序章-2
話変わって、校内を駆け回る俺、だ。
「はっ――はっ――はっ!」
全力疾走しているせいで息も絶え絶えだが、足を止めることはしない。
汗が目に入る。息が苦しい。足が痛い。
今まで生きてきた十七年間で、ここまで生きていることを実感させられたことはなかった。そもそも、何かに対して全力を出すという柄じゃないんだ。そのツケが回ってきたと考えれば、微妙に納得できてしまうのも嫌なのだが。
「そこで止まれ!」
目の前に人が出てきた瞬間に方向転換をして階段を駆け上がっていった。
「止まれと言われて止まるバカがいるか! この、バカがっ!」
精一杯の悪態を吐いてみるが、このまま鬼ごっこを続けていても終わりが見えない。……いや、何時かは俺のほうが力尽きて終わるのだろうが、そうさせないための策を、今も頭で考え続けている。
鬼ごっこ――捕まれば、比喩ではない死が待っている。
木を隠すなら森の中、人を隠すには人の中と言うが、残念なことに校内を駆け回っている生徒は俺だけなんだ。だから隠れるという選択肢はない。
「はあっ……はぁ……はぁ……」
息苦しいというよりも、心臓の鼓動が大き過ぎて、そっちのほうが大丈夫なのかと心配になる。
一先ず速度を落として肩を上下させながら廊下を歩いていると、足音が聞こえてきて小さく溜め息を吐いた。
「っ! 見つけたぞ!」
「クソッ!」
踵を返して駆け出し、廊下を曲がった。
「こっちだ!」
曲がった廊下の突き当たりにもう一人が待ち構えていて、こちらに向かってきていた。それはそれとして、何故だか廊下の真ん中にバックパックが置かれているのを発見した。
「――って、何をしてんだ、俺は!」
無意識にバックパックを手に取っていた。
中身、不明。持ち主、不明。だが、誰かが騒ぎの中で落とした可能性が大。それなら安全な場所に置いておきたいのだが、そんな暇もない。
迫り来る二人から逃れるために、また階段を上がった。
上に行けば行くほど逃げ場がなくなるのはわかっているのだが、下に行けば捕まる可能性が格段に上がってしまう。だから、どうするべきか考えた結果――屋上まで行くことにした。
もしかしたら脱出用のロープがあるかもしれないし、近くに飛び込めるような水が……いや、この学校はプールが無いんだった。
「っし、着いた!」
出てきた扉を閉めて、何かつっかえ棒になりそうな物がないかと探したが、さすがに普段は立ち入り禁止の屋上だけある。鍵こそ掛かっていないものの見事に何も無い。
あるのは給水タンクと、数枚の太陽光パネル。フェンスも一メートルくらいの高さだから向こう側に行くことは容易いが、飛び移れるような建物は敷地内には無い。
「……どうすっかな」
屋上の縁に立って地面を見下ろしながら呟くと、勢いよく扉が開かれた。
「漸く追い詰めたぞ、ガキが。手間取らせやがって。追いかけっこは終わりだ。ここで死ね」
構えられた銃の引鉄を今にも引こうとしていた時、背後から来たもう一人の男が銃を握る男の肩を掴んだ。
「もう時間だ。放っておけ」
男の視線は屋上に置いたバックパックに向けられているようだった。こちらが疑問符を浮かべていると、男たちは踵を返して屋上を後にした。
何が何だかわからずにバックパックを確認しに行くと……んん、よくはわからないが、このカウンターがゼロになった時に悪いことが起こるであろうと予想し、駆け出した。
そして――ゼロになった瞬間、背後からの爆発音と爆風で体が浮き上がり、屋上から外へと投げ出された。
頭を下にして落ちていく最中、俺の頭の中は生と死についての論争が繰り広げられていた。
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