呪われ少女と嘘の少年

子羊

第1話 プロローグ

 いつも通りにドアを開けると、おとぎ話に出てくるような豪華なベッドに、横たわる美しい少女がいた。


 ――さっきまで、あんなにはしゃいでいたのにね。


 少し悲しそうな笑みを浮かべ、ゆっくりとした歩みで、少女に近づく。


「……まるで眠り姫さんみたいだね」


 眠る少女の手をそっと包み込もうと手を伸ばそうとして、空中で動きが止まった。


 暗い寝室。近くに行かなければ、決して気づく事はなかったのだろう。


 少女が横たわっている、真っ白なシーツは紅く染まり、華奢な体には深々とナイフが突き立ててあったのだ。



「……死ぬ時は、一緒だって言ってたのに」


 皆から愛されているこの眠り姫は、誰のキスでいつ目を覚ましてくれるのだろうか?

 死んでいるのに綺麗なんだねなんて、嫉妬をしてしまうぐらいに、彼女は美しかった。


 そんな、醜い気持ちを心の奥底にしまい、微笑んだ。

 最期に、今夜も話をしようと今までで一番の元気な声で彼女に語りかける。

「今日はね、貴女がだーいすきな眠り姫のお話だよ! 昔、むかし……あっ」


 ふと、頰が濡れていることに気づいた。溢れ出る涙が、とめどなく流れ落ちる。

 死を自覚してしまったら、あとは感情が乱れていくだけで


「あっ、あ……いやだああああ!! どうして? ねぇ、どうして」


 大切な人を失った悲しみ、行き場のない怒りが混ざり合い、悲痛な叫びだけが部屋中に響き渡った。



「ん……」


 泣き疲れて、寝息をたてて眠っている子どもを抱きかかえ、 ゆっくりと廊下におろした。


「ここなら、すぐに見つかる」


 幼い子どもの体温を感じ、一筋の希望が見えた気がした。


「こんなにも小さい。君も辛い思いを、たくさんしてきたんだね」


 独り言は、きっと誰にも聞こえずに消えていくのだろう。それでもその子に何かを言わずにはいられなかった。後悔が心を蝕んでいく。

 そっと頭に触れ、真っ黒で綺麗な髪を撫でる。


 そして暗闇に紛れて、その場を立ち去った。


 広い屋敷に、真っ暗な廊下。そこに似合わないほどボロボロの子どもが、横たわっているだけだった。












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