第4話 魔女
「着きましたよ、お二人とも」
そう言って、クロが車のドアを開ける。
「ここが私のお屋敷よ! 新しい執事」
広い。
公園なのかと思うくらいとてつもなく広い庭、外国にありそうな大きい噴水。悠冬は、自分の家の小ささに苦笑する。
「うわ……迷いそうなくらい広いですね」
「なんか、やっぱり口調が定まってないわね」
ジト目で悠冬を見る雛乃。その様子を見た、クロが話しだす。
「ちなみにあちらにある森なんですが、迷うと出てこれないと言われています」
「ぼ、僕は方向音痴なんですよっ! 怖いですね、気をつけます」
――家の周りに森もあるとか……本当に凄いな、格が違いすぎるというか。
「で、どうするの。私はこのまま部屋に戻りたいんだけど、貴方達はお父様の所に行くんでしょ?」
「そうですね。できればお嬢様が居てくれた方が、スムーズに話が進むかと」
嫌だなーと言わんばかりに、顔を歪める。
「自分から巻き込んだくせに、逃げるの?」
そう耳元で囁かれれば、逃げ場がない。
「ぐっ……そ、そうね。仕方ないわよね。うん、だって私はあの
「お嬢様、弱すぎですね」
クロは微笑ましそうに二人を、見つめていた。
雑談をしながら、大きい噴水広場を通りすぎると、これまた大きいお城のような洋風の真っ白な建物が現れる。
「ここの一階に、お父様の部屋があるわ」
「お嬢様、説明するのが流石に……早すぎるかと。せめてお屋敷の中に入ってから」
「べ、別にいいでしょ! 私の勝手よ」
――そうとう僕がこの屋敷に来るのが楽しみなのかな? って自惚れたら、おしまいだよね。
幸せを噛みしめている時だった。胸が張り裂けてしまいそうなほどの、苦しみ、不安が悠冬を襲う。
「……ねぇ、雛乃。僕、ここでやっていけるかな? なんか急に不安になってきたよ」
「平気でしょ、貴方なら。たくさんの修羅場をくぐっていそうだし。なんか慣れてそう」
「え!? ここまでは流石にないよ! 普通は」
フンっと鼻を鳴らした雛乃は
「クロ、はやくドアを開けなさい」
ブツブツと不安を垂れ流している悠冬を無視して、クロに命令する。
「はい、お嬢様」
高そうなドアノブに手をかけ、力を入れて引いた。ギギッと音がなり、室内が見える。
「うわー凄い」
まず、目に入ったのは豪華なシャンデリア。そして壁に掛けられた大きな肖像画。
そこには美しい黒髪の女性が描かれていた。
三十代くらいだろうか。宝石のアンデシンのような紅茶みたいな色をした瞳から目を離せない。
「この女性は?」
雛乃の母親なのだろうか? あまり似てはいないが。
窺うように雛乃の方を見るが、下を向いていて、雛乃の顔は見えない。
「この女は如月家に、呪いをかけた魔女なの」
魔女と言った雛乃は、忌々しいもの見たような顔をして冷たく言い捨てた。
――あれが、魔女?
「ねぇ、それってどんな……」
詳しく聞こうと思い口を開くが、すぐを人の声が聞こえ、口をつぐむ。
「お帰りなさいー、お嬢様」
声変わりする前の、少年の気の抜けた声が肖像画の近くで聞こえ、そっちの方へ気が逸れる。
「
そう言い、ツカツカと一歩一歩、じゅうたんを踏みつけながら少年の元へ向かう。
「んーと、雛乃の趣味か何かかな」
「断じて、違う!!」
少年は、フリルが沢山ついたメイド服を着て、ご丁寧に可愛らしい猫耳まで付けている。
完全防備の猫耳メイドであった。
――初めて見たかも。
おそらく声を聞かなきゃ、男ということは分からなかっただろう。
「でもお兄さんが初めてだよ。俺が男だってすぐに分かってくれたのは!」
「声で分かったんだよ。男の人だって」
「嘘、私は全然分からなかったのよ」
「えーでも、声を聞いても女だと思われるんだよね。お兄さん凄いね、俺の初めてだよ?」
初めてと聞いて、雛乃の顔がサッと赤みを増す。その様子を見て、すごくツッコミたくなるが、さすがに長くなるのでそこは、スルーをして話を続ける。
「……僕の名前は神木 悠冬と申します。よろしくね、幸くん?でしたっけ」
「そう。俺は幸って名前、まあよろしく。もしかして婚約者兼執事さん? 当主様がカンカンに怒ってたけど」
「あわわ、早くしないとっ」
「え、待ってよ! 雛乃」
悠冬の手を引き、猛ダッシュでお父様の元へ向かう。
二人を見送りながら、今まで空気だったクロが、幸の方に近づく。
「……幸。神木 悠冬の事を調べてもらいたい」
「言われなくてもそのつもりだし、クロ」
先程のキャピキャピとした感じとは違い、真剣な声色だった。おそらく初対面がこれなら、雛乃も幸が男であると分かるだろう。
「おそらく、普通の人ではないだろう。……何かが動き始めている」
呆れたと言わんばかりに、幸はため息をついた。
「なんでわかるのさ、そんなこと」
「……長年の経験だ」
そう言って、サングラスを外す。
クロの左目には刃物で傷つけられたような、大きな傷が残っていた。
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