第378話 魔法使いクレア

 やがて……



 十年の時が流れました。

 クレアは、また故郷の小高い丘の家へ戻って来ました。


 そのかたわらには一人の利発そうな少年がいました。


 少年の瞳は若き医師と同じように輝いていました。

 

「ママ~! 早く~ーー!!」

 少年は一気に丘を駆け昇って行きました。


「待ってよ。ユウキ!!」

 そうです。

 少年は若き医師の忘れ形見でした。



「ただいま~。お祖母様!!」

 クレアの言葉に、どこからか、


『お帰り!!』

 と祖母の声が聴こえたような気がしました。


「パパァ~ー~! 遅いよ!!

 早く早く~!!」

 少年ユウキの声が丘に響きました。


「おい、待ってくれよ!! ユウキ~……!! オレは荷物係りなんだぜ!!」

 後から、荷物をたくさん抱えた青年がやってきました。


 彼は、若き医師、ユウキの弟、ユウジでした。


 ユウジの腕にはタトゥの痕がありました。


 彼は優秀な兄と比べられ、ヤンチャな若者でした。

 しかし兄、ユウキの死後、必死に勉強し、医者となりクレアと共に、この過疎化の進んだ土地へ戻ってきたのです。


「フフ…、ご苦労様……」

 クレアがユウジをいたわりました。

 ユウジは、はにかんだように笑顔を浮かべ、

「なぁに~…、たいした事はないさ」

 と応えました。



 小高い丘の一件家の前でクレアと少年、ユウキ、そしてユウジの三人が並んで立ちました。



 ユウジは兄の忘れ形見のユウキを抱きしめました。


「クレア…… ユウキ!! 兄貴の分もオレが幸せにするよ!!」

「フフ……」クレアは微笑みました。


『お祖母様… ありがとう!!』

 クレアは清々すがすがしい気持ちで町を見下ろしました。




 果たして、クレアは本当に魔法が使えたのでしょうか。


 それは……

 神にしかわからない事です。







 

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