第44話ターニャの逆ハーレム(仮)

 初めの分岐を左手に進むと、すぐに行き止まりに出た。

10名ほど入れば一杯になるような小さな空間に、輝く石が一つ落ちている。


「金か!」

「いや、違うな。石自体が光ってる」


 ジャックはまじまじと光る石を眺める。

横から覗き込むが、やはり金の混じった石ではない。


「ふん。これは俺達には使えんな、鍛冶屋にでも持っていってやれ。小遣いくらいにはなる」

「金なんて拾ってどうするの、売れないでしょ」

「当たり前だろ。西大陸で売るんだ」


 小部屋を出た4人は分岐に戻り、右手の分岐に入る。

回廊のように掘削されており、壁の一か所に奥への入口が開いていた。

足音が近づいてくる。接近者の姿を確かめるより早く、クリスは駆け出した。

まもなく悲鳴のような音が上がり、重いものがぶつかったような、湿った爆発音が断続的に響くようになる。


 ターニャの前を歩くのはジャック、殿を佳大が務める。

その間に挟まれながら、彼女は思った。今の自分は姫のようなものだ。

3名の、若い男に守られて、前人未到の道を進むか弱い私――悪くない。


(最初は怖かったけど、どうってことないな)


 初接触は散々な有様だったが、敵意は持たれていないらしい。

クリーム色の天蓋で覆われた都市での経緯を喋るなと言われたが、頼まれたって話さない。

パーシバルに着くまでの間、野営している彼らを観察していたが、魔物も夜盗も彼らに近づこうとはしなかった。


――避けられているみたいに。


 それが何を意味するのかは分からないが、不興を買うのはよろしくない。

これだけの男と会話したのは初めてだ。ようやく自分にも春が来たのだ、と周囲を警戒しつつターニャは考える。

恋人にするなら誰だろう……クリスは論外だ。彼を見ていると高圧的な年長の人鼠を思い出すし、怒らせてはならないと思わせる何かを常に発散させている。

佳大は一緒にいても緊張しないが、3人の中では一番地味な顔だ。ジャックは偉そうな喋り方だが恐ろしくは無いし、何より整った顔をしている。


 坑道は先に進む度に広くなっていく。

5人が横に並べる程度だった通路は、倍ほどのスペースが出来た。

明りは一切ないが、不満を垂れる者はいない。夜目が利く者しかいないし、ターニャにしても、視覚を頼りに生きていない。

近づかないと顔の造作が分からないくせに、男の外見を気にするあたり、彼女も道隆やクリスほどでは無いが、性根が歪んでいる。


 再び現れた二つの分岐のうち、右手に進む。

ジャックに勧められ、佳大が生命探知を行うが、両方から魔物の存在を感じる。


「あ……あの…」

「どうした?」

「多分…」


 左手の分岐を指さし、ターニャはそれきり黙り込む。


「向こうがなんだ?」

「えーと、ひょっとして巨人?」


 ターニャは引き攣った顔で首を左右に動かす。。


「あ、いや、違くて、人間……」

「先に来たとかいう奴らか!」

「行ってみよう!」


 クリスが弾丸のように視界から消え去る。

トラブルを危惧したジャックが後を追い、その後ろに佳大とターニャが続く。

何ゆえ彼らが急ぐのか、遠巻きに観察していた彼女だったが、理由に考えが及ばない。

彼女は佳大に手を引っ張られるまで、その場に立ち尽くしていた。

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