影カレ

姉欲宅人

影カレ


 二〇XX年、流行りのネットサービスをきっかけに、「影カレ(影カノ)」なるものが生まれていた。本カレが普通の、本当の彼氏で、二次元の彼氏が別カレであるならば、影カレは影武者の彼氏である。

 これはそんな時代を生きる、双子兄弟の空と陸、同じく双子姉妹の松と竹のお話。


 「あ、もしもし陸君。週末暇だったら、新しくできたゲロゲロショッピングモール行かない?」

 「おう竹ちゃん、いいよー。あそこなんかあったっけ?」

 「開店セールで限定コスメがめっちゃやすいんだってー。」

 「あー、化粧品はわからんわからん(笑)」

 「もー、そんなんだからお姉ちゃんにフラれちゃうんだよ。」

 「松ちゃんのことはいいだろ。それこそ、俺は兄貴がそこに来ないか心配だけど。」

 「空君か・・・。お互い双子で、付き合って別れてなんてしているとややこしいわね。」

 「なってしまったもんは仕方ねえだろ。兄貴には週末、そこに行かねえよう言っとくから、そっちも松ちゃんに同じく言っといてくれ。」

 「わかったわ。楽しみにしてるね。ばいばい。」

 そう言って電話を切った。これでよし。陸君の方から空君のことを切り出してくれてよかった。お姉ちゃんと陸君がニョロニョロ公園で会っていたところを見たし、探りを入れるしかない。後は、当日私の影カノを陸君に送っておけば―――。

 

一方その頃。

 「もしもし、松ちゃん。一応計画通り進んでるけど、大丈夫かい?」

 「あー、陸君か。別に私はいいよ。でも本当にいいの?竹が浮気してる前提のプランニングだよ?」

 「でもこの前、ニョロニョロ公園であいつらが会ってるの見ちまったからなぁ。もし当日、竹本人が来なかったら確実に浮気してるぜ。」

 「でも、当日私たちはゲロゲロショッピングモールへ行かずに、ニョロニョロ公園で彼らが来るのを待ち伏せするのでしょう?

 もし竹が当日、ショッピングモールの方へちゃんと来たらどうするのよ。」

 「その時は、影カノにどうにか凌いでもらって後で謝るさ。」

 「ますます関係が悪くなる気がするけどねぇ。まあ、いいわ。それで、逆に竹が空君と本当に浮気していたら、私も陸君と浮気の仕返し、というか仲直りして元通りというわけね。」

 「わかってくれて助かるよ。俺はやっぱり最初の形が一番なんじゃないかって、今はそう思ってる。」

 「あなた仮にも今は竹の彼女でしょう?これで竹が浮気してなかったら、あなた本当に処刑モノだからね。大体、彼らがニョロニョロ公園に絶対来るなんて保証もないのにねぇ・・・。」

 「それに関しては、問題ないぜ。さっき兄貴に聞いたら、当日ニョロニョロ公園で友達と遊ぶ約束があるっていってたからな。まさかあの馬鹿正直の兄貴に限って、嘘をつけるとは思えねぇよ。一応今の兄貴の彼女としてもそう思うだろう?」

 「まあ確かに。そこまで言われたんじゃ仕方ないわね。ここはひとつ探偵ごっこだと思って、妹と現(元)彼氏の力量を見てあげましょうか。」

 「納得してくれてよかった。当日、俺たちは公園で待ち伏せして、二人を発見次第取っ捕まえる。ゲロゲロショッピングモールの方に俺の影カレを送っておいて、そいつから連絡を待つということで改めて確認だが、大丈夫?」

 「了解したわ。万が一浮気してたら二人ともぶん殴ってやるわ。」

 「はは、心強いぜ。それじゃあよろしく。ばいばい。」

 そう言って電話を切った。

 

 当日、双子兄弟姉妹は、ニョロニョロ公園へ、そして、陸と竹の二人の影武者がゲロゲロショッピングモールにて―――。

 「ごめん、待った?」

 「ああ、大丈夫だよ。竹ちゃんそのマスクは・・風邪ひいちゃったの?」

 「そういう陸君こそマスクしてるじゃないの。お互い調子が悪いのに遊びに来ちゃうなんて、おかしな話よね。」

 依頼主『陸』から指示された『竹』と思われる人間は、俺から見るとどうも怪しい。彼女の右手の掌を確認すると『かはなまだあ』という文が確認できた。シーザー式暗号か。彼女が甲賀式の影武者なら一つ、伊賀式の影武者なら五つ分だけ五十音表からずらしてやればいい。今回は伊賀式で、『あなたはだれ』ってとこか。

 「あんまりわかりやすい暗号を使わない方がいいぞ。だいたいそれじゃあ、自分がどちらの者かバレてしまうではないか。」

 「軽率でしたかしら、ごめんなさい。でも、以前ニョロニョロ公園での会合でお会いした方ではないかと思いまして。」

 「ああ、確かにそうだが、どうしてそう断定できた?」

 「耳のピアス痕でわかりました。『陸』さんはピアスをしたことがないという風にうかがっていたので。」

 「参ったなぁ。私生活の断片がこのように現れるとは。しかし、どのタイミングでそれに気づいたのです?」

 「一時間半前よ。正確には一時間二四分と三二秒だけれど。あなたがここらの現地調査をしている間ね。もう少し挙動不審なところをどうにかした方がいいと思うわ。」

 妖しげな笑みを浮かべて彼女はそう言うが、ピアス痕を数メートル以上、いや数十メートル離れたところからそれを確認したというのか?どう考えても常人のできることではない。

 「恐れ入りました。全くもって気づきませんでした。もしやすると、中忍以上の方でしたか?」

 「ええ、一応上忍クラスの資格を持っているわ。それより、これの質問に答えてほしいのだけど・・・。」

 彼女は右手の掌をこちらに差し出しながらそう言った。

 「これは、失礼いたしました。僕は下忍クラスのコードネーム、『海』と申します。」

 「やっぱりね。私はコードネーム、『梅』よ。

あなたは『陸』さんから依頼されてここに来たのでしょう?お分かりだとは思うけれど、私の依頼人はその人の彼女、『竹』さんから依頼を受けてここに来たの。」

 「ええ、そうですが、上忍クラスもあろう梅さんが、そんなペラペラと依頼主の情報を流すのはどうかと・・。」

 「あー、もういいのよ。私今期で引退しようとしていた身だからね。そんなことより、こんな面白い案件、めったにないわよ。」

 確かに、お互いの依頼主が同タイミングで影武者を送るなど、まるで示し合わせてやったかのようだ。

 「あなた、これからも影武者――、影カレとしてやっていくつもり?」

 「秘密結社のようなところで活動することに憧れて、少しの間やってきましたが、そう大した案件もなく、バイトをこなしているみたいで飽き飽きしていたところです。」

 「それじゃあ、お互い潮時だったってことで、最後に一発楽しいことしない?」

 

 

「連絡来ないなぁ。」

 陸と松のペアは、ニョロニョロ公園で空と松を探しつつ、影武者として送ったはずの『海』からの連絡を待っていた。

 「何かあったのかしらね。」

 「何かあったとしても、メールか電話で一報入れることぐらいできそうなものだが。」

 そんな話をしていると、友人の軍太からの電話の着信音が鳴る。

 「こんな時になんの用だよ。もしもし。」

 「おい、陸!お前何してんだよ!いくら何でもやりすぎだろ!」

 「は?何言ってんだよ、お前?」 

 「お前だっただろ?さっきゲロゲロショッピングモールのイベント会場で全裸になった二人組って?」

 「何の話してんだよ、軍――。」

トントンと、誰かが自分の肩をたたいたので振り向いた。

「お話し中のところごめんね。少しお話聞いてもいいかな。」

 


 

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