第98話 責任者
従業員を雇うための最終面接にはセリカも参加させてもらったが、執事のバトラーと女中頭のランドリーさんが選んでいく人に間違いはないようで、口を挟むこともなかった。
やはり長年、人を見てきているだけあって、少しの質問でその人の人となりを判断できるようだ。
店の方の従業員は、ほとんどが平民になる。
店の責任者を決める時だけは、セリカも少し質問をさせてもらった。
「この二人のうちのどちらかですな。魔法量から言えば、ウィラード・ヘンドレンでしょうか。」
「私はシビル・ローガンがいいと思いますよ。女性なのでセリカ様と話しやすいでしょう。」
面接の後で店の責任者を決めるためにバトラーたちと話し合っていたのだが、ここにきて二人の意見が分かれた。
セリカの選んだ人は、もう決まっている。
意欲的で、面白いことが好きそうな人に見えたんだよね。
「私はランドリーさんが言ったシビルがいいと思います。」
「どうしてですか?」
バトラーとしては、一押しのヘンドレンを女性二人に否定されたので、腑に落ちないのだろう。
「店を切りまわした経験がないから、先入観がないと思います。うちの店は普通の店とは変わったものになるでしょうから。彼女は給仕はしたことがあると言ってました。給仕というのはお客様にも厨房にも接しますから、意外と店全体を把握しているものです。」
「しかし魔法量が少ないですよ。」
「郵便スタンプの砂の扱いができれば、問題ないんじゃないかな。何かあったら私もいますし。」
「それで、セリカ様も質問をされたんですね。しかし女性は結婚問題もありますから、長期に働けるかどうかわかりません。そういう点もあるということは頭に入れておいてくださいね。」
バトラーもなんとか納得してくれたようだ。
しかし言われることはごもっともだ。
責任者となると、できるだけ長期勤務できる人が望ましい。
まあシビルでやってみて、どうなるかだな。
しかしこの後、料理人の試験をしていた厨房に行った時に、セリカは驚いた。
合格者がずらりと並んでセリカに挨拶をした中に、ロナルドがいたのだ。
バール男爵の嫡男がこんなところにいるなんて…。
目を面白そうにパチパチさせてセリカにウィンクをしてみせる。
どうやって、試験を通ったのだろう?
この後、新しい料理人たちは厨房で昼食の準備を見学するようだった。
セリカは料理長のディクソンの袖を引っ張って、厨房の外へ連れ出した。
「ディクソン、バール男爵の嫡男が合格してるけど…。」
「そうですか? 私は包丁の技術と、料理への情熱しかチェックしてませんからね。…そう言えば、今回の合格者の中にバール男爵領出身者が多かったな。ええっと、ロナルドとラスティとジーンです。3人とも店の勤務希望者だな。」
ディクソンは応募用紙を見ながら、セリカに教えてくれた。
「…そのロナルドよ。旅行の時にバール男爵領で会ったの。料理を習う気があるのなら教えてあげるとは言ったんだけど、まさか料理人として応募してくるとは思ってもみなかったわ。」
「ここにはロナルド・ランサムと書いてあるな。セリカ様が言うことが本当なら、母親の実家の名前でも書いたんでしょう。困った方だ。…ここは知らんふりをして、いっちょ揉んでやりますか? どこまで耐えられるかだな。料理人は辞めていく者も多いので、いつも多めに採用してるんですよ。」
「そうなの。…それならディクソンに任せます。」
もう、ロナルドは何を考えているんだろう。
後で問いただしてみなくっちゃ。
◇◇◇
ダニエルにも従業員のことや、ロナルドのことを報告しておこうと思って、セリカは執務室に行った。
しかしそこには何通かの手紙を前に、思案顔のダニエルがいた。
「どうしたの? 難しい顔をして。」
「ああ、セリカ。丁度いいところに来てくれた。叙勲式が近づいてきているから、秋のパーティーを催す貴族が多いんだよ。いくつか出席しなければならない。…しかし、ここにきて東部帯の貴族から三通も招待状が来ていてね。どうしたものかと思ってるんだ。」
「ビショップ公爵の息がかかっている人たちなのね?」
「そうだ。ちょっとタンジェントに探らせてみるかな。この三通の返事はそれからだ。最初はバノック女史の屋敷でのパーティーだ。これは行くだろ? ガーデンパーティーだから、格式も高くないし。貴族とのお喋りに慣れるのにちょうどいいと思う。」
「バノック先生が気を使ってくれたのかもしれないわね。」
「ああ、あの人は用意周到だから。」
セリカの三人の先生方は、ずっとセリカのことを気にかけてくださっているようだ。
バノック先生が招く人は、王領に住んでいる位の低い貴族や宮殿で働く人が多いだろう。
セリカが、王宮のパーティーに出るまでに、経験を積ませてやろうと考えてくださったんだろうな。
良い人たちと出会えてよかった。
セリカはこれから知り合いになる人たちのことを思って、秋のパーティーが楽しみになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます