神御視 連載編

雪城藍良

第1話

 一 神御視マデ アト3時間


 

 ――何故。

 薄暗い牢獄と苔の悪臭に慣れたころには、ズキズキと痛む頭を安静にさせるようゆっくりと目を瞑った。なんで、と口の中で漏れた呟きが噛み殺されていった。足枷の先に取り付けられた鉄球までの鎖の長さはそれなりにあって、ズリズリとユシェラ・ガログーナは鉄球を手元へ手繰り寄せた。

 別に、ここから脱出することは不可能ではない。可能だ。私が警備にあたるならいざ知らず、他の奴らでは警備が穴だらけで、いとも容易く脱獄できるのだ。

 しかし、ユシェラはそうしようとは思っていなかった。別に身に覚えのない罪を自殺行為としか思えない“カミオミ”で裁こうという話を聞いて、信仰心からほぼ死刑確定の“カミオミ”を受け入れるほど馬鹿になったつもりはない。馬鹿はひどかったか。信仰心などないのだ。私には。

 さらには壁にもたれかかってすでに立ち上がる気力も残っていなかったというだけの理由ではない。

 ただ、生きる気力を失っていただけだった。

 走り続けるにはもう疲れた。生きることに疲れた。他人を不幸にしないのなら、もう死んでもいいと思った。

 ユシェラは、死ぬそのときまでの暇潰しに鎖の音を立てていた。すると、牢獄塔の奥の方から怒鳴り声が聞こえてきた。

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