第63話首都チェリオ到着、混乱のエスタリア共和国

 ナイの話には、ジャックからすると幾つか聞き逃せない情報があった。


「佳大から供給される力って言ったな?」

「俺、何もしてないけど」

「無論、承知しています。貴方の霊格が高い為、意図せず起こっている現象に過ぎません」

「霊格…、それが高いと、具体的に何が起こるの」


 佳大は胡散臭そうに顔を顰める。


「魔術的、精神的な攻撃への抵抗力が高くなりますね。それにある種の超能力……念力などが発現するかもしれません。これ以上は語っても…推論にしかなりません」

「はぁん…」


 霊格、と言われても佳大にはピンとこない。

彼は一般人である。ただ、面倒臭い事は考えず、他人の安全に無頓着だが、同時に常識人でもある。

この世界に来て、凄まじい程の暴力を手に入れたが、相変わらず欲はある。肉体的な部分はともかく、内面に変化はない。


 一方、ジャックは少々心当たりがあった。

魔術の出力が上昇しているようだ…と彼もエルフィ付近の地下迷宮の城塞以降、考え続けていた。


「内面を汲み取りって言ったけど、ターニャは君を求めていたのかい?」

「いいえ。自分の側にいてくれる誰か、ですよ」


 ターニャは思わず目を見開いた。


「自分を丸ごとくるんでくれるような、心強い味方――」

「わっ!!」


 言葉を遮ったターニャに、全員の視線が集まる。

仲間が欲しかったのは事実だが、堂々と口にする事ではない。子供っぽ過ぎる。

立ち上がり、ナイに掴みかかる姿勢で固まった彼女がちらと見るが、3人の男は明かされたターニャの願望に対して、コメントすることは無かった。


(え、無言…?)


 ターニャはすごすごとベッドに腰を下ろす。


「僕らも使えるかな、新しい力。ねぇ、佳大?」

「俺に言われても、何もできないぞ」


 ナイに助け舟を求める。

力の供給、と言われても、ターニャ達に何か仕掛けたことは無い。


「そうですね、力自体は注がれていますから、相応しいタイミングが来れば、発現するでしょう」

「ナイと言ったか。こいつが与える…力ってのは」

「言いつづめれば、加護ですね。出処は別にすれば、神通力に等しいもの思ってもらって、差し支えないでしょう」

「こいつに神々しさなど感じないが?」

「存在の隠蔽に長けているのでしょう。もし佳大が自分の本質を無邪気に放ったら、並の冒険者程度はそれだけで気失しますよ」

「そっかー!ヨシヒロって透明になれるもんね!臭いも薄いし」


 佳大はナイの説明を理解したが、納得はしていない。


「要はパーティーの戦力を底上げできるって事だろ。それで十分」

「あぁ。俺の目利きも捨てたもんじゃないな」


 平静を装っているジャックだが、口元に笑みが浮かんでいる。

行動に一貫性が感じられない佳大に辟易していたが、ここにきて株が少し上がった。


 4名は間もなくボスティン村を退出。

ハルパーの剣は、使いたい者がいなかったので、ひとまず佳大が預かった。

一週間後に、2本の円塔に挟まれたアーチ形の城門を潜り、首都チェリオに入る。

門から真っすぐに進み、中央広場に達した佳大達は、エルフィを凌ぐ賑わいにやや気圧された。

商業国家と呼ばれるだけあり、フィリア帝国より人の行き来が盛んなのだ。


 冒険者ギルドホールの位置を確認し、ギルド所有の宿泊施設に向かうが満室。

彼らは仕方なく、一般の宿に拠点を設けた。


「満室は覚悟してたけど、やっぱり安いのかな」

「だろうな。街の規模からいって、金山街より設備もマシのはずだ」

「その分、稼げばいいじゃない」


 4人は連れ立って酒場に向かい、最近の情勢を尋ねる。

すると、国のあちこちでトラブルが続発している事が分かった。

西の都市タルヴォスで、水源に媚薬が撒かれ、公序良俗に反すると拘束された男女が数十名出たそうだ。

ここチェリオを中心とした、エスタリアの中央区域で、見目麗しい婦女が、突如病死する事件が頻発。犠牲者の中には、地位のある人物も含まれ、統治機関のエスタリア集会が調査を命じている。

東からヴァンパイアが紛れ込んだとの見方が強いらしいと、末端の兵士が零したそうだ。


「それから、カンタ・テクレツィエンの侵攻?」

「なんだそりゃ?」

「知らねーのか!?大陸中央の、だだっ広い草原に住んでる遊牧民だよ。連中が南から攻めてきてるのさ。しかも和平を唱えたオスロ―伯が賊認定されるや否や寝返っちまって、もう泥沼さ」


 佳大はうへぇ、と呆けた声をあげた。

セルジューク朝・匈奴など、遊牧民は世界史の中で、幾度となく脅威として語られている。

彼らが猛威を振るっているという事は、この世界で銃火器は発達していないのだろう。今まで銃火器は見た事が無いし、魔術も存在している事から、その線は高い。

遊牧民は海上交易と銃火器により、騎馬戦術と陸上交易の価値を下げられることで、歴史の舞台から降りたと勉強した。


――いや…、片方は既に果たされているのではないか?


 海の向こうにある別大陸が発見され、フィリア帝国も船で物をやり取りしているらしかった。


「店主、そのカンタとか言う国、船は持ってるのか?」

「いーや、聞いた事ねぇが。けどホツマって言う島国が、カンタの西に浮かんでいるから、そいつらは持ってると思うぜ」

「船なんか使わなくたって、陸から攻めればいいじゃない。平原なんでしょう?」

「難しいだろうな。西大陸の中央は、標高の高い灰色の峰で遮られてる。エスタリア軍が進むなら、山を迂回する事になる。山頂はドラゴンの巣だし、麓はドワーフが治めてる」


 八方ふさがりだな、佳大はエスタリアの兵士に同情した。

ドワーフに協力を仰ぐ手もあるだろうが、やってないって事は失敗したのだろう。

佳大は国の情勢より、西行きの船が出るかどうかが気になった。

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