2-2 楽園の外見
大富豪・
金谷邸にはその主人と同じく様々な伝説風説が流布しているが、はじめに言っておこう。あの伝説やら風説やらは、大体において真実だ。
金谷邸は
とはいえ、この屋敷には美姫として扱われる美しい
庭園には澄んだ池があり、青々とした
さて、潜入に協力してくれた職人の親方だが、彼の名前は明かせない。彼の弟子たちについても同様だ。
今回の取材は内容が内容であり取材対象が取材対象であるため、協力者たちは基本的に「誰であるのかわからない形でなら」という条件付きで協力してくれた人々だ。だから彼らのことも、個人が特定されかねない詳しい素性は伏せるし、名前についてもただ単に「親方」や「弟子」とだけ呼ぶにとどめる。これは今回の協力者全員に共通だ。
本題に戻ろう。
「親方」は、石季倫が所有する多くの荘園のうちの一つで、水車の維持管理や補修を任されている人物だった。言うまでもなく水車は大規模で複雑な仕掛けを持つ精密機器であり、扱えるのは熟練の職人だけだ。彼はそんな熟練工をまとめる親方の一人であり、金谷邸の庭園にある水車点検の命令を受けてやって来たのだ。金谷邸の水車点検は近隣の各荘園の親方たちが順番に受け持っており、今回は彼の番だったのだという。
「水車を扱えるやつは少ないが、」
潜入の前に彼は語ってくれた。
「あの
彼の話を聞いて私は驚いたが、今ではそれはそうだろうと思う。この金谷邸を実際に見た今ならば、納得するしかない。
なぜなら水車は精密機器であると同時に、巨万の富を生み出すからくりでもあるからだ。取れた穀物を脱穀しないで食べられる者などいないし、水車、つまり水力を利用した
「荘園の水車に比べたら、ここの水車なんてお遊びだ。実際、たまには水車も見たくなるからって理由で備え付けられたらしいからな」
と親方は言った。金谷邸の水車がお遊びだというのなら、荘園のは何だというのだろう? 弟子の一人が身振りを交えてこう語ってくれた。
「荘園のはちがう。全然ちがう。あれは……あれは、気分が悪くなりそうになるんだ。そんぐらいたくさんあるんだよ、水車が。たくさんの水車のうなり、きしみ、
話を聞いていたもう一人の弟子が、静かに続けて言った。
「誰だって、超一流の職人になるよ。あそこにいたら。なれなかったら、くびにされるから」
彼が話す後ろで、単に暇を出されるという意味ではないのだと、最初に話してくれた弟子が身振りで示していた。
この金谷の大豪邸は、そういった金でできているのだ。
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