3=オゲェ!


 縄を解くためと、ヒスイは息が掛かる程、近くへと寄り添う。


 「んぁ……ぁ?」

 「どうしました……?」

 「いや、こいつ……なんかいい匂いがするなって」


 肩にあごを乗せ、耳の後ろの匂いをしきりに嗅ぐ。

 くんくんって。まるで犬みたいに。


 「私は反対ですよ。こいつを自由にするなんて」

 「カッテーなぁ、リーマは。ちょっと、オレサマは話をしよーってだけだゼ?」

 「危険です」

 「かもなぁ~」

 「……だから、バカシラはバカバカなんですよ」

 「オメー、やっぱそれバカにしてんだよな! そうなんだよな!?」


 縄を解いて、ツッコミを入れて。それから、ヒスイは僕をじろじろと眺める。


 「それで? オメーサマは、どこの人間だ」

 「どこって……日本ですけど」

 「にふぉん? どこだゼ、それ」

 「え?」

 「ん?」


 赤いもみじと青い着物、ふたりは顔を見合わせる。

 眉間にシワを寄せ、首を傾げる。

 まるで、そんな国名は聞いたことがないって反応。

 ちょっと待ってほしい。


 「……ここ、日本ですよね?」

 「はぁ? ここ、イグマ・エーズベルグだけど」

 「イグ……えっ、何?」


 そんなドイツっぽい国名は、僕が聞いた事ない。

 というか、今まで日本語を話していたのに。

 何が何だかわからない……。


 「まさか……ここって……」


 異世界ってヤツなんじゃ……。


 「っ……その……ヒスイちゃん?」

 「あぁ、なんだよ?」

 「僕のこと、ムネナシって読んだけどさ……あれってどういう意味なの?」

 「どういうも何も……人間なのに、胸がネーのはムネナシだろ」

 「胸?」

 「おっぱいだ」

 「……いやいや、男におっぱいは付いてないでしょうが」

 「へ……男?」


 ぽかんとして、ヒスイは僕に問い掛ける。


 「男って何だ?」


 僕は胃液をぶちまけた。

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