歩踏み入れた時から己が「里」から離れ、「山」の中にいることがひしひしと感じられた。まだ手を伸ばせば勘蔵の家の屋根に手が届きそうな場所を歩いているにもかかわらず、夜の山には得体の知れない恐怖が蠢いていた。

 獣と刺客とどちらの方が怖いかといえば、やはり刺客ではあるんだが。

 そう頭の中では思っていても、再び狼の遠吠えが聞こえ、張り出した木々や竹藪で一歩ごとに暗さを増す山道は心地の良いものではない。

 向かう先が墓地の場合は特に。

 昼間登っている時に感じた違和感。余所の畑だと言われたその開けた土地は、明らかに他の畑とは作られた場所が違っていた。そして、何よりも木々の間から覗き見た土の盛り上がり方が畝とは違う物だった。

 あれが本当に墓場なのであれば、墓石の一つくらいあってもいいはず。

 里人の出自を示す、確かな証拠が。

 盛り上がった畝の様な物の前で一度手を合わせると、さっそく辺りをつぶさに探していく。

 今夜は満月には少し足りないだけの小望月。そのお陰で光の差す地面ははっきりと見えるが、月の光の届かない木の陰では自分の足さえ見えなかった。月が向かいの山に遮られる前に見つけなければならない。

 と、背後でカサリと何かの足音が聞こえた。刀を抜きながら振り返ると、道から一歩入ったところに人影が見えた。

「俺です」

 問い掛けるよりも先に答えたのは茅彦である。義長が抜き身を仕舞うのを見て近づいて来た。

「どうした」

「どうした、ではありません。厠から戻らないと思ったら、こんな所にまで来ているんですから」

「よく分かったな」

「今日はこちら側しか来ていないですからね。それで、ここがどうかしたんですか」

 義長がここを墓場だと疑っていること、墓場になら本来の氏が書かれていると考えていることについて話すと、茅彦は今一つ納得できないといった様子で首を捻った。

「俺には墓に名前が書いてあるということが、よく分からないのですが」

「主らは埋めて目印の石を置けば終わりだが、ある程度以上の武家の者は墓に名前を刻むものだ。ここの者達が平の家の者で、未だにその矜持があるのなら、きっとここには偽りのない出自が書かれていると思ったのだがな」

 だが、ここの墓には何も建てられてはいないようだ。

 諦めて墓から去ろうとした時、不意に「パラパラ」と物音がした。

 思わず刀に手を伸ばし、身を固くしたが、すぐに物音が盛り土からしていることに気が付いた。

「墓が沈む音だったか」

 茅彦も同じ思いだったのだろう。隣からあからさまに気の抜けた溜め息が聞こえた。

「気を抜きすぎだ」

 茅彦を笑い、改めて家に戻ろうとした時、ジュボという音と共に、盛り土の頂きから青白い炎が吹き上がって消えた。

「――っ!」

 驚きのあまり声がでない。二人共その場で固まって動けなくなった。

 だが、それは人魂を見た恐怖だけではない。

 目を合わせることもなく、確かめることもなかったが、瞬時に張り詰めた緊張感から互いに同じものを感じ取ったことを知った。

 人魂が現れた時、二人を囲むように森の中の全体から息を飲む人の気配が伝わってきたのである。

 十、いや、もっとか。

 すぐに気配は消えてしまい正確な数は分からない。だが、今日見た村人よりも明らかに多くの人間が、いる。

 頭の上で竹の葉が風に揺られている。

 義長の頭の中では、昼間川辺で見た子ども達が蘇っていた。

 あの時の気配の消し方、数が読めない程に洗練され統率のとれた動き、今ここにいるのも彼らなのだろうか。しかし、一方で簡単に殺せるはずの義長に決して襲い掛かろうとはしない。

 なぜだ。

 仮に、戻らなかった時には討伐隊を出せと宗弘に伝えていることまで知っているのであれば、殺した後で野晒にしておけばよい。その内、狼でも熊でも来れば、後から来た討伐隊はここで獣に襲われて命を落としたのだと考え、里まで来ずに引き返すことだろう。

 義長を殺す方法などいくらでもあるのだ。

 しかし、何も起こらないまま、時間だけが過ぎていった。

 もはや射掛けられることも、藪の陰から切りつけられることも、ないのだろうな。

 義長は鞘に刀を納めると、先程の墓におもむろに近づき、膝を着いて手を合わせた。

「戻るか」

「いいんですか」

「仕方あるまい」

 未だ警戒を解けない茅彦は抜き身のままで付いて来たが、木々か途絶え、家々が見えるところまで来ると、諦めて鞘に納めたようだった。


 翌日も朝から勘蔵の案内で畑を見て回っていた。勘蔵の家以外の畑でも作っている物は大体同じような物だ。違うのは茶や柿の木の本数くらい。二人共堪える眠気を気取られないように、少し大げさに反応したり、声を大きくしたりして見ていった。

 畑を広げるために切った木の根を掘り起こしているところを見せようと、勘蔵が畑の奥へと案内している時、ふと義長は蠅がたかる様な鬱陶しさを感じた。

 見回すと、向かいの山の峰から、ちかちかと何やら光が照らされている。

「どうかされましたか」

「いや」

 反射的に勘蔵にはそう答えたものの、どうにも気になって仕方ない。ちかちかと光るそれは一通り光るとなくなった。しかし、またしばらくすると同じように光り出す。

 四度目の光が明滅し出した時、義長はようやく何が起きているか気が付いた。

 動いているのか。

 初め畑から見て真向い辺りで光っていたものが、今や畑を囲む木の陰に入ってしまいそうな程川上側に移ってきていた。

 さて、どうしたものか。

 明らかに義長を誘っているそれに対して、里の人々の反応は異様に薄い。まるで光など全く見えていないかのよう。勘蔵など何度も光の方を気にしている義長に気付いているはずにも関わらず、一度目以降何も聞こうとはしない。

 罠であれば、もっと気付かせようとするものだろうが。それとも、もう儂が気付いていると分かっているから何も言わないのか。

 その時、また光がちかちかと瞬いた。しかし、今度はもはや木の葉の間から辛うじて見える程度。もう、迷っている間はない。

「ご主人」

 よいしょ、と自分の荷物を背負って降りる準備をする。

「済まないが、ちょっと先に降りさせて頂く」

「なりません」

 畝の間を戻ろうと一歩踏み出した時、思いの外強い口調で勘蔵が止めた。振り向くと怒りと悲しみで歪んだ悲痛な表情をしている。思わず唖然とした義長の顔で気付いたのだろう、慌てて元の穏やかな表情に戻るとなだめる様に言う。

「今の時期、あの辺りは熊の縄張りです。その様な無防備な格好で入っていい場所ではございません」

「だが、あれはどうにも儂を呼んでいる様に見えるが」

「気のせいでしょう。きっと烏か猿が何かを見つけたのだと思いますよ」

 一体、どこまで白を切るのだ。

 思わず義長の頭に血が上った。

「誘っているのは、お主の里の者だろうが。構わん。熊だろうが、何だろうが、切り捨ててくれる」

 怒鳴りつけると、勘蔵の制止も聞かず、ずんずん山を下って行く。余りの剣幕に束の間呆然としていた茅彦が我に返って追いかけると、勘蔵や畑仕事をしていた他の里人達も農具を担いだままぞろぞろと後に続いた。

 山を下り、川に沿って上って行く。後ろからやたら大勢ついて来ているのは分かっていたが、気にもしていなかった。その間も、山の峰からの光は義長を呼ぶようにちかちかと瞬きながら動いて行く。

 やがて、光は峰の一点で止まり、動かなくなった。目の前には大岩が二つ、川の中を飛び石の様に並んでいる。そして、その上には四、五本の細めの丸太を藤蔦で束ねたいかだの様な橋が三つ乗せられていた。

 丸太の橋は据え付けが悪く、ぐらぐらと頼りないが、それでも川に落ちることなく渡してくれた。対岸で茅彦を待ちながら山を見上げると、木々の間からすり抜ける様にちかちかと光が見える。

 と、ふと足元に視線を移した義長は慌てて茅彦を振り返った。

「橋を落とせ」

「はっ」

 橋を渡りながらも義長の動きを目で追っていたのだろう。意図を理解すると、渡っていた真ん中の橋をひっくり返した。

 茅彦の後からぞろぞろとついて来ていた里人達は皆それを見るや、慌てて川に飛び込んで橋を追いかける。

 対岸に辿り着いた茅彦はもう一つも落とすと、急いで追ってきた。

「びっくりするくらいに慌ててましたね」

「やはり、人目に付くところまで流れるのが嫌なんだろうよ」

 それより、とこれから登る山を振り返る。

「見ろ。道がある。それも明らかに何度も人が通って踏み固められた道だ」

 間違いない。これは里が罠を張るために作った道ではない。この先には何かがある。畑ではなく、日常では使わないがそこまで行かないといけない何か。願わくば、この里の化けの皮を剥げる何か。

 夢中になって登って行く。最早、勘蔵達の姿はない。後ろにいるのは茅彦だけである。

 つづら折りの山道が急に明るくなり、目の前に思いがけなく広い平地が開けた。

 そこには里の田んぼ数枚分にもなろうかという大きな水たまりと、その手前に小さな祠があった。祠は風に倒されたのか、石を組んだ台座から転がり落ちていたが、その中には小さな鏡が供えられていた。

 これ、か。

 今更、鏡だけが独り歩きして義長を呼び寄せたなどとは思わない。だが、辺りに人は見えない。丁寧に祠に戻すのであれば、烏や猿の仕業ではないだろうが、それならば祠を戻さない意味が分からない。

 そして、義長をここに招き寄せた意味もまた明らかではない。

「祠に何かいわれがあるのでしょうか」

「いや、祠自体はごく最近の物のようだ。中は、鏡以外には入っていないようだな」

 鏡を取り出して裏を見てみるが、特に何も書かれていない。

 台座の方には何もないのかと、石組みの方を調べている時、ふとすぐ後ろで低い唸り声がした。

 振り向けば、ほんの数歩の所に大きな黒い固まりがあった。

 それは前足を地に付けていても義長の胸元に鼻の先があるような巨大な熊だった。

 ふっと息を感じたと思った時にはもう、義長の方に飛び掛かって来ていた。辛うじて抜刀は間に合ったが、いつもとは勝手の異なる安物の刀である。普段なら受けてそのまま腕を切り裂けるはずが、どうにも切れ味が悪く熊の手の肉に筋を付けるのが精一杯。しかも、鋭い爪を一回二回と受けると刀身が持ちそうにないことが感覚的に分かる。

 まずいな。

 頭の中を「死」がよぎった。

 獣など、殺せずとも一太刀浴びせて怖がらせれば逃げていくはずだ。だが、その一太刀がどうにもままならない。

 御家人の義長である。当然、剣の稽古は積んできたし、当代一とはいわなくとも腕には自信がある。実際、今も剛腕の熊の攻撃を受け切ってはいるのである。それでも、熊に怯ませる一撃が入らない。

 視界の端では茅彦が横から熊の胴めがけて突っ込むのが見える。だが、茅彦の刀では横腹の皮すら切り裂けない。逆にもう一度切りつけようとする所を蹴り飛ばされて、崖の向こうへと姿を消してしまった。

「おい!」

「.大丈夫です」

 刃をギリギリいわせたまま叫ぶと返事がある。案外近い所で踏みとどまったらしい。

 だが、状況は一人減った分、明らかに悪化する。何とか横薙ぎの鋭い爪をいなし、のしかかる巨体を跳ね返すが、己の倍以上の重さの熊を相手にじわりと疲れが出始めていた。

 飛び掛かってくる顎に刃を噛ませ、突進をいなしながら力任せに引き抜く。だが、かわした瞬間、思いの外軽い身体に思わず体勢を崩れた。

 そして、背中を冷たい汗が流れる。

 義長の握る刀の刃が根元から折れて無くなっていた。

 役に立たなくなった刀を捨て、素手で身構える。だが、この体格差。勝てる見込みなどほぼなきに等しい。それでも、他に手段などない。

 遮る物のない山の峰を強い風が吹き抜け、木々がざわざわと音を立てて暴れた。牛のような唸り声が響く。

 襲い掛かろうとする熊の前足が上がる。

 胸ぐらに入り込み、投げようと義長は身体を沈める。

 もう少し、あと拳一つ分立ち上げれば潜り込める。

 しかし、そこで熊の動きが止まった。

 立ち上がらずに、このまま突っ込む気か。

 わずかに遅れて気が付き、顎を押し上げる体勢を作ろうと、足を踏ん張る。

 だが、身体は生き延びようと反応しても、動きを見誤ったことで頭の中では死が過っていた。ちらつく一生分の思い出を必死で押し込めて、目の前に気持ちを集中する。

 そして、そのまま時が止まる。

 一つ、二つ、三つ。

 三つまで数えた所で、義長にも異変が伝わってきた。

 熊が飛び掛かって来ない。

 なぜだ。

 その時、熊の背後で「ざっ」と地面に何かが刺さる音がした。

 矢、か。

 だが、周りには人の気配はない。

 崖から落ちた茅彦はまだ見えず、そもそも今回、弓矢は持ち歩いていない。勘蔵達里人もまだ追いついてくる様子はない。

 なら、一体どこから。

 一瞬、気を取られていたのだろう。気付くと熊が大きく立ち上がっている。が、間に合わない、よりも先に違和感に気付いた。

 左の後ろ足の陰にわずかに羽根が見えた。今にも抜け落ちそうな程に随分と浅いが、それでも刺さっているらしい。

 そして、ようやく矢の飛んできた場所にも理解がいった。

 対岸からだと。

 落ち着きを取り戻した時、ちょうど熊の頭の上に弧を描いて飛んでくる矢が見えた。それは岸辺からではなく、どうやら岸から反り立った崖の上。そこに広がる木々の間から放たれているようだった。

 そうして恐るべき正確さで再び熊の後ろ足に刺さった。

 なんと心強い。

 どうにも力がなく、刺さっても仕留められるような矢ではないが、それでも姿の見えない敵の出現に熊の注意は大きく削がれていた。

 これなら投げられるか。

 飛び込もうとすると、闇雲に振り回した熊の手が鼻先を掠めた。一歩下がってかわした時にはもう、熊も冷静さを取り戻している。

 と、視界の端に茅彦が現れた。うまく熊の背後に回り込んで距離を詰めている。

 普段は弓しか使わんと言っていたが、なかなかどうして、やるではないか。

 この好機を使わない手はない。自分に注意を引き付けるため、義長は今にも飛び込むぞと大きく構え、大げさに唸り声を上げる。

 怒った熊が立ち上がったその時、あと数歩まで来ていた茅彦が後ろから熊の尻を突き刺した。

 素早く引き抜いた刃先から血が零れる。

 痛みに暴れる熊から距離を取って、熊に逃げ道を与える様に茅彦が義長から見えるところまでやって来た。

「よくやった」

「これで引いてくれれば良いのですが」

 しかし、一通りのたうつと再び義長達に向き直り、今度こそ襲い掛かろうと体勢を整えた。

 すぐさま身構えた二人が挟み撃ちにするように、ゆっくり動き始めた時、不意に山道の下から「熊がいるぞー」と言う大きな声が上がった。

 それを合図に「うおおおおおおお」と多くの男達の怒号と足音が近づいてくる。

 急に増えた頭数に不利を感じたのか、男達の姿が見えない内に熊は血の垂れる右足を引きずって峰の向こうへと逃げて行った。

 熊の後ろ姿が木々の間に消えたすぐ後に現れたのは、ずぶ濡れになった勘蔵達。茅彦から逃げた方向を聞くと、弓矢を持った数名が後を追って森の奥へと走って行った。

 助かったと安堵する義長。だが、茅彦は表情を崩さす対岸を睨みつけている。

「まだのようです」

 どうした? と茅彦の視線を追って対岸を仰いだその時、一本の矢が熊の去ったこちら側へと弧を描いて飛んできた。

 それは実に美しい一本だった。

 谷間を吹き抜ける風に逸らされることなく、矢は寸分違わずに茅彦の眉間へと辿り着き、拳一つ手前で茅彦自身の手で捕まれた。

「実にいい腕だ」

 唖然とする義長と勘蔵達を差し置いて茅彦が表情を緩めた。

「ですが、まだまだ矢に力が足りませんな」


「で、ご理解頂けたでしょうか」

 二人の無事を確かめると、勘蔵は義長を睨みつけた。

「私共は決して意地悪で引き止めた訳ではございません。この辺りには熊も出れば、蝮も出ます。

 すぐ近くに狼の縄張りもあれば、いくら源氏の武勇のある者であろうと、そんなやわな刀一本で、しかも土地勘のない二人だけでなど出歩いていい場所ではございません」

 余程腹に据えかねる物があったのだろう。最後はほとんど怒鳴りつけるようだった。

 やはり知っていたか。

 今更驚くことでもない、とそのまま聞き流す。

 勘蔵は、おっと、とつい語気を荒げたことに気が付くと、一つ息を吐いて気を落ち着かせた。

「この場所にはあの祠以上の物はありません。ここには普段は誰も立ち入らない場所なのです」

「ではあの祠は何を祭っているのだ」

「ここには」

 勘蔵が言うより先に山道の方から声がした。

「元々平家方に与して落人となった者達の隠れ家があったのですよ」

 皆が振り返ると、ちょうど道の下から勘蔵の家にいた老爺が登ってきたところだった。

「その長の一族は落ち延びてそれ程経たぬ内に果ててしまった。長を失った後、我らはここでこっそりと息を潜めて暮らしておった。だが、追手には見つからずとも、簡単に生きていける土地ではない。夏には獣に襲われる者や病に倒れる者が出た。冬には飢えて多くの者が死んでいった」

 老爺が空を仰ぐと、ちょうど鳶が弧を描いて飛んでいた。

「だから、時を経て住処を川沿いに移すと決めた時、ここで死んでいった者の霊を慰めるために山の神と共にこの祠に祭ったのです」

 ですから、どうかこの者達のためにも、この里をそっとしておいては頂けまいか。そう諭され、義長はぐっと言葉を詰まらせる。

 確かに、長の血筋がいなくなった落人になど用はない。そもそも、老爺の言うことが正しければ、ここにいたのは平家に与しただけの兵達。恐らくは京とも鎌倉とも縁のない、地方の者達だったのだろう。

 謀反の意思もないのであれば、このような者達をわざわざ湯浅氏に命令して攻めさせる訳にもいかない。そもそも、これでは命を救われてすらいるではないか。

「よかろう」

 諦めの溜め息を吐くと、義長を囲む人だかりがどよめいた。

「見逃して頂いたところで、真に厚かましいお願いではあるのですが」

「なんだ」

 どよめきが収まらない内に、再び老爺が口を開く。何を言うつもりか周りの者も分かっていないのだろう。一様に困惑した顔で老爺の顔を見つめている。

「儂らはこれまで数代に渡ってこの地で暮らしてまいりました。そうなれば、先程も申しました通り、多くの者達がこの地で最期を迎えました。ここには粗末な物ではありますが、その者達の墓がございます」

 昨夜のことかと思ったが、老爺はそれには触れず、淡々と話し続ける。

「ですが、隠れて暮らしていた手前、ここには生きるために最低限必要な物しか用意することができませんでした。彼らを弔う寺すらないのです」

 そこでなのですが、と老爺は居住まいを正して額ずいた。

「この地を吉見様の荘園とし、吉見様の名の下で寺の建立を許しては頂けないでしょうか」

 その場の皆に緊張が走る。先の表情からして、この頼みは老爺の独断なのだろう。しかし、不満が出ないところを見ると、皆多かれ少なかれ似たようなことは考えていたようだった。

 腕を組み、目を閉じて、ふむと考える。とにかく、一度状況を整理しなければならなかった。

 風が木々を揺らす音、下の川を流れる水の音、木々の間から絶えず囀る鴬や駒鳥といった小鳥達の声。そんな穏やかな音だけが、しばしの時を支配した。

 そうして結論が出ると、顔を上げ、おもむろに口を開いた。

「まず荘園だが、これは一度持ち帰る。勝手に儂の荘園にしてしまう訳にはいかん」

 見回すが、予想通りなのだろう。誰もこれといった反応しない。

 そのまま義長が続ける。

「そして寺のことだが、竜胆紋を使うのはどうだ。幕府方の人間が後ろ盾になるかどうかなど分からんが、儂がこうして里を潰さずに戻り、後に竜胆紋の寺ができたとあれば、身を守るには十分であろう」

 落人の里があると外の者に知られたのだ。荘園も、寺の建立も、義長が見逃したと知らぬ農民が法外人の里があると聞きつけ、襲ってくるのを防ぐお守りのためのものである。

 ならば、義経公などが使ったと広まっている竜胆紋でも付けていれば、そういう輩には十分な効き目があるはず。本当に幕府が後ろ盾についているかどうかは、この際関係のないことだ。

 老爺もそれを理解したのか、重ね重ね礼を言って受け入れた。


 翌朝、まだ暗い内に義長達は里を去ることにした。誰も引き止める者などいなかったが、出掛けに勘蔵の奥方が顔程もある大きな握り飯を一つずつ拵えてくれた。

 高菜で包み、持ち歩けるように芭蕉の葉で包んだそれを受け取ると、礼を言って外に出た。

 里の端まで来た時、ふと見送りに来ていた勘蔵を振り返る。

「そういえば、この里には弓の名手はいるか」

 勘蔵は話が見えない、と首を捻る。

「弓ですか。狩りはしますので、皆弓は使えますが」

「昨日の熊と戦っている時に、向かいの山から実に的確な矢が飛んできてな。随分と助けられたから一言礼を言っていきたいのだが」

 ああ、あの。と少し考えていた勘蔵だったが、ふと思い当たったのか、川に顔を洗いに来ていた少年を呼び寄せた。

「確か、主の息子であったか」

「はい。小太刀丸と申します」

 頭を押さえてお辞儀させる。

「して、彼がその者を知っているのか」

「いえ」そうではなく、と勘蔵が笑う。

「お探しの者はこれのことかと」

「なんと」

 顔にはまだあどけなさの残るこの華奢な少年がよもやそのような腕を持っていたとは、と驚いたが、確かに昨日の矢は正確ではあったが、まだ幾分力不足。この少年であれば、腕が確かならそれくらいの力なのかもしれない。

「そなたのお蔭で命拾いした。礼を言う」

 ははっ、と元気良く返事した少年は、しかし、にやりと口の端を上げて付け加える。

「狩られるだけの『山の主』じゃ示しがつかんだろ」

 おおっと、と茅彦が驚きの声を上げた時には「大変失礼致しました」と深々と頭を下げておとなしい態度に戻っている。

 子どもだとばかり思っていた二人は思わず見合わせると、これぞ物の怪の本性と納得するのだった。


 里から川沿いに下ってきた二人は、日が昇り切るよりも前に本流との合流点にまで辿り着き、順調に歩を進めていた。

 本流に入ると安心したのか、茅彦は里で貰った握り飯を頬張りだした。

 主従の関係を忘れているな。

 義長は内心苦笑するが、里では十分な働きをした後のこと。次の仕事の前に、それくらいは許してもいいかと諦める。

「どれ、一つ休憩とするか」

 暖かな日差しと心地よい初夏の風の中、塩の効いた麦の握り飯は格別に旨かった。

 人心地つくと、おもむろに視線を上に向ける。

「あそこへはどうやって行くのだ」

 茅彦が視線の先を追うと、そこには行きしなにも見上げた茶の木がある。

「ああ、あそこなら、もう少し下ったところに登り口がありますよ」

 あれがどうかしたんですか、と麦粒を付けた能天気な顔で尋ねる茅彦に、意地の悪い笑みを作ってみせる。

「あの里を潰すのだよ」

 日が雲に隠れ、辺りを不穏な静けさと寒々しい風の音が包み込んだ。

「えっ」

 完全に一段落ついたと思い込んでいた茅彦は口をぱくぱくと動かすだけで、二の句が継げない。

「あの里は潰さねばならない」

 落ち着いた声で、もう一度言い直す。

「ですが、里ではあのような約束をされたではないですか」

「したな。折角、湯浅殿に兵を出せとはいっても、あのような平家とは無関係で、しかも家来だけしか残っていないのであればな」

 だから、湯浅氏を動かす訳にはいかない。何かに当たるかのように握り飯に食らいつく。

「だが、あの里は危ない」

 最後に残った浅漬けの高菜を平らげ、親指についた麦粒を舐めとる。

「あの里の者達は噂を作り出すのが上手い。皆それに足るだけの知恵と腕を持って、しかも個別にも集団としても動くことができる。

 お主は儂らが偶然あの熊に襲われたと思うか」

 それまで驚きと困惑で満ちていた茅彦の顔に、はっきりと動揺が浮かんだ。

「違うのですか」

「あの熊をどうやっておびき寄せたかは分からん。だが、儂自身ははっきりと誰かに呼び寄せられた。あの勘蔵という男とは無関係に策を練った奴がいる」

「なぜ分かるのです」

 雲の固まりが流れ、再び日差しが戻ってきていた。

「あの時、熊を追い払った勘蔵達は鋤や鍬を持ってやって来た。当然だ。あの時、里の者は皆畑仕事をしていたのだからな。

 だったら、なぜ弓矢を持って熊を追いかけて行った奴らがいたんだ」

 茅彦の目がぱっと見開かれる。息を飲む音すら聞こえた。

「分かるか。儂らはまんまと嵌められたのだよ」

 しばらくは口をぱくぱくしているだけだった茅彦だったが、一つ大きく息をし、落ち着きを取り戻した。

「しかし、それとこの山の上とどう関係が」

「お主なら、あの里を落とすのにどんな手を使う」

 向かいの岸辺ではカモシカの親子が水を飲みに下りて来ていた。

「やはり、山狩りですか」

 顔色を窺うが、義長の顔には怒りの表情は浮かんでいない。

 少なくとも、うわべには。

「駄目だな。行きの時のあれを忘れたのか」

 義長達は確信があったから突き進んだが、ろくに知らされていない農民をいくら掻き集めたところで、里に辿り着くことすらできないだろう。

 それに、五西月さしきの祠でのことも。

 何の気配も感じさせることなく、たった数歩の間にまで詰められたあの記憶は忘れられるものではなかった。

 一息ついて、すっかり重くなった腰をよいしょと上げる。

「お主はもう里に戻っていいぞ」

 ここから先は覚悟のない者には無理だろう。

「そうはいきません」

 ぱっぱと腰に着いた枯葉を払う。

「だが、お主にはあの里に仇なすことはできまい」

「したくはありません。ですが、それ以前に私の役目は山中無事に案内することです。これからどこに行くつもりかも分からないのに、放り出す訳にはまいりません」

 それに、と腰の物に手をやる。

「いくら、そもそもが見せかけだけとはいえ、それだけを持って行かせる訳には。そんなことすれば、御身が生きて戻られても、私の命がありませんよ」

 せめてこちらを、と自身の差している刀を差し出してくる。

 しかし、義長はそれを笑って断った。

「それはお主が持っておけば良い。来るのであれば、それで守ってもらわねばな」

 つづらの横から鉈を外すと、適当な枯れ枝を見繕って小枝を落とし杖とした。

「では案内してもらおうか」

 そうして二人は再び鬱蒼とした森の奥へと分け入って行った。


 およそ人が通るとは思えない細く急な道を登り、先程見上げた茶の木の下にまでやって来た時、二人はすぐ奥の茶の木で葉を摘んでいる老婆を見つけた。

 年の頃は五十を過ぎた位だろうか。腰は丸まって童程の背丈であり、皺くちゃな顔に、薄くなりつつも腰まである波打つ白髪が異様な気配を漂わせていた。

「少し聞きたいのだが」

 義長が声を掛けると、その視線で射殺そうとでもいうように、きっと睨み返してきた。

「帰んな」

 それだけ言うと、さっさと森の奥へと歩いて行く。

 ちらりと茅彦を見ると、老婆の後ろ姿に食い入るように睨みつけている。放っておけば唸り声すら出てきそうだ。

 その脇腹を突いてやると、物凄い形相のまま義長を睨みつける。睨み返してやって、ようやく我に返ったところで表情を緩め、老婆について道なき道へと足を踏み出す。

 これは妙な所で話をややこしくしてしまったな。

 全く刈られていない草木の中、老婆を見失わないよう必死で追いかけていった。

 やがて、崖の下に茂みに掘立小屋が三つ四つ集まっているのが見えた。

「おい、お前達。お客人だよ」

 老婆が叫ぶと、抜き身を持った男達がわらわらと集まってきた。皆間抜けな獲物を前に、顔には下卑た笑みを浮かべ、身体からは酷い臭いを漂わせていた。

「ああ、いかにも客だ。お前らにいい話を持って来たぞ」

 今にも刀を抜きそうな茅彦を遮って義長が笑う。

「ほう。なんだね」

 荒くれどもを前に不敵に笑う義長に興味を持ったのか、老婆が笑みを見せた。

「つまらん話だったら、この場で切り捨ててやるよ」

「あんたら、『物の怪の里』ってやつは知ってるかい」

『物の怪の里』という言葉が出た途端、周りの空気が変わった。

「ちょうど今、そこから戻ったところなんだが。あの里、攻め落としてみないか」

「はっ」

 鼻で笑う老婆の声が響いた。

「あれだろ。そこの川又の奥だろ」

 ほう、場所まで知っているのか。なら話が早そうだ。

 だが急に怒り出すと、肩を震わせて義長を睨みつけた。

「知っているともさ。辿り着いた者は追い出されるまでは、いい思いができたって噂だったからな。けどどうだ。何人かが行こうとしたが、皆帰っては来んかった。

 しかも、その里の衣の話を聞いて出ていった亭主まで殺された。あの里を攻め落とすだ?そんなことできるなら、とっくにやっとるわ」

「今ならいけるかも知れないが、それでも嫌かね」

 したり顔で言うと、なんだと返す。やはりできるなら、やる気はあるようだ。

「前からの飢饉で今は今年刈った麦しかないらしい。十分な田畑もないから、まだしばらくは腹を空かせたままだ」

「物の怪がか?」

 老婆が小馬鹿にしたように聞く。

「そうだ。物の怪でも飢えれば死ぬからな」

 ついでに、と声を潜める。

「今頃は山狩りの恐怖から解放されたと浮かれていて、守りが甘くなっているだろうよ」

「なんでそんなことが分かるんだい」

「儂が奴らを狩らないと言ったからな」

 一同に困惑の表情が浮かぶ。義長はそれを一通り楽しむと挑むように笑った。

「八幡太郎を祖に持つ、この吉見義長が言ったのだ。鎌倉からのお墨付きが出たも同じことよ」

 一斉に周囲がどよめき出した。八幡太郎とは有名な剛の者。鎌倉に幕府を構えた源氏の大将と同じ出自ということになる。その様な者が目の前にいるということに、ある者は今すぐに襲い掛かって荷物を奪おうとし、またある者は義長の持ち込んだ話に興味を示して、襲い掛かる者を止めようとし、あっという間に乱闘騒ぎとなった。

「黙りな」

 怒気を含んだ老婆の声に荒くれどもが動きを止める。

「見返りはあるんだろうね」

「儂の家来にしてやる。いやなら、蔵から欲しいだけ取って出て行けばいい」

 それと、とつづらを開けて、「ほれ」と押しやる。

「やってくれるなら、その中の物はくれてやる」

 老婆が中身を検めると、高価な鮑や宝玉が零れ出した。

「ふん。口先だけじゃないみたいだね」

 人の悪い笑顔を浮かべると、荒くれどもには有無を言わせず命じる。

「いいかお前ら。戦ぞ」

 辺り一帯に響き渡る様な、怒号にも似た掛け声に義長の口元が綻んだ。

「決行は今晩だ。頼んだぞ」

 里の場所や人数、攻める時の策を伝えると、慌ただしく準備を動き出した山賊の隠れ家を後にした。

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