二等分
カゲトモ
1ページ
「結婚は、していないんだよね」
その言葉につい驚いた顔をしてしまった。
今の世の中“結婚”と言う形を取らなくても生涯を連れ添うスタイルは一般的にも普通になりつつあると言うのに。俺はまだ、どこかで“結婚”が当たり前だと思っているのかもしれない。
「まぁずっと一緒に居るから夫婦みたいな関係ではあるんだけどね」
「そうなんですね、指輪もお揃いのをされているから、てっきりそうかと。申し訳ありません」
「いやいや、みんな俺らは結婚しているって思っているくらいだし、気にしないで」
ミズノさんはカラッと笑って言う。奥さん、だと思っていたナナさんは、今日は仕事でこのあと別の店で合流するらしい。いつも二人で来店されて距離感も近いし、指輪も同じものを左手の薬指に付けているからついご夫婦なんだとばかり思っていた。そうか、そんなこともあるか。
「実はさ、俺、前に結婚していたんだけど、ちょっとした理由で別居してて。本当な離婚したいんだけど前の奥さんがね。未成年の子供もいるし、その子達の事を言われると俺も別れられなくて。だからまだナナとは結婚できないんだよね」
「そんなことが」
「ごめんね、こんな話して」
そう言う割に表情は軽やかだ。まるで何度も説明したことがあるみたいに。
「ナナは、そんなことも全部知った上で俺の傍にいてくれるから。本当に良い子に出会ったよ」
「素敵ですね」
「そうでしょう? 自慢のパートナーだよ。笑顔も可愛いし、料理も上手いし。ちょっとだけ掃除は下手くそだけど、そこは俺がやればいいだけだし。辛いこともあったけど、今は凄く充実しているから幸せだよ。例え結婚していなくてもね」
ニッと笑ってからロンググラスを仰ぐ。
二人が幸せなら、繋がりのスタイルなんて関係ないと、その笑顔は言っているようだ。縛り付けなくても、幸せでいられると。
けれど二口目を飲んだ後、彼は小さくため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます