第66話門の創造を求めて
佳大達は宿で一泊してから、乗船券を求めてクインスの港に向かう事にした。
クインスまでは、西に3日ほど。ちょっと行って戻ってこれる距離ではない。早速出発するのかと構えたジャックを、佳大が抑えた。
「どうするんだ?」
「思ったんだけどさ。全力でひとっ走り行ってくる事にしたから、街から出るなよ」
「すぐ帰ってきてね?」
クリスに返事をして、佳大は存在を隠蔽。
宿を出ると、地面に足を沈め、天高く跳躍するが、近くを行き交う人々に気づいた様子は無い。
身を隠した佳大は幽霊のようなものであり、彼が飛んだり跳ねたりしようと、見向きもされないのだ。
佳大は屋根伝いに掛けていく。
人家が途切れた頃になると、彼は完全に空を飛んでいた。時折、思い出したように宙を蹴る。
佳大は20秒足らずでクインスの港に到着。船着き場のあたりは、既に港湾業務に勤しむ職員や新鮮な海の幸を求める人々が行き来しているが、異民族侵攻は混み具合に影響していない。
戦争の足音迫るとはいえ、海路は避難に使えない。むしろチェリオ城門近くの方が混雑しており、心配性の人々は金品と共に北に逃げ出していた。
「船は出ない?」
「西に向かう客船なんて出てないよ。一週間後の未明にアーク号って言う船が出るから、それに乗りな。荷役でも引き受けりゃ、乗せてくれるさ」
乗船券の売り場が見つからなかったので、佳大は海兵らしき男を捕まえて尋ねた。
皺の無いジャケットを身に着けており、水夫などではないだろう。腰に軍刀を提げている。
丁寧に謝辞を述べてから、男と別れる。港を抜けてから、佳大は空を翔けてチェリオに戻った。
宿を出たクリス達と、チェリオの北西に位置するドール城前で合流。
「お帰り~」
「どうだった?」
港で得た情報を共有すると、一様に気乗りしない様子を見せる。
それを見計らい、あたりを憚るように、佳大は小声で言う。
「密航しよう」
「いい案だが、西に着くまで隠し切れるか?」
「1週間とか言ってたからな。それまでに技を少しでも磨くしかない」
予定がまとまると、佳大にはもうやる事が無い。
後は西大陸に向かい、北の島と行き来しているらしい船乗りに船を出してもらうだけなので、ここで情報を集める必要はあるまい。
暇潰しに依頼でも漁るか…そう考えていると、ターニャが声を掛けてきた。
「あの…ナイさんに聞いてみますか?」
「あぁ――場所変えるか」
ナイを召喚する際の一幕を思い出す。
彼が出現する寸前、ターニャから迸った魔力を、第三者に感知されたくない。
せめて人目につかない場所、宿に戻りたい。
「それは隠せないの?」
「えー……気になって話しできないって。宿に戻ろう」
佳大は自分の隠形術に自信を持っていない。
「気まぐれに慎重になるな、お前…」
「なにが?」
「気にするな」
4名は宿に戻り、ナイを召喚。
本物ではないとはいえ、這いよる混沌の化身…油断はできない。
ナイアルラトホテップについて考える彼の脳裏に、一つの疑問が浮かんできた。
彼は魔術が使えるのだろうか?折角だし聞いてみる事にする。
「はい、御用件は?」
「俺達――」
佳大がジャックの質問を遮る。
「なんだ、横から!」
「御免、関係あることだから。ナイ神父ってさー、魔術使える?クトゥルフの」
「えぇ、使えますよ。それがどうしました?」
「だったら"門の創造"使えない?使えるなら、それで海を越えたいんだ」
ジャックの顔色が変わる。
佳大の一言に興味惹かれ、機嫌を直したのだ。
「門の創造?」
「別の場所、別の次元、別の世界への門を開く呪文だ。魔力を永久的に消耗しなければならないらしいけど」
「だったら船要らないじゃん!やったね!」
「フフフ…使えますよ。後は消費する魔力ですが」
「魔力を帯びた器物(アイテム)は無いしな…その辺の奴でいいだろ。ここで儀式するのか?」
街の外がいい、とナイは言った。
術によって創造された門は、発見され、相応の魔力を支払わないと使用できないが、使われない方が面倒臭くなくていい。
ナイの使用する魔術は、佳大が考えているより強力な代物で、行き先は自由に指定できる。
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