第41話 1月④ テロのその後
宇宙警察とアルエからはナナを生き返したことについて深謝された。アルエからは「あと少し私が来るのが早かったら、ナナさんの残酷な殺害場面を君に見せることも、心配をかけることもなかったのに申し訳ない」と詫びられた。宇宙警察からは、僕をテロリスト達をおびき寄せるためのおとりに使ったことを正直に告げられ、宇宙警察の太陽系防衛隊長を名乗る壮年の男性から何度も謝罪された。
その後、アルエに「この聖書と同じものを日本のバンドのミュージックビデオで見たのですが……」と尋ねてみると、「そのバンドマンもワンダラーなのかもしれないな。この聖書は惑星エバーグリーンの老人から託されたものなのだが、ワンダラーは魂のさまよいの旅の中で聖書に強く惹きつけられる者もいるらしい。当てもなくさまよう魂は、強い魂の力を持った聖書に魅せられるのだろうな。産まれる前の魂の旅の中で見た聖書は原初の記憶。ミュージックビデオに登場させたのも、その原初の記憶を未だに引きずっているからだろう」と答えていた。
死の傷から蘇生したばかりのナナは精密検査を受ける必要があり、宇宙警察に運ばれていった。ナナと別れる際、「ありがとう」と何度もナナは僕に言っていた。ナナはポーカーフェイスな時が多いのに、この時は泣きそうになりながらだった。僕もナナに「ありがとう」と泣きそうになりながら何度も言った。
僕は池袋から自宅へ終電で帰ったが、深夜のテレビをつけてもどのチャンネルもこのニュースを報じていない。ネットを見ても、テロリスト達による地球襲撃の痕跡が跡形もなかった。宇宙警察が記憶消去や催眠術、ネットワーク侵入などのあらゆる手段を講じてもみ消したのだろう。
次の日の朝にアカネに「昨日はどうだった?」とメールすると、「昨日のレッスンも楽しかったですね」と返信が返ってきた。アカネもどきのナナに会ったことや、宇宙警察に保護されていた記憶はすでに消去されているのだろう。宇宙警察さん、いやはや仕事が早いことで。
僕が惑星スカーレットで暮らさずに地球に住み続けることを決めたとしても、おそらくアカネの記憶が消されたように、僕の惑星スカーレット関連の記憶も完全に消去されてしまうのだろう。
しかし、5人いたテロリストは全滅して、僕の身も安全だ。2月には僕と藤原のバンドの初ライブがある。初ライブに向けて頑張ろうと思った。
ナナとの約束の期限は来月か。しかし、僕の心はすでに決まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます