142話 人類サイドのその後の話回
まさかの展開で人類の国家元首に選ばれた男がいた。
そいつの名は『ユング』という。
これが関係者各位誰も想定していなかった新王である。
なぜって彼はほんの少し前までほとんど無名だったし、有名になってからも神官としては上にロザリーがいた。
政治家としては無名であり、家柄もよくはない。
旧貴族……特に『腐敗貴族』などと呼ばれている、女王ランツァ再即位前に実権を握っていた貴族の私生児であり、ようするに血筋はいいのだが、それが現在の情勢ではあまりよくない。
ところが、王になった。
これについてはバックについた『死霊術排斥派』の影響力がとても大きい。
ロザリー殴り隊とかそういう呼ばれ方をすることもあったこの連中だが、ジルベルダというやつをトップに据えたせいで勢いがあった。
このジルベルダが、ユングの戦場での活躍を聞いたところいたく感激してしまい、『今、わかりました。私はユング様にお仕えするために生まれてきたんですね』ということで、ユングのバックについた。
なんかわからんが急に女の子にモテ始めたユングは、もともと高かった功名心もあって、民衆にいろいろとアピールした。
その結果、人気がぶち上がってしまい、次の王……
つまり『新魔王ランツァと戦う国の、元首』にふさわしいとみなされ、あれよあれよというまに王になってしまったのだ。
王となったユングがなにをしているかといえば、やっぱり彼にできることは戦いぐらいなもので、戦場では最前線に立って魔族どもを蹴散らし、大活躍している。
名乗るたびに兵士たちから大歓声が上がるのが気持ちいいようで、最近の彼はとても楽しそうだった。
政務らしきことはしていないのだが、前王ランツァが残した大臣たちがとても優秀なので、ユングはむしろ邪魔しないことが仕事みたいなところがある。
『人類を裏切った悪しき王と戦う、力があり、敬虔なる昼神教信徒の、新王』という構図でユングの活躍は語られ、あっというまに戯曲になった。
頭の毛を剃ることで真昼の輝きに対する信心を示すのだという風潮ができあがり、男性にはスキンヘッドが増えた。
ではユングの上司であり戦功もユングより上、さらに昼神への信仰心も一部で『ヤベェ』と言われるほど高いロザリーはなにをしているかというと、それはもちろん礼拝だった。
現在の国家戦略は『死霊術たちのいる魔王領を制圧しよう』というもので、これがロザリーの信仰と同じ方向性である。
そうして最近の戦争が『足を止めての殴りあい』から『前線を敵側に押し進めて敵の本丸を奪う陣取り合戦』に変わったことにより、『前線を維持するための兵力』が必要になった。
たった一人で魔王領に行くと死霊術師に総攻撃を受けて殺されることをさすがのロザリーも学んだらしく、今の彼女はもっぱら『兵を鍛える』ということに従事している。
毎日開催される
……『いつ終わるともしれない戦い』だった戦争は、『いつかきっと終わる戦い』と認識されるようになった。
『自分とは関係ない、強いやつが戦況を決める戦い』は、『自分も強くなり活躍できる可能性がある戦い』になった。
そうなると大礼拝大会も最盛期を超えるほどの熱狂ぶりであり、ロザリーは神様は筋トレすれば喜ぶと思ってる人なので、たいそう機嫌がいい。
そもそも、もとから功名心だの上昇志向だののない人物であるから、部下にして信仰を同じくするユングが王におさまったことは祝福しているぐらいであり、宗教権力の実行部隊最高峰のロザリーと神意を受けた王とされるユングとは相性がよかった。
ロザリーは人々が『正しい信仰』を抱いて懸命に努力するので嬉しい。
ユングは急にジルベルダとかいうかわいこちゃんと、ロザリーとかいう美人からちやほやされるようになって、とても嬉しい。
ジルベルダは今ユングに夢中期間なので、次に影響を受ける誰かが見つかるまではなんか嬉しい。
前線では覚醒者が増えたおかげでかなり魔族に有利をとれており兵士も嬉しい。
兵士の機嫌がよく生還率が高いと非戦闘民も嬉しい。
そして裏で情報操作や流言をしているエルフおよび魔王も国がどんどん頭までマッスルになっていくので、操作しやすくて嬉しい。
まさしくwin-winの関係というやつだ。
最近は穀物の消費量、特に豆の消費量が倍増したので畑も広げ、魔王の経営する商会はどんどん潤っている。
筋肉は経済を活性化し、人に幸福を与えているのだ。
鍛えよう、筋肉。
接種しよう、タンパク質。
骨に負けない肉を作ろう。
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