第十四話 双子の戦士 VS 狂気の戦士

 ――時を同じくして。


 兄と別れた二人の妹は、もう一人の敵と対峙していた。


「おや、今度はこれまた可愛らしいお客さんで」


 丁寧な物腰。身長は高く、手足はスラっと伸びており、かと言って筋肉質なわけでもない。

 体の毛は真っ白に染め上げられており、返り血が色彩豊かに映えていた。


「前回はお世話になったね」


 そう言うと、男は優雅に双子に対して頭を下げる。


 前回――それは囚われのレスコットを助けに行ったあの処刑場でのことだ。

 兄ドウランが過激派のボスと戦っていたように、姉妹も同じくしてこの男と手を合わせていた。


 だが、あの時とは明確に違う点が一つある。

 それは、あの特異な体毛だ。


「その身体、一体どうしたんだ?」

「イメチェンでも? 正直、似合っていませんわ」


「これは贈り物だ。無間の苦痛の先にあるひとつの光。おかげで私は生まれ変わることができたよ」


 皮肉に反応することもなく、恍惚そうに語る敵。


 以前は確かに茶色だった。そして、見れば分かることだが断じて毛染めなどではない。


 この短い間に何があったのか、その原因を気にかけながら二人は武器を抜いた。


「……本当に気味の悪い人。ねぇ、シスター」


 ウーフーは真っ黒な革の手袋を一つ左手のみにはめ、腰に差した扇子を右手に持つ。


「全くだ、シスター。二度と戦いたくはなかったのに……」


 答えるヂーフーも三十センチほどの両刃短剣を二本、それぞれの手に握った。


「手慣らし型鉄扇に、そして多刀。相変わらず君たちは珍しい戦い方をする」


 男は歓喜し、両手を広げる。


「……さぁ、聞かせておくれ。君たちの叫びうたを!」


 その言葉を皮切りに、彼らの死闘は始まった。


 まずはウーフーが先頭。そして、その後ろ――自らの姿を隠すようにヂーフーが走る。


 スピードを乗せウーフーが鉄扇ごと右手を振るえば、相手は左腕を立てて防御の体勢をとり、同時に反撃のため右拳を握った。


 両者の初撃がぶつかろうとする最中、ウーフーの突然の方向転換。

 しゃがみ、右回りにその場で回転すると相手の踵ごと足払いを試みる。


 また、その肩を足場にウーフーはジャンプし、相手の首を目掛けて両手の剣で切りつけた。


 しかし、攻撃は当たらない。


 男はその場で体を丸めながら跳び、回避をすると地面に手をつき、両足でウーフーを蹴りつける。


 そして、それだけでは終わらなかった。

 ついた手に力を込めて地面を掴むとその体を支え、ヂーフーに蹴りを放つ。


 手痛い反撃を受けた二人であったが、しっかりとガードできている。また、近距離であったためスピードが乗っておらず大したダメージにはならなかった。


 そのまま吹き飛ばされた彼女らは、着地と同時に再び駆け出す。


 男が先に対処するのはウーフーの方だ。

 軽い左の打撃で牽制を入れる男に対し、鉄扇を巧みに使い関節をキメると折りにかかる。


 跪くように体勢を下げれば骨折は免れるが、それでは隙を晒してしまう。

 一瞬でそう判断すると、男は左腕を捨てた。


 力に逆らってわざと骨を折り、その代わりに右腕をウーフーへと差し向ける。


 そして、その動きを止めようと手元の剣を投げるヂーフー。

 敵の手を貫通して突き刺さり、僅かな――本当に刹那の時間、その腕が硬直した。


 刺さった剣ごと攻撃しようとすぐさま手を差し向けてくるが、そんな隙を逃してしまうウーフーではない。


 折った腕を即座に放棄し鉄扇で受け流すと、逆手に持ち替え自身の手首と鉄扇とで相手の腕を挟み込む。

 そのまま貫通した剣を左手で抜き、首を目掛けて横薙いだ。


 一方のヂーフーも腰からもう一本剣を抜くと、背後に回り致命傷となりうる心臓と腎臓をそれぞれ突き刺そうとする。


 けれど、それさえも上手くはいかない。

 巧みに躱しつつ身体を捻った男は、回し蹴りで二人まとめて蹴り飛ばした。


 受身も取れず転がる双子に、追撃の手はない。


「大丈夫、シスター?」


 受けた衝撃に咳き込む姉を心配するウーフー。

 幸いにも血は吐いておらず、内臓が傷ついてはいないようだ。


「あぁ……肋骨が二本、ってところだ。問題ないぜ、シスター」


 そう言って立ち上がると、彼女らは再び構えた。

 けれど、相手に攻め気はないようで何もしてこず、その間に相談を交わす。


「そう、だったら聞くけど……シスター、あの変態前より強くなってません?」

「あぁ、なってる。それに、気付いているかシスター。アイツ、もう薬を飲んでないぜ」


 驚く視線を向けるウーフーの先には、既に左腕が治り切った男の姿が。

 右腕の傷も塞がっており、また、今までの攻防に息一つ乱してはいない。――薬を飲んでいないのに、だ。


「アレ、反則だわよね? 勝手に回復だなんて、どうすればいいのよ」

「いや、そんなこともねーぜ、シスター。アイツ、ウチらの急所への攻撃は全て躱してた。多分だけど、即死級の傷は回復できないんだと思う」


 双子の中でも頭脳系を自称するヂーフーは冷静に分析し、「そして――」と付け加える。


「即死するのなら、アイツの異常な回復速度の理由は自己治癒力の向上だ。吸血鬼みたいな再生だったら、それさえ避ける必要がないからな。そんでもって、自己治癒力なら必ず限界がくる」

「分かったわ、シスター。……けど、何が原因であんな無茶苦茶ができるようになったのかしらね」


「まぁ、十中八九あの体毛と関係があると思うぜ。大方、薬の過剰摂取による体組織の破壊と修復を繰り返したせいで、何らかの異常でも発現したんだろ」

「……はた迷惑ね。死ぬと分かっただけ、ありがたいけど」


 お互いに軽口を飛ばすと、ウーフーは先程拾った剣を持ち主へと返した。

 そうして、互いは武器を握っていた手により一層の力を籠める。


「……作戦会議は終わりかな?」


 律義にも腕組みをしたまま待機していた男は、頃合いを見計らって声をかけてきた。


「えぇ、おかげさまで」

「ウチらに時間を与えたこと、後悔するんだな」


「それは上々。では、今度はこちらからいこうか……!」


 気味の悪い笑みを浮かべ腕組みを解くと、直立体勢からは想像もできない速度で双子に肉薄する。


 その勢いに巻き上がる地盤。

 気付いた時には目の前に拳が到来しており、慌てて二人は左右へと飛んだ。


 しかし、飛距離が足らなかったようでヂーフーはまだ敵の攻撃範囲内。

 咄嗟にガードするもその上から蹴り飛ばされ、続いてウーフーが狙われる。


 連続する打撃の嵐。その全てを受け流し、体捌きのみで躱す。


 確かに薬の効果は強力なものだが、彼女らは女性だ。格上の男性とも戦うことの多い双子にとって、一撃が致命傷なんてことは日常茶飯事。

 それ故に、今の状況はいつもの戦闘風景と何ら変わりなかった。


 唯一の誤算は、負傷も厭わずに攻撃を繰り出すその異常性だ。

 相手の攻撃にカウンターをする形で組み技をかける彼女らにとって、その戦い方はある種の弱点でもあった。


 おかげでウーフーは半端な攻撃をすることができず、命からがら避け続けている。


 けれど、相手も然る者。

 わざと避けさせるようにウーフーの左右に蹴りを繰り出すと、瓦礫が舞い上がり逃げ場が失われた。


 その後に、しっかりと正中線を狙って拳を打つ。

 横には躱せず、かといって体の中心を狙われては受け流しも難しい。


 僅かに思考し、ウーフーは左手にはめた革手袋の手首部分を噛む。そうして何かを取り出すように口で引っ張ると、指と鉄扇を用い、器用に何かを編み込む動作を始めた。


 襲い掛かる殴打。それに対して受け止めるように前へ掲げられた両腕。

 拳は体に当たる寸でのところで止まり、そのまま動かない。


 よくよく見れば、それは太陽に反射して光って見えた。超極細・超硬度のワイヤーである。


「柔よく剛を制す、という言葉を知っているかしら?」


 ウーフーはそのままスライディングをして相手の体勢を崩すと、組み敷こうと動く。

 けれど、無事な左腕を地面に立て、男は倒れる姿勢を無理やり支えた。


「ならば、剛よく柔を制してみせよう」


 血管が浮き出るほどに右腕に力を込めると、固定された腕ごと振り回す。

 慌ててワイヤーを解こうとするが、絡みついた数本を相手に握られており離れられない。


 そのまま地面へと叩きつけられ、衝撃に肺から空気が漏れた。

 咄嗟に受身をとってもこの様だ。


 致命的な隙を晒したウーフーは、その首を持ち上げられる。


 ギリギリと握力だけで締め付けられ、苦悶の表情が浮かんだ。

 ミシミシと骨が軋みを上げ、無駄だと分かっていても防衛本能からその腕を外そうともがく。


「あぁ……いいね。その漏れる声、表情……痺れるよぉ……!」


「シスターを放せ、変態が!」


 ようやく起き上がったヂーフーは、妹の危機に駆け出す。


「今、良いところなんだ。……邪魔するなよ」


 しかし、一人では圧倒的に力量が足りていない。

 振るう剣を全て捌かれると、胸を突くフェイント、それから眼球を潰すように突かれ、臆して後ろへと退く。


「そう、それでいい。君は黙って、このショーを楽しんでくれ」


 より一層高く上げられるウーフー。

 その指が綺麗な白磁の皮膚へとめり込もうとした時――。


「――――っ!」


 突如としてその手を離すと身を引き、それだけに留まらず、二歩三歩と敵は後退する。

 その度に地面が僅かに弾け、まるで見えない攻撃を避けているようだ。


「……マジかよ、音速の五倍だぞ。一発くらい当たれよ」


 咳き込み、喉を抑えるウーフーに駆け寄ると、ヂーフーはそんな声を聞いた。


「まぁ、いいか。救世主っぽい登場の仕方で、カッコよかっただろ?」


 そこには得意げな笑みを浮かべた一人の少年の姿がある。

 意趣返しのような言葉を連れて――。

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