第96話 面接
セリカは侯爵邸に帰ると、執事のバトラーの部屋に行った。
そろそろ店の従業員について相談しておこうと思ったのだ。
バトラーはセリカの訪問を予測していたみたいで、「そろそろいらっしゃると思ってました。」と言いながら椅子を勧めてくれた。
まずは
「料理長のディクソンがレストランの責任者になりたいと言ってたけど、ダメよね?」
「そうですねぇ~。普通はダメだと言いますけど、ディクソンなら向いてるのかなぁ。」
お、意外といけるのか?
「副料理長のルーカスがいますから、こっちはなんとかなるかもしれません。ただ、結婚式などの大きな行事がある時は、侯爵家の応援に来てもらえるということが可能ならですが…。」
結婚式なんて、当分ないよね…。
やったー!
ディクソンがレストランの責任者になってくれるのなら、鬼に金棒だね。
「それは大丈夫だと思うよ。行事の時はレストランの方を休みにするから。」
「それならいいですよ。ただ料理長が抜けるのは大きいですから、他に引き抜くのは若い者を一人ぐらいにしてくださいね。」
おおう…だとするとニックはダメだね。
「それじゃあ、エディをもらいます。」
「エディ? ああ、彼ならいいですよ。」
よしよし。
これで庶民の料理の責任者はエディだな。
「はぁ~。また面接をして新しい者を入れなければなりませんね。どっちにしろ給仕をする者も引き抜くつもりなんでしょ? 」
「できたら二、三人は希望者を募ってほしいんだけど…。」
「わかりました。店の方の人員についても一緒に募集告知を出しておきます。セリカ様、店の責任者を一人雇われたほうがいいですよ。一人で全部の仕事を統率するのは大変ですから。ダニエル様も会社ごとに社長を雇われています。」
バトラーのアドバイスを聞いて、なるほどなと思った。
セリカも子どもが生まれたら、ずっとレストランに付いているわけにはいかない。
「そうね。じゃあ責任者も一人、募集しておいてちょうだい。」
「それでは二週間後にまとめて面接を行います。」
わー、人が動くと、いよいよ本格的にオープンに向けて始動したって感じがする。
責任者が決まったら話し合って、店の運営の細部を決めていかなきゃね。
◇◇◇
十二刻前になったのでセリカが一階の第一応接室に行くと、ダニエルがもうソファに座っていた。
「お待たせしました。ノーラン卿はまだなんだね。」
「さっき玄関で音がしたからもう着いたんだろ。」
そんなことを言っていたらノックの音がして、バトラーがノーラン卿を連れて入って来た。
その人の顔を見て、セリカもダニエルも驚いた。
ケリーに似てる…。
二人の父親だということは間違いなさそうだ。
「今日はお時間をとって頂いて、ありがとうございます。」
「いえ、遠いところをお疲れ様です。どうぞ、座ってください。」
ノーラン卿はソファに落ち着くと、深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。
「この度は、行方不明になっていた子ども達を見つけていただき、ありがとうございました。すぐに引き取りに来なければならないのに、こちらに伺うまでこんなに長くかかってしまい、誠に申し訳ございません。」
「何か事情でもあったのですか?」
ダニエルに聞かれて、ノーラン卿はより一層身体を縮めたようだった。
「…それが。私の父親と口論になりまして…喧嘩をしている最中に父が発作を起こして倒れてしまったんです。こちらには、私がすぐに行けないという手紙を書いたのですが…お恥ずかしいことに父と使用人が結託していまして、どうも私は騙されていたようなんです。本当に申し訳ない。手紙は着いていませんよね。」
「ええ。今回、こちらに来るという手紙以外は受け取っていません。」
それを聞いてノーラン卿は、がっくりとうなだれていた。
「…やはりそうだったんですか。本当に失礼をしてしまいました。」
しかし顔を上げて背筋を正すと、ダニエルに向かって宣言した。
「私は子爵家と国を捨てて参りました。今度こそ、子ども達と一緒に暮らしたいと思っています。どうか、私にケリーとウィルを育てさせてください。」
…………………。
え、どういうこと?
子爵家に二人を連れて帰るんだと思ってたよ。
でも家と国を捨ててきたって言うことは…この人、仕事があるの?
ダニエルも同じことを思ったようで、即座にそこを確認した。
「あの…ノーラン卿。いや、ノーランさんと言ったほうがいいのかな? 子どもを育てるのにはお金も家も必要ですよ。そこのところは、わかってますか?」
「はいっ。なりふり構わず、どんな仕事をしてでもフェアリーの子どもを育ててみせます。」
うーん。
現実が見えていないお坊ちゃんだね。
セリカとダニエルは顔を見合わせた。
ダニエルは顔をしかめて、信じられないというように肩をすくめた。
「フェアリーというのは…その、ケリーたちの亡くなった母親のことかな? 私は、ノラという名前だったとケリーから聞いているんだが。」
「彼女は森の妖精だったんです。
…ノラさんも、この人の性格を把握してたのかも。
でもこれは困ったことになったな。
こんな人に、あの二人を預けられる?
「ところで、つかぬ事を伺いますが、ノーランさんの魔法量はどれくらいですか?」
ダニエルがどうしてそんなことを急に尋ねるのかと思っただろうが、もともとが素直な人だったようですぐに答えてくれた。
「中級の上クラスです。子爵の中では多い方でした。」
あ、やっぱりケリーと同じくらいなんだな。
「そうですか。ノーランさん、厳しいことを言うようですが、私も経済力のない人に二人を預けるわけにはいきません。まずは仕事を探して家を整えてから、もう一度訪ねてきてください。一週間後にまた、お会いしましょう。」
「あ、あの、子ども達とは…。」
ダニエルは縋るような目をしたノーランさんを
「それでは、一週間後に。」
そう言って、セリカを促してさっさと部屋を出ていく。
え? いいの?
セリカもダニエルに何か考えがあるのだろうと思って、ノーランさんにお辞儀だけして、ダニエルを追いかけた。
ノーランさんはあっけにとられた顔をしたまま、応接室の扉が閉まるのをじっと見ていた。
「一週間であの男の目が覚めればいいがな。」
「どうしてあの人の魔法量を聞いたの?」
いやに唐突に質問したような感じを受けたけど…。
「仕事が見つからなかったら、念話器の魔電池代わりに使えるかと思ってな。」
「魔電池?」
「ああ、魔法量が少ないものでも念話器を使えるように改良したんだ。試作器をコールたちに使ってもらってて、不具合がないようだったから、今度売り出すことになった。あの男でも、電池に魔力を込めることぐらいはできるだろう。」
…ノーランさん。
評価、
まぁ、セリカから見ても、しっかりしている大人の男の人には見えなかったけど…。
いい人そうでは、あるんだけどね。
一週間後、どうなるのかしら…?
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