第2話 星との戯れ
女の子が作ってくれた食事はご飯とお好み焼きだった。
炭水化物が好きなのかな。
味はとても美味しかった。
私が食べている姿をニコニコ眺めながら見ている女の子。
よく見るととても可愛い。
何年か後は私なんかが話しかけても無視されそうな位の、素晴らしい美人さんになると思う。
「おいしい?」
私の顔をまっすぐ見て言う女の子。
「うん、すごく美味しいよ。プロの料理人が作ったみたいだ」
私がそう言うととても嬉しそうな顔になり、
「プロでは無いけどね、プロ級でしょ」
上機嫌で私を見つめ続けている。
何だか気恥ずかしい。
食べ終わって、
「ごちそうさま」
手を合わせると、
「よーし、じゃあ私のご飯もお願いね。ハイオク満タンだよ」
女の子は元気良く立ち上がった。
アパートの前、駐車スペースに二人で向かう。
女の子は楽しそうに足音を鳴らし階段を降りていたが、
「じゃあまずカー用品店に行こう。よろしくね」
そう言って女の子は走ってどこかへ行ってしまった。
何なんだろうあの子は。
今の所金銭の要求とかは無いが、少し用心しないといけない。
ひょっとしたら家出の可能性もあるから後で警察にも行って相談しよう。
しかしまずは車のライトを直すか。
雨が降った夜中に急に会社に呼び出された時、途中までこれに乗って行けはかなり楽だ。
スーツを濡らしてサービス出社するのは本当にみじめだし、また坂本リーダーにそんな濡れた格好してんじゃねー、と怒鳴られる事も無くなる。
今日は電話来ないといいなぁ。
そんな事を考えながら車に乗り込み、エンジンをかける。
心地良い排気音。
車は軽快に走り出した。
大型カー用品店に着く。
車から降りるとそこには、
「運転下手だねぇー」
声がした方向を見ると、あの女の子が呆れた様な声を出して近づいてきた。
「どうやって来たの?」
驚きながら聞いてみる。
「エンジンかかると私はロードスターの中に戻らなくちゃいけないからね。急に消えると人を驚かせちゃうから隠れていなくちゃいけないんだよ」
よくわからない事を当たり前の様に言う。
頭が痛くなってきた。
どうあっても車だと言い張るつもりらしい。
しかしどうやってここまで来たのだろうか。
距離は1キロ位だから走れない事もないのだろうが、それにしても車より早く着くものか?
「ほら、行くよ」
私の手を引っ張ってカー用品店へ行こうとする。
困ったな、と思いつつ引っ張られる。
中に入ると私の手を放し急に走り出し、
「おーい、こっちこっち」
お目当ての物があったのか、大声で私を呼ぶ。
可愛い笑顔で長い手を振るその姿は大きな声と容姿が端麗なのが災いし、かなり店内で目立ってしまっている。
「こら、大人しくしなさい。周りに迷惑だろ」
小声で注意するがニコニコしたまま私を見ている。
「ほらっ、これ買って」
そう言うとライトを私の胸の前に差し出す。
レイ、レイブ、何て読むのかわからないけどこれが良いのか。
値段を見る。
えー、こんなに高いの。
少し驚いて他の電球も見ようとすると、
「他のなんて嫌だよぅ。これにしてよー」
私の服の裾を握りそして引っ張る。
少し他の電球の値段を見ると半値かそれ以下の物もあったのだが、
「これがいいよぅー」
しつこい。
もうしょうがない。
無言で受け取る。
それを見てニコッと笑うと、
「よし、じゃあ次行ってみよー」
まだ買うのか。
私は彼女いない歴イコール年齢の非リア充の典型だが、彼女がいる人というのはこの様な過酷なイベントをこなしているのだろうか。
結局、芳香剤、洗車セット、錆止め等買ったのだが全て値段が高い物をご所望で、結局かなりの出費となってしまった。
店を出た後ご満悦の女の子は、
「じゃあ帰りはハイオク入れてね。もうエンプティでしょ」
また急に走り出してどこかへ行ってしまった。
まったく何なんだ。
ため息1つ。
車に乗り込みエンジンをかける。
軽快で心地良いエンジン音を聞きながら帰る事にした。
ふと燃料計を見ると本当に燃料切れ(エンプティ)寸前だった。
あの子何でそんな事知っていたのかな。
まさか本当に……。
いやいやまさか。
窓の外から燃料系を見ただけだ。
きっとそうだ。
そう思う事にして私はガソリンスタンドに行く事にした。
国道沿いにセルフのガソリンスタンドを見つけてそこに入る。
油種を選んでください、と選択画面になる。
あの女の子はハイオクを入れて、なんて言っていたがレギュラーとでは値段がだいぶ違う。
別にいいや、と思ってレギュラーを入れた。
それでも車は軽快な排気音で機嫌良く、アパートまでの道のりを走ってくれた。
本当に優雅で素敵な車だと思う。
この車に乗っている時だけ少し、仕事や嫌な事を忘れる事ができていた。
アパートの前にある駐車スペースに車を停め、エンジンを切る。
すると、
「こらーわたなべー!」
怒鳴り声。
ビクッとして周りを見る。
リーダーか上司が家まで来たか。
しかし声の主はあの女の子だった。
可愛らしい顔を怒りで歪め私を見ている。
いったい何だというんだ。
今から本当に警察行こうかな、そんな事を考えていると、
「何でレギュラー入れた!」
驚きの一言を私に向けた。
まさか、何でわかった。
戸惑う私に怒りの目を向ける女の子。
ホントにこの子車なのか。
そうでもなければ説明がつかない。
限りなく小さい可能性として、ガソリンスタンドで給油作業を見ていたとしよう。
しかしガソリンスタンドからアパートまでは1キロ以上は優にある。
タクシーで来た。
バイクで来た。
走って来た。
色々な可能性が考えられるが、そうだとして最短距離で帰って来た土地勘のある私に先着して、待っている位の余裕があるものなのだろうか。
しかしその前に、
「ねぇ、どうして僕に付きまとうの?」
一番肝心な事を聞いてみた。
すると綺麗な双眼を私に向け、
「だってね、私を買った人はね」
少し怒りながら当たり前の様に言った。
「だれもが、しあわせに、ならなきゃいけないんだよ」
本当にこの子はロードスターなのかもしれない。
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