第31話ランダム変化とエアレーバナナ
「幾ら使った?」
「5シルバと18ブロン」
佳大はやや哀れっぽい気持ちになった。
ゲームならレベルが上がれば、新しい魔法を習得すればいいが、実際はそう甘くないようだ。魔法使いやるのも楽じゃない。
「はぁー…船代が最低1人7シルバだったか、出てくばっかだな」
「そんなもんだ。浪費を控えて、道々で稼いでいくしかない」
「荷物持ちも探さないとなー」
クリスが荷物持ちを欲しいと言っていた。
仲間を求める性格ではない為、伸びに伸びていたが、どこかで見つけるべきか。
ちらと視線を向けると、クリスはきょとんとした顔をしている。
「?…あぁ、荷物持ちね」
「忘れてたな」
「奴隷でも買う気か?維持するにも金がいるぞ」
「使えなくなったら、捨ててけばいいじゃない」
「足が出るだろう。買うんだったら、元が取れるくらいには働かせろ」
宿に戻ると、一行は鎧の処分を始める事にした。
佳大の注文通り、脛当と篭手はランダム変化させる甲冑から、除けてある。
防護面や装飾の少なさから見て、報酬の鎧は、下級騎士が使っているものではないかとジャックは判断していた。
「まず兜からいく。器物変性(ファンブリング)」
冷たく光るヘルムが揺らぎ、小瓶に入った薬に変化する。
「これは…」
「持久力を上昇させる薬だな。長くても3分までしか持続しない」
魔術による変化が済んだ時、彼らの前には鹿の背肉の燻製が300g、ウリ1つ バーツ動物寓話集が1冊出現した
「燻製はともかく、ウリは日持ちしないよな」
「まぁ、早いうちに食う事だ」
「本はどうしよう?」
「あぁ、これは俺がもらおう。暇潰しぐらいにはなる」
全体を見ると、悪くない結果ではないだろうか。
「じゃあ、俺はもう行く。また明日」
「おう、またな」
「またね」
そして翌朝。剣の鞘を、店に取りに行くまで残り3日。
3人は小型船で1時間30分かけて、キナバ島に到着。港で出っ歯の案内人に迎えられ、彼に先導される形でジュリアン農園に向かう。
「この度は依頼を受けていただいてありがとうございます。急な注文が入りましてね、農場主の命令で急遽バナナ――」
「ねぇ、魔物を食用にしてるって本当?食べても問題ないの?」
「……私の父の代には、肉や血が食べられる魔物が発見されていますよ」
案内人は胡乱な表情でクリスを見つめたが、すぐに視線を前方に戻した。
「森に生息している連中は大人しいのですが身体が大きくてね、我々も小作人の安全には気を配っていますが、死人が出ることもあります。アンフィスバナナは奥深い森にいますし、今回は冒険者に依頼でも出そうかと…」
急ぎの依頼ではなかったので…と話は続く。
こちらから質問されたくないのだろうな、と察したらしく、クリスは肩を竦めて黙った。
無言のまま入口の事務所に到着すると、引き締まった身体の男達に引き合わされる。
彼らは荷車を数台引いており、そこに房を積んで運ぶらしい。
(護衛任務って事か?ちゃんと書いとけ!!)
依頼自体は、とくに問題なく終わった。
エアレーバナナは、背中にヤマアラシのように青い房を生やしたカバに似た生き物だ。
体高が佳大の背より高く、猪のように鋭い牙、水牛のように長い角を持つ。
突進するエアレーバナナは軽自動車を思わせるが、佳大が組みつけば簡単に止められる。
その間に小作人が取り付き、房を手際よく切り取っていく。
彼らが離れてから、佳大も魔物の拘束を解いて逃走。
バナナの巨獣は当然、彼を追うが、佳大の存在は周囲に紛れてしまう。
姿が消えるのは勿論、体臭、温度、立てる音すら消失させることが出来る佳大を、エアレーバナナは追跡できない。
「あのバナナ、って果物、まだ青かったけど採ってよかったの?」
「バナナは青いうちに採るんだよ。熟した奴は傷みやすいし、虫がつくから」
バナナは熟していないうちに採り、日本についてから数日かけて熟成させる。それから出荷されるのだと、佳大は小説で知った。
こちらでどのように扱うのかは知らないが、クリスはその説明で納得したらしかった。
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