長い3世紀のルポルタージュ
久志木梓
vol.1 黒い海と金の冠 北東の十字路を行く
1-1 曹操の通った道
一〇〇年前に
ただし曹操のように数万の兵を率いているわけではなく、ましてや
ここは
とはいえ曹操が通ったとされる場所近くまで来ると、寄り道するという誘惑にあらがえなかった。そこで無理を言って寄り道したのだが、そんな私を、護衛にあたっている慕容部の戦士たちは不機嫌そうに見た。仕方のないことではある。私の目には曹操の勇壮な
「気はすみましたか? 旦那」
通訳の男が私に声をかけた。彼はずぶずぶと慣れた様子で泥を踏み抜いて私の近くまで来ると、気安く肩を叩いてさり気なく、
「相当いらだっていますよ、彼ら」
と忠告を与えてくれた。
「もともと無駄足の大嫌いな連中ですから」
そう言って通訳は軽く振り返ると、高い鼻で後ろに控える慕容の戦士たちを差した。不機嫌さを隠そうともしない彼らに、通訳は満面の笑顔を向けて軽く手をふりながら、
「имаику!」
と明るい声で短く、彼らの言葉を投げかけた。戦士たちは泥で足を汚し険しい表情のまま、牛の角を削ってつくった強弓や、肉厚で短い、馬上で振りやすそうな腰の剣をかちゃつかせて答えた。
「さ、行きましょう、旦那」
通訳は私に有無を言わせなかった。
私は慎重に道を戻ったが、戻る途中で振り返り、海を見ずにはいられなかった。この海岸から見える海は、黒々としているのだ。黒い海、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます